GOOD DESIGN AWARD | GOOD DESIGN COMPANIES ~グッドデザインを生み出してきた企業の物語~

第2回 日置電機株式会社「外部の評価とともに、自社のデザインをつくり上げていく」

昨年創業80周年を迎えた、長野県上田市に本社を置く計測器メーカー、日置電機。1985年以来、グッドデザイン賞に毎年応募を続けるなかで、機能面とデザイン面、トータルの品質向上に努めてきました。計測器というプロ向けの製品におけるデザインについて、そしてグッドデザイン賞に応募する意義について、同社の執行役員 品質保証部長 竹内勝広氏と、デザインを担当されてきたプロダクトマーケティング部 営業企画課 販売促進グループ 係長 尾沼誠司氏、技術4部 技術10課 係長 田中幸一氏にお話を伺いました。

2016年度グッドデザイン賞を受賞した「ACフレキシブルカレントセンサ CT7040シリーズ」。交流電流を測る非接触式センサ。電力や電源品質の専門的な測定に用いられる。コンパクト性と防塵防水構造を備えた高い機能性、それを実現するため複数の種類の樹脂・2本のケーブルを一体成型したという高い技術力が評価された。

2016年度グッドデザイン賞を受賞した「AC/DCカレントプローブ CT6845, CT6846」。直流・交流電流を高精度に測定できる開閉型の電流センサ。現場の状況や作業者のニーズが人間工学的に解決されており、危険性を内包する機器のリスク回避を黄色とグレーの配色で行うなど視覚効果も活用した総合的な高い完成度が評価された。

2016年度グッドデザイン賞を受賞した「電圧計付検相器 PD3259」。世界初の金属非接触電圧センサを三本搭載した電圧測定機能付き検相器。製品サイズやインターフェースへの配慮、そして電気工事現場での感電危険性をゼロにしただけでなく、心理的意味合いと工数の両面で作業負荷軽減に大きく貢献した点が高く評価された。

“外部の評価を受けることの意義

グッドデザイン賞に初めて応募されたのが1985年ですが、応募の動機について教えていただけますか。

尾沼 平野デザイン設計の平野拓夫さんに講演に来ていただいた際に「グッドデザイン賞というのがあるので、日置電機も出してみたらどうか」と薦められたのがはじまりです。当時は社内にデザイン係を設置してまだ2、3年目くらい。デザイナーもふたりだけでした。それまでは、外部のデザイナーにお願いしていましたが、当時の社長が技術的な目線だけでものをつくるのではなく、デザインの質も上げていくべきだと考え、社内にデザイン部門を設置したのです。

プロダクトマーケティング部 営業企画課 販売促進グループ 係長 尾沼誠司氏
技術4部 技術10課 係長 田中幸一氏

1985年以来、毎年グッドデザイン賞に応募されていますが、応募する意義をどのように考えていますか。

尾沼 まず、社内的なデザインに対する意識の向上ですね。続けて受賞することで、デザインの重要性を他部門に認識してもらえますし、自社の製品デザインが良くなってきたと全社的にもわかってもらえます。社内での自己評価というのはやはり難しいので、外部の正当な目で評価していただくのは意味のあることです。
もう1つは、企業自体の認知度アップ。計測器業界でグッドデザイン賞にこんなに続けて応募している企業はありませんし、連続して受賞することで、認知度とともに信頼もアップしてくるのではないかと期待しています。

 

田中 開発の最初の段階からグッドデザイン賞をとるぞと思ってやっているわけではなくて、使いやすいものや、ユーザーに喜んでもらえるものを目指した結果として、グッドデザイン賞をいただいたという感じです。ただ、グッドデザイン賞の審査項目などは、開発の指針・指標になっていて、常に意識してデザインすることで、良い製品になっていくと思います。言い換えると、応募書類にすんなり記入できるものは、やはり良い製品なんです。だから、結果論ではないところ、開発のプロセスにおいて、グッドデザイン賞を活用させてもらっているとも言えます。

 

尾沼 応募段階で設計部門にも応募書類の草稿を回しますが、そこで自分たちがどういう想いで製品づくりをしているかを見直すことになります。開発とデザインが一貫した考えで動けているかどうかを確認できる。これもグッドデザイン賞のメリットですね。

2015年度グッドデザイン賞を受賞した「メモリハイコーダ MR8827」。システムラック内におさまるコンパクトさでありながら、モジュール式の入力ユニットの構成により、同時最大92chまでの測定に柔軟に対応できる波形記録計。機能の向上と人間系を総合的にデザインしている点が高く評価された。

2015年度グッドデザイン賞をp受賞した「AC/DCクランプメータ CM4371, CM4373」。電線を囲むことで非接触で安全に電流を測ることができる計測器。先端に向かって筐体断面の周長が連続的に増加するような形状をとり、また手指の触れる筐体側面に沿ってラバー素材を配し、グリップを高めている。計測器としての基本的な性能の高さに加え、機能、使われ方への配慮が行き届いた、優れたデザインであると評価された。

デザイナーがどこまで踏み込むことができるか

カタログを見せていただくと、かなりの製品数になるようですが。

田中 主要なものだけで1,000はあります。基本的にすべてにデザイナーが関わっています。例えば、エンジニアがポンチ絵みたいなのを描いて「こんなことをやりたい」というようなごく初期の段階で、デザイナーが呼ばれることもありますし、開発が進んでからはプロダクトデザインレビューと画面まわりを見るUIレビューというのがあって、要所ごとに随時デザインを確認していきます。

 

竹内 例えば、電流センサなどは、機能面がそのまま外観に出てきがちなんです。そういった場合、どこまでデザイナーが踏み込めるかが重要だと思います。ある程度出来上がったものに対して「まあこんなもんだろう」とやると、あまり良いものにならない。確かに機能美みたいなものはありますが、それが決して使いやすいとは限らないんです。エンジニアが良いものを追求しているなかで、そこにちゃんと意味合いを見つけて、さらに使いやすくする。それがデザイナーとしての本来の仕事だと感じています。

執行役員 品質保証部長 竹内勝広氏
2014年度グッドデザイン賞・未来づくりデザイン賞を受賞した「電圧センサー PW9020」。従来の電圧測定は露出した金属端子に測定端子を当てることで行われており、操作を誤ると簡単にショートが起こり、ブレーカーを落としてしまう事故につながっていた。本製品は金属端子ではなく、ケーブルをクリップするだけで電圧測定を可能にしている。

今、社内のデザイナーが4名だと聞きましたが、とても大変そうです。

竹内 日々仕事に追われている感じですかね(笑)。年間に40機種くらい製品開発するのですが、そのすべてにどこまで関わっていけるか、デザインのロードマップをどうつくっていくかが、日々葛藤しているところです。

「日置電機のデザイン」をつくり上げていく

製品デザインにおいてブランディングは意識されていますか。

尾沼 しますね。当社の製品はいくつかのカテゴリーに分かれているのですが、いちばん視覚的にわかりやすいのが現場測定器のカテゴリーで、数年前からキーカラーを決めています。もちろん色に意味を持たせて、それを使う部位や形にも意味づけをして、新製品に反映していく。それを粛々と続けることでブロダクトのブランディングにつながると考えています。

 

田中 計測器の場合、寿命が15〜20年ですから、市場にあるものがすぐに置き換わるというものではありません。計測器は基本的にプロが使う機器なので、見た目の飾り的なことはやらずに、機能をシンプルに表現することが大事だと考えています。

竹内 電気計測器ですので、品質が非常に重要になります。安全性や測定値の正しさ、耐久性、堅牢性など、どうやって高い品質をもった商品をお客様に届けるか。この部分でデザイナーとエンジニアとの間で議論を続けていくべきです。要求品質を満たすためにもっとこうしたらいいのではないか、機能的にそこまで必要なのか、やりすぎじゃないのかと。そうしたなかで「日置電機の商品は一定の高い品質レベルを担保されている」というお客様の認識につながっていければと思いますし、そこにデザインの重要性を感じます。

最終的には日置電機のデザインとは何かというデザインフィロソフィーにつながるような動きですね。

竹内 そうです。最近になって「日置電機のデザインはこれだよね」という共通認識が社内で持てるようになってきていますので、それを標準化するというか、思想的なところに高めていければと考えています。
日置電機の理念に「人間性の尊重」があります。これは日置電機で働いている社員ひとり一人が、未来に向かって果敢に挑戦をして成長することを意味します。その取り組みをした結果として、お客様や社会に満足してもらえるような評価をいただければこんな嬉しいことはありません。グッドデザイン賞は社会から受ける評価の最たるものです。継続的に受賞することで、デザイナーだけでなく開発者、そして会社全体にとってもモチベーションなりますので、これからも応募を続けていくと思います。さらにこれからはグローバルで見た日置電機の立ち位置というのも見ていきたい。そのためには海外のデザイン賞などにも目を向けて挑戦していきたいと思っています。

左から、竹内勝広氏、田中幸一氏、尾沼誠司氏。
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