受賞発表にあたり
今回のグッドデザイン賞では、これまでになかった取り組みとして「インタラクション」と「仕組み」という視点に立った特別な審査を実施しました。
私は、デザインそのものの意味がこれまでと大きく変わったとは考えていません。しかし、デザインと産業との関わり方は、とても大きく変化していると考えています。特に日本では、産業の基本的なあり方が急速に変化しています。
ものづくりであれば、特定の機能や目的をもった製品を生み出すという営みは変わらずに続いていますが、それによってもたらされる利益や価値・良し悪しを、単にその製品カテゴリーの中だけで判断するのでなく、環境や公共性といった観点からも計るようにしなければ、社会に認めてもらえない状況になっています。それとともに、“社会に認められるものを生み出していくために、なくてはならないものをつくる”ことが、日本の大事な役割となっているように思います。実際にこれまでも、技術や部品など、そういった世界的にみて重要な役割を日本が担ってきた面もたくさんあります。
新しいものを生み出すだけでなく、これまでにあるものや、社会の中ですでに一定の機能を担っているシステムどうしを組み合わせたり、それらを読み替えることで新たな利得を生み出そうとする動きも活発になっています。
産業がこのような変化を遂げている状況に対して、いまデザインがどのように関わるべきなのか。デザインは産業の変化をより好ましい方向へ導くとともに、私たちの暮らしを真に豊かなものにできるのだろうか。そのように考えたときに、グッドデザイン賞が「インタラクション」と「仕組み」という視点を通じて評価する意義が生じたのです。
「インタラクション」は、デザインの分野ではハードやソフトの操作性や応答性など、ユーザーインターフェースに関することと捉えられがちですが、今回の審査ではそれよりもっと広義に捉えるようにしました。つまり、ものごとの核となる部分が、どれだけユーザーや生活者に対して開かれ、働きかけられているのか。お互いを豊かに広げあうことができる関係性が構築されているのか。そういうより根本的な意味での相互作用性として位置づけました。
そして「仕組み」とは、そうした相互作用性を土台にしながら、人々とものごととの結びつきがよりスマートでストレスのないものになっていれば、それはよくできた仕組みであって、人々が使いやすいと感じられるという評価が成されることになります。
こうした視点に立ってデザインを掘り下げることは、ものごとに潜む見えにくい価値にまで目を向け、それを伸ばしていくことにつながります。私は今回のグッドデザイン賞で重視すべきテーマとして、美しさと使いやすさを挙げました。いずれも、ものの姿やかたちを見ているだけで計れるものではありません。産業や経済の動向、社会の趨勢などを読み取りながら導き出すという決してたやすくはないプロセスを伴います。しかし、そこに積極的に目を向けていかなければ日本のデザインは広がらないし、いまデザインが進もうとしている新たな動きをキャッチアップすることができません。グッドデザイン賞は、社会が求めているデザインに備わる美しさ・使いやすさとはどのようなものであるかを人々とともに考え、共有していくための道標になるべきだと考えています。
一方で、長い間に培われてきた人々の感覚や行動に沿うようなデザインのあり方も美しいものだといえます。人々がデザインと言われたときにイメージする部分に自然に合致するデザイン、暮らしの中で大きく変わらないでいいようなデザインの像には、人々の信頼に裏付けられた素直な美しさが備わっています。グッドデザイン賞はそのようなデザインに対する敬意の目も忘れることはありません。
時代が求めるデザインと、時代とともに生かされてきたデザインがともにグッドデザイン賞という運動のもとで社会に伝わることで、私たちの暮らしの基盤となる真の美学がもたらされると信じています。

深澤 直人
2012年度グッドデザイン賞審査委員長