受賞発表にあたり
私たちが美しいものごとに気持ちを惹かれるのは、それらが単独で美しいからでなく、そのものごとからさらにそれを取り巻く周囲を想像して、全体の釣り合いの美と、そうした全体状況を生み出した妙技に心を打たれているのだと言えます。
デザインは人とものと環境の関係の美しさのことであると考えます。グッドデザイン賞の審査では、すべてのものごとが関連して全体で美しさを醸し出しているのを見出すことが問われます。たとえ単独で強い美しさを発しているものや、人の目に留まる気配を発しているものであっても、それらが使われる環境や状況との関係において美しいかどうか、存在自体がその場に相応しいかを慎重に見極めなければなりません。
今回のグッドデザイン賞の審査会場を見渡したとき、けばけばしい、いわゆる悪い意味でのデザインは少なく、むしろ静かな感じを受けました。技術の進化は機能の発達とともにものの姿を小さくさせるか、あるいは空間や建築物に取り込んでいくという必然的な過程を辿ります。姿は消えても機能は残るので、その機能の使い方を考えること・人と機能の関係を考えるのがデザインである、というデザインの存在意義の変化もまた必然であると言えます。
姿を消しつつあるものの機能や使い勝手を審査するのに、一瞬の見た目では判断が難しくなってきています。使い勝手のよさをもたらしている要素を深く探っていくことや、使い方の心地よさ、それらを成す仕組みにまで目を向ける必要がありました。
デザインとは具象化されたものです。その具象化されたもののよさを感じとる感覚はすべての人に備わった生態的な機能であって、多くの人がどこかで暗黙のうちにそのよさを共有しているように考えられます。そしていまでは、複雑化する社会、めまぐるしく変化する産業や経済の構造、著しい技術の進化のなかにあって、なお全体の調和を導くことこそがよいデザインとして受け止められるのではないでしょうか。
グッドデザイン賞はその暗黙の共有をあらためて皆で自覚し合う場です。そこでよいという感じを受けるものごとは、その周りとの関係がうまく釣り合っているからであり、ものごととして存在する意義自体に納得ができているのです。
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深澤 直人
2013年度グッドデザイン賞審査委員長