鉄鍋は錆びやすく重たい。二十世紀を通してデザインは生活の不便さを解消し、面倒から人びとを解放することに力を注いだ。気配りの行き届いた道具は、だれもが手軽に使えるようになった半面、道具と用途を一対一の退屈な関係に押し込めた。
釜定の洋鍋は、二十世紀のデザインの趨勢に反して潔い。まず蓋がない。鍋を持ち上げるときは、熱くないタイミングを見はからって木の取手を差し込む。使用後は、すぐに洗って乾かす。面倒の対価は、鉄が蓄えた熱で調理した食材の味わいと、道具と創造的に付き合う楽しみだ。伝統的な南部鉄器とモダンなフォルムの融合は、発売から三十年以上を経てもなお魅力的である。
池田 美奈子Minako Ikeda
和洋を問わずあらゆる調理に対応出来るような形状をもち、取手に木材を使用することにより鍋を持ち上げる際に熱くなく、また取り外しが可能であることから調理の邪魔にならない機能性を考慮して、南部鉄器の技法を用い製作されている。