外周を低い庇でぐるりと囲み、その中に集落のように居室を配した特別養護老人ホーム。田園地帯の水平な景色の中、その佇まいは風景の一部のようになじんでいます。延べ床面積が4000㎡を越える大きな建物ですが、木造建築としての心地良さ、中庭を介したほどよいスケール感が空間に備わっています。
入居者も介護スタッフも、この地で生まれ育った方々とのことですが、このように伸びやかでゆっくりした時間の流れる空間ならば、都会からもここを終の棲家にしたいと希望される方がいるのではないかと思います。今後ますます、高齢化が進む日本の老人ホームとして、見習いたいデザインです。
日野 雅司Masashi Hino
えびの涼風園は「風景と対話する」というコンセプトのもと、要介護度3~5の方を対象とした特別養護老人ホームです。敷地は宮崎・熊本・鹿児島の県境、四方を霧島連山などの山々に囲まれたえびの市の市内から少し外れた、田んぼと川に挟まれた場所です。この地の大きな特徴は、季節や天候により風景が劇的に変わることです。例えば春の稲作時には水が引かれて周囲は湖のようになり、秋の収穫時には田は黄金色に、山々は真紅に染まります。 入居者の多くはこの地に生まれ育ち生活を送ってきた人たちなので、彼らの人生の最後のときを、この地の独自の自然に抱かれてゆったりと穏やかに過ごすことができる施設です。