グッドデザイン賞受賞概要

2019年度|審査ユニット総評

本年度のグッドデザイン賞の審査も、領域別に応募対象をグループ分けした「審査ユニット」ごとに審査が行われました。各ユニットでの審査を通じて見られた傾向や特徴、領域ごとのデザインの状況や課題をまとめました。

濱田 芳治

プロダクトデザイナー

01-01 装身具・身につけるもの、01-02 衣料品、01-03 ヘルスケア用品、01-04 衛生用品、01-05 美容機器、器具、01-06 スマートウォッチ

ユニット1のカテゴリーは「身につけるもの、ヘルスケア」。眼鏡、腕時計、バッグ、ウェア、紙おむつ、ドライヤー、美容・マッサージ関連機器など、アイテム毎に求められることは大きく違っているものの、総じて商品開発の要件として考えておくべきことに変化が見られる。共通して求められるのは、道具としてのユーザビリティを基にしたつくり込みである。とりわけこれまで市場にない新しいアイテムを提案する場合には、斬新なアイデアや機能があるにしても、ユーザー目線で検証を重ねてつくる姿勢を大事にして欲しい。ヘルスケアをはじめとする人の身体との関係が密なアイテムでは、機能・効能面での信頼に足るエビデンスが取れていること、そしてそのデータがユーザーにわかり易い形で示されることが大事になる。商品開発の要件として大きく舵取りの必要なことは、より一層の環境負荷を減らす工夫や配慮だろう。消費型社会から循環型社会への移行期にある今、リサイクル材、自然に還る素材利用の推進、また「大事に長く使ってもらえる商品をつくること」を今一度開発の軸に据える必要がある。
諏訪田製作所の爪切り(19G010055)では、切れ味を継続的に保つ構造工夫を行い、研ぎ直しのサービスまで含めて提案している。良品計画のタオル(19G010056)は、継続して長く使っても機能劣化の少ないパイル長で敢えて標準化を図っており、こうした使うモノがユーザーの意識を変えていくような、商品やサービスの提案が出てきている。モノ提案からコトまで含めた提案、ユーザーの体験に比重を置いた商品の提案が、ユニット1でも多くなってきている。子育てをサポートする視点、災害に備える視点、私らしさを演出・応援する視点など。気候、社会環境の大きな変化が生じている昨今、ユーザーの生活を支え、安全・安心をつくるためのモノやサービスの提案は、益々求められており、従来、使えればそれで十分とされてきた道具にも、そうした波は生じている。社会に広く好影響をつくる共振力のある商品提案を今後も期待したい。

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三宅 一成

デザイナー

02-01 育児用小物、装身具、02-02 家庭用育児用品、02-03 文具・事務用品、02-04 教材・教育用品、02-05 玩具

このカテゴリーは、育児に関わるものや教材などの子ども用品、また文具や事務用品が対象である。その商品は比較的フィジカルな要素が重視されるものが多く、技術的にも成熟した分野が多い。それゆえに、もの単体で良し悪しが判断されるものではなく、そのものが人に対してどのように介在するかが一つの大きなポイントである。

例えば、ベスト100に選出された「ノンスリップアルミ定規」(19G020123)は、人が定規を使う状況が非常によく考えられたデザインである。カッターで紙をまっすぐに切る際、しっかりと押さえて切る場合は裏面に滑り止めがついているものが使い易い。しかし連続して何箇所かを切る場合は逆に定規を滑らせて使う。今までは相反していて両立を諦めていたことが、定規の裏面を斜めにカットするという一見簡単だが周到なアイデアによってさりげなく達成されており、一連の行為が非常にスムースに行えるようにデザインされている。 同じくベスト100に選出された「工作生物 ゲズンロイド」(19G020141)は、工作というものの価値を再定義したデザインである。今まで存在していた工作をデジタル化するというアプローチではなく、工作ということをゼロから考え、今の技術も含めて考えるとどのようなものになるか、ということが具現化されており、「作る、遊ぶ」ということの価値が美しく表されている。

このカテゴリーに代表されるこれらの製品は、機能、安全性、使いやすさ、そして見た目の美しさ、どれもが高いレベルでバランスがとれているだけでなく、そのものの価値が何かということが、わかりやすく表現されている。つまり、この定規は紙を切るための物体をデザインするだけではなく、「紙をまっすぐに切る」そのものがデザインされている。ゲズンロイドも「作って遊ぶ」そのものがデザインされているので、デジタル化が嫌味でなく自然に商品の一部になっている。

製品をとりまく環境が大きく変化し、教育のあり方も大きく変わった。その世の中において、このようなフィジカルな要素が重視される分野の商品でも、デザインとは形を具体化するということではなく、価値を具現化するという行為のことを表すようだ。

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山田 遊

バイヤー/監修者

03-01 スポーツ用品、03-02 レジャー・アウトドア・旅行用品、03-03 ホビー・ペット用品、03-04 スマホ・パソコン・カメラ関連アクセサリー、03-05 園芸用品、03-06 音響機器・楽器

ユニット3はレジャーやホビーの分野を扱うが、今年はグッドデザイン賞全体と比べても高い通過率となった。近年、音響機器・楽器の領域が含まれて以来、このユニットの通過率は相対的に上がる傾向にある。また、二次審査は中国・香港、台湾、韓国でそれぞれ実施されるため、日本での二次審査対象の総数はそれほど多くない。つまり、家電分野のユニットなどと同様、特に音響機器、また、スマホ・パソコン・カメラ関連アクセサリーなどを中心に、このユニットの領域においても、中国をはじめアジア諸国からの応募が徐々に増えてきていると言えるだろう。

二次審査全体の印象として目立った分野としては、まず、レジャー・アウトドア・旅行用品。特にアウトドア用品については、株式会社スノーピークをはじめ、各社から多数の応募・受賞があり、近年の人気の高まりに伴い、市場が盛り上がっていることを改めて感じさせる結果となった。そして、ペット用品と比較しても、園芸用品の分野が今年は健闘しており、こちらも現在のトレンドを表していると言える。最後に、今年の音響機器・楽器の分野は、応募・受賞共に、非常に充実した内容であった。対して、来年、東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えているにも関わらず、スポーツ用品については応募・受賞数自体、共にあまりふるわず、少々寂しい結果となった。また、旅行用品や、スマホ・パソコン・カメラ関連アクセサリーの分野については、市場自体が成熟期・過渡期に入っている印象を受けた。

最後に、このユニットから今年のベスト100に選ばれた製品に見られる特徴としては、長年、定番だった製品や、前機種から、細部に渡るまで大幅に見直しを行い、ポジティブなリニューアルを果たした製品が多く見受けられた。過去の遺産の良い部分は残しつつ、時代に合わせて変える部分は、しっかりと更新していく。今後の製品開発に、このような姿勢はより必要とされていくことだろう。

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川上 典李子

ジャーナリスト

04-01 キッチン用品、調理器具、食器・カトラリー、04-02 日用品

キッチン、生活雑貨が審査対象であるユニット4では、身近なものを通して企業やデザイナーの生活に対する様々な視点を見ることができる。木工、陶磁器、金属加工を始めとする全国の産地からの応募も多く、継承されてきた素材や技術を生かすべく積極的な取り組みを展開する中小規模の企業の健闘ぶりがうかがえるのも特色だ。地域社会と産業に関する現状、課題もさまざまに浮かびあがってくる。
ものづくりの歴史を誇りながらも産業として苦戦する産地が少なくないなか、デザイン、開発を通して地域の潜在力を引き出し、産地の活性化や市場の拡大を現実のものとしている取り組みがあり、評価したい。うつわのデザインに始まり、地域の状況を大きく変えた有田の事例はデザインが切り拓いていける可能性をまさに示すものといえる。(1616/arita japan)(19G040228)
複数の産地と質の高いテーブルウェアを目ざした企業のプロデュース力とデザイナーの力を知る HIBITO (19G040229)、歴史あるものづくりの知恵を再構築していく取り組み hibi 10MINUTES AROMA (19G040231) などは、今後の可能性を示唆するプロジェクトである。また、現代生活のなかで家事や日常的な作業の負担を軽減する提案も幅広く寄せられ、その一例が、解決策においても「美しい」あり方が可能であることを知る、やくさじ (19G040230) である。他に、自社の強みを活かしつつ継続されている大手企業のきめ細かな製品開発も注目したい事例だ。(洗えるクッキングスケール)(19G040269)
ユニット全体を通して感じたことは、企業の技術や産地の技術等を集結してより良い生活を目指す取り組みと、プロダクトとしての姿と、双方のバランスのうえでの提案が従来以上に目にできたことである。その背景として、ものが用いられる環境を思い描き、現実的な状況に軸足を置いた製品開発が増えていることが挙げられるだろう。一方でその探究の余地が惜しくも残されているものも見受けられ、審査の過程で最も時間を費やした議論も、取り組みの意義はもちろん、使用者に対する配慮とともにプロダクトとしての望ましいかたちや佇まいが細部に及んで実現されているかどうかについてだった。その双方を実現してこそ共感を得られるものとなり、共振性を伴うものとして存在しうる。本質的なところでの美しさの重要性を忘れることなく、身近な品々のデザインの可能性をさらに考えていきたい。

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安西 葉子

デザイナー

05-01 生活家具、05-02 清掃用品、05-03 家庭用福祉用品・介護用品、05-04 防災用品、05-05 寝具、05-06 神仏具関係用品

ユニット5は、掃除ブラシのような小さな道具から防災関連用品、介護用品、大型家具まで日常的に使用する大小様々なものが審査の対象である。
企業規模も多種多様で、B to Bビジネスがメインで、はじめて一般ユーザー向けの製品を手がけるような会社から、日用品全般を広く扱う会社までがひとつのテーブルに横ならびとなる。最先端技術をつかった最新機器、というわけにはいかないものたちが、どのようにして「さらによきもの」を目指して商品開発されてゆくか。その道のりは決して楽なものではなく、各社様々な方向性と思想のもとに商品開発を行っているのが印象的だった。

災害が起こることを前提とした優れた防災用品が多くみられたことは頼もしく、私たちの生活の一部になっていくことを期待する。またサスティナブルの視点からパッケージを大きく改良し、ゴミを減らす企業努力が見られたのもよかった。この点については他の追随を大いに期待したい。家具の分野では、特にシェルフの優れたものがみられ、メーカーが長年培ってきたマテリアル技術が集約されたものや、何十年もモデルチェンジをしないで愛されてきたものが、その見た目のデザインを一切変更しないで、スマートな照明システムを取り入れアップデートしたものなど、他企業にとっても開発のお手本となるようなものがみられた。

その一方で今年の審査を通して何度も議論されたのが機能は優れているが「なにか」が足りない製品がいくつかみられたことだ。充分すぎるスペックを持っているのに大切ななにかが欠けている。それは美しさだったり、愛着がもてるかどうかだったり、モノとしての魅力だったり、親しみやすさだったり。やや曖昧な言葉でしか表現できない部分ではあるが、じつはモノと人をつなぐ大切な機能のひとつで、その細かい蓄積が将来の文化や芸術となっていくものだと考える。

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鈴木 元

プロダクトデザイナー

06-01 調理家電、06-02 生活家電、06-03 空調家電・機器

ユニット6の審査対象である家電は、テクノロジーと生活文化との交差点に位置している。歴史を振り返ってみても、高速で前進を続けるテクノロジーと、伝統を乗せてゆっくり進む生活文化とはあまり相性の良いものではない。二つの世界が衝突しないように、家電のデザインには高いバランス感覚が求められるが、近年急速にネットワーク技術が進歩したことで、以前にも増して様々な分野の交通整理が必要とされている。今年の審査会を俯瞰してみても、プロダクト単体での完成度に加え、サービス、ネットワーク、空間など周囲との関係が滑らかなもの、またデザインの力で新たな接点を作り出そうとしているものに評価が集まった。

スマートコーヒーメーカーのGina(19G060302)は、ネットワーク化するプロダクトのあり方を示す好例である。プロダクトがネットワークに接続されると、すべての機能をハードウェア側に持つ必要がなくなり、プロダクト自体は軽やかになる。必要な機能を、人とプロダクトとネットワークとでどのように再分配するかが、これからのデザインの大切な要素になるのだろう。テクノロジーの分量を適切に分配することで、今後ハードウェアは道具本来の原型性を取り戻していくのかもしれない。

日立の空気清浄機EP-PF120C/90C(19G060360)やバルミューダ、ザ・ピュア(19G060359)は質の高いデザインと、きめ細やかに作り込まれた操作音や光などの振る舞いによって、心地よい体験を実現している。デジタルとフィジカルが混ざり合う時代になり、ハードウェアに改めて注目が集まっているが、実際に手で触れられるプロダクトがブランドの思想を体現し、人や環境とどのような均衡を作り出すかというところにデザイナーの力量が試される。

これまでにない製品を生み出そうとする新たな息吹も、いくつかの提案から感じることができた。三菱電機のブレッドオーブンTO-ST1(19G060310)は、大企業の保守性を打ち破る意気込みを感じさせる力作であるし、中⻄⾦属⼯業の家庭用冷凍ゴミ箱Clean Box(19G060335)は、製品だけでなく、デザインの力で新規事業を切り開くプロセスも特筆に値する。時代を反映してか、日本からの家電の応募は減少傾向にあるが、このような力強く瑞々しい萌芽が、多層化する交差点上で花開いていくことを期待したい。

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片岡 哲

プロダクトデザイナー

07-01 カメラ・携帯電話・タブレット、07-02 映像機器、07-03 一般・公共用情報機器、07-04 業務用放送・音響機器、07-05 業務用情報機器

情報機器を審査するユニット7は、PC、スマートフォン、デジタルカメラ、TV、複合機等、先端技術を用いながらもかなり成熟度の高い製品の集まるユニットであり、工業デザインとしては非常に完成度の高いものが毎年数多く応募される。
今年の特徴としてはなにより、デジタルカメラ業界におけるミラーレスフルサイズ化の波が挙げられる。各社それぞれの特徴を生かした個性的な、そして完成度の極めて高い製品が百花繚乱したことにより、日本が誇るカメラ業界の基軸が変わる、大きな節目の年だったと思う。その他のカテゴリーにおいてもモノづくりという意味では文句のつけようのない完成度の高い製品が数多く見受けられたが、“美しさと共振力”という今年のテーマをあてはめてみた時に、今の日本のムードでもある“正しさ”のようなものがより多くの共感を得たように思う。
色や形だけでなく、考え方や取り組み方、解決方法に対しても美しさ、デザインという観点で見ていくという業界の潮流の中で、その製品がどういうメッセージを持っているのか、そのメッセージがカテゴリーの内外へどの様に波及していくのか、それは正しい事なのか、というポイントが審査を進める過程で解像度を増し、評価を分けていった。
結果、以前なら当然高い評価が与えられるような完成度の高いものが平凡な評価に留まったり、ものとしてのデザインを超えた美しく正しいメッセージに対してより高い評価がされたり、日本語の“デザイン”という言葉の意味や価値が大きく変化した今の時代を反映する結果であった。
しかし、形あるものは形の美しさを、形なきものはなそうとする事の価値を、同じ土俵で評価することの難しさを改めて感じた1年でもあった。それがグッドデザイン賞の特徴でもあるのだが、領域を越えても共有すべき評価のポイントとは何か、という事をこれからも問い続ける必要があると感じた。

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寳角 光伸

プロダクトデザイナー

08-01 住宅用照明機器、08-02 住宅用空調機器・設備、08-03 住宅用建材・建具、08-04 住宅用内装用品、08-05 住宅用外装用品、08-06 住宅用キッチン、08-07 浴室・洗面・水回り、08-08 住宅用機器・設備

確実性・耐久性が優先される住宅設備・建材の分野は、新規技術の採用や新カテゴリー製品の市場導入はなかなか進みにくい分野である。そのような市場環境においても、従来商品の技術改良と市場変化への対応を怠らずに地道に開発を進められた製品が多く応募されていた。
住宅設備・建材の製品開発でよく使われる言葉に、“空間に馴染む”と、建築用語の“納まりが良い悪い“という表現がある。”馴染む“はモノから見た周辺環境への存在適応の度合いを表現し、”納まり“は空間構成要素の一部材として他部材との取り合いや、空間の中での適正な仕上がり度合いを表現する。モノからと、空間からの視点の違いである。
これまで住宅設備・建材の多くは工業化・プレファブ化が進む過程で、本来の素材感や伝統的な納まりの多くを継承せずに、効率優先の独自のスタイルを確立し進化してきた。しかし近年の住空間における自然志向へのニーズの変化から、今一度工業化の中で失った“納まり”や素材感を追求する気運になっている。
今年度のこのユニットでは、既にモノからの視点の“馴染む”を通り越して、空間の中の一部材としての製品、素材・製造・構成から再考された“納まりが良い”製品を目指したものが多く出展され、この分野ならでは、の新たな製品の成り立ち方が生まれようとしている印象を受けた。
また一方で、工業化・プレファブ化の順当進化ともいえる取り組みも多くみられた。工場生産と現場施工の境界・比率の見直しと、潜在的な住空間での問題抽出・解決を合わせて、単なる効率追求ではない高度な工業化を進めた製品もあり、この分野の今後の可能性を感じた。
住空間を形成するモノとして、カタチや機能だけでなく、どう在るべきかを考えた製品がこれからも多く開発され続けることを期待する。

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菅原 義治

デザインディレクター

09-01 乗用車、09-02 乗用車関連機器、09-03 業務用車両、09-04 業務用車両関連機器、09-05 自動二輪車、09-06 自動二輪車関連機器、09-07 パーソナルモビリティ・自転車、09-08 パーソナルモビリティ・自転車関連機器・商品、09-09 鉄道、09-10 船舶、09-11 航空機、09-12 移動・輸送システム・サービス(ロジスティクス・物流)

ユニット9は、デザインを通して人の暮らしに豊かさを与え、社会課題に向きあう「移動に関するモノ·コト」が対象だ。自動車や鉄道、船舶等に加え、車載診断デバイスや自動運転支援システム、MaaS アプリなど、見えないしくみやシステム、ソフトまで含め、時代性と多様性に富んだモビリティのデザインが集まる。モビリティが社会課題の解を担う重要なプレーヤーとして注目を集めるなか、今年は20 世紀型の価値観を塗り替える革新的提案が散見された。マーケティング偏重や、コスト·機能重視の姿勢を根底から見直し、移動そのものの本質を鋭く射貫いた、丁寧で優しいデザインである。またデザインの成熟度を評価する一方、グッドデザイン賞を通じて広く一般認知を促すことで今後のメインストリームになり得る、将来性と可能性あるモビリティデザインについても高く評価した。
以下、具体的な審査指針である。
・移動への欲求に対して、その本質を見極めてデザインされたものか
・多様化する社会で、持続可能な移動や質の高い移動をデザインで解いたものか
・生命との共存が図られ、身体面または心理面の課題解決が図られたものか
・老若男女、誰がみても新しいモビリティと認知され、共感·共有できるものか
・新しい移動の体験価値を提供し、効率や利便を超えた悦びに繋がるものか
・将来の都市や人、社会を美しく彩るデザインとして相応しいものか

モビリティの悠久の歴史と共に歩んできたそのデザインは、今や成熟の域にある。現代のモビリティデザインには重い制約と条件が課され、過去のようなロマンや夢だけを追求したデザインはもはや困難だ。だからといって、モビリティの未来が利便と効率、実用と合理をテクノロジーで解くだけのものであってはならない。人間の移動への欲求は、抑制はできても完全に無力化することはできない。移動という行為は、人類が進化·発展してきた歴史と不可分であり、移動への欲求は人間の性だからだ。従って移動は本質的に、義務や機能目的のために行われるものではなく、むしろ衝動的、エモーショナルなものなのである。その移動を叶えるモビリティは、人のエモーションに寄り添いながら、人類の発展に大きく寄与してきた。だからこそ、まさに100 年に一度の変革期といわれる今、モビリティは心に強く響くデザインを持たなくてはならないのだ。その兆しはモビリティから選出されたベスト100 受賞作品にも見ることができる。優しい未来社会の創造にむけたモビリティデザインのこれからに、大いに期待が持てる。

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安次富 隆

プロダクトデザイナー

10-01 業務用装身具、10-02 工具・作業用機器、10-03 農具・農業用機器、10-04 生産・製造用機器・設備、10-05 医療用機器・設備、10-06 素材・部材、10-07 生産・製造技術、10-08 研究・実験用機器・設備、10-09 その他医療・生産プロダクト

今年度は、産業/医療現場における専門家の人手不足を補う試みが数多くみられた。
専門家の人手不足の原因の一つに、少子高齢化がある。たとえば医療現場では、ケアや治療を必要とする高齢者人口の増加に対して、医療従事者の供給が追いつかなくなっている。一般的に、産業/医療現場の機器設備を扱うためには、高度で専門的な知識と経験が求められるが、熟練者の育成には時間がかかる。そのため、専門的な知識や経験なしに熟練者と同等の作業が行える道具の開発に力が注がれるようになったと思われる。
クボタの田植機「ナビウェル」(19G100733)は、高度デジタル技術を活用し、特別な技術なしに、株間や施肥量、直進走行の保持を可能にしている。吉田製作所の根管内カメラ「ナノピクト」(19G100749)は、根管最深部の観察を可能にすることで、熟練した感覚に頼らず根管治療が行えるよう考えられている。富士フイルムの超音波画像診断装置「iViz air」(19G100757)は、在宅医療における尿量検査を簡単に確実に行えるようにし、キヤノン電子の歯科用ミリングマシン「CE-TOWER MD-500」(19G100777)は、手仕上げ不要の歯科技工を実現している。これらは全て、先端技術を取り入れて問題解決を図っている事例である。それに対して、富士フイルムの診断キット「結核迅速診断キット」(19G100752)は、写真現像の銀増幅技術を活用し、先端技術を用いた機器と同等の確率で結核菌の有無判定を可能にしている。これは、結核患者の多くが暮らす、高度で高額な機器の導入が困難な開発途上国の事情を鑑みた優れた解決策と言えよう。
道具は常に人の能力の限界を補うために進化してきた。専門家の人手不足を背景とした今年度の産業/医療現場における機器設備の進化は、その極みを目指しているように見える。究極は、専門家がいらないモノづくりかもしれない。それが私たちにとって良いことなのかどうかは、熟慮を要するように思われる。

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五十嵐 久枝

インテリアデザイナー

11-01 店舗・オフィス・公共用家具、11-02 店舗・販売用什器、11-03 公共用機器・設備、11-04 業務用厨房機器、11-05 業務用機器・設備、11-06 業務用照明器具、11-07 業務用空調設備、11-08 業務空間用建材・建具、11-09 業務空間用機器・設備

「働き方改革」への注目は続いている。オフィス内環境では、フリーアドレスが導入され最適なワークシーンを選べる環境提案が活発化している。固定席を持たない働き方は、仕事状況や気分に合わせて、個人ワークとグループワークを自在に行き来できるなど選択肢を広げアクティブな働き方を後押ししようとしている。その働き方には、個人とオフィス全体の物をどう整理し、減らしていくかを考えることが必要になってきているようだ。人と場と物の関係性をどのように考えるのか。今後も全体の考え方を含めオーガナイズされるのであろう。
教育環境・学びの場においては、集団生活の中で個人と様々なグループが行き来し、自発的な学習につなげるアクティブラーニングが、オフィスでの働き方との共通性をも持ち始めている。
店舗関係では、地域の人と材・地域産業を活かしたプロダクトを開発し、コミュニテイを醸成する仕組みが注目を集めた。大学も加わって、地域のタテ・ヨコ・ナナメの関係性を、ものづくりから消費までその地域で完結させる取り組みが増えてきている。
公共機器設備については、今年は公共トイレ・レストルームのプロダクト製品に特筆すべきものが多かった。誰でも気持ちよく利用できる環境づくりを心がけ「誰でもトイレ」「ファミリーブース」などの設置が社会に浸透してきている。外国の方も高齢者も車いす使用者も妊婦さんも赤ちゃん連れも、誰でも気持ちよく過ごせる環境づくりは今の私達にとって重要である。2020年のオリンピック・パラリンピック開催を機に、企業も新製品開発に取り組むタイミングでもあり、日本の公共トイレは清潔だと世界の方から注目されることを目指す。そう感じさせてくれるプロダクトがいくつも開発されていた。誰でも気持ちよく、というのは利用者だけではなく、そこで働く人にとっても気持ちよく働けるということでもある。また、いつも使っているトイレを断水時災害時にも工夫して使えるように考えられた製品。(19G110832)「ふつう」の価値を再認識した。災害からの学びが活かされている。

最後に、廃棄プラスチックなど環境問題を考慮した取り組みが増えてきている。未来への問題を提議し理解を深めてゆくことと、解決に向けた提案、双方の活発化を今後も期待したい。そして、どのカテゴリーにおいても、「違和感のないデザインであること」を外すことはできないと考える。

→ この審査ユニットの受賞対象

仲 俊治

建築家

12-01 商品化・工業化住宅、12-02 戸建て住宅、12-03 共同住宅、12-04 小規模集合住宅、12-05 住宅用工法・構法、12-06 戸建・小規模住宅関連のサービス、システム/HEMS

今年はライフスタイルを叶える住宅、それも手づくり感覚で実現したような作品が目に付いた。手作り感覚、というのは、何か定型があってそこに向かっていくというよりも、定型が無いならつくりながら考える、という実践的な雰囲気を感じたからである。その意味で審査の過程は非常に楽しいものであった。
傾向としてはまず、昨年に引き続いて、生活空間に仕事や商売のための空間を近づけたり融合したりする作品が目立った。他者を前提とする空間が混ざることで、自然な形の気配りが生活空間に重ねられる。
住宅や宅地の境界を穏やかにしていく力作が増えた。特にブロック塀のあり方を見直し、近隣とともにあるような生活空間を纏った住宅は、新築・改修を問わず見受けられた。これらは社会的に重要な提案だと思う。ブロック塀の倒壊による痛ましい事故が続くが、これは今に始まった問題ではない。ブロック塀の問題はプライバシー意識の問題である。だからなかなか解決されない。生活のスタイルや空間とセットにして境界のデザインを考えることの重要さを、これらの力作は教えてくれる。
住人の多様化や多世代化によって課題解決を図ろうとする提案はこれまであまり意識されなかった傾向かも知れない。例えば郊外の戸建て住宅街への問題意識は社会的にある程度共有されていると思うが、そこに対して、空き家のシェアハウス化、外構のオープン化といったデザイン介入はその一例である。
このように、総じて今年はライフスタイルへの積極性が印象的であった。外部や他者と関わるような生活への積極性である。そしてその積極性を支援し、実現するような住宅デザインが群として浮上した。昨年の審査講評で、「住宅を完結した商品として見なさない」傾向が垣間見えると述べた。また、「何に向かって住宅をデザインするのだろうか。」とも述べた。今年は昨年に比べ、より実践が深まっているように思える。

→ この審査ユニットの受賞対象

篠原 聡子

建築家

13-01 中〜大規模集合住宅、13-02 中〜大規模集合住宅関連のサービス、システム/HEMS

本年度の受賞作品を通して、集合住宅が、基本的な次元で変革されようとしているムーブメントを強く感じた。今までは、ファミリー用、高齢者施設、あるいは若者用のシェアハウスといったように居住者の属性や住居、非住居といった機能ごとに分割されていた集合が、それらを積極的に複合させることで新しい意味を見出そうとしている事例が散見された。それらは、単にその集合の在り方を模索しているだけでなく、地域や社会に対して波及的な効果をもたらす可能性をもっているし、現にそのいくつかは地域のコミュニティに対して貢献している。ここでは、多世代がキーワードになっている。今までの、新築のマンションはその間取りも画一的で、その結果、比較的同じような年齢層の居住者が集まり、経年変化のうちにマンションごと高齢化するような事例も少ない。そうした日本の現況に対して、多世代を目指した集住の取りくみは必須のこととも思える。今回の作品では、大型のものが多かったが、これからは、中小規模での取り組みの中にも注視していく必要があるだろう。

もうひとつは、オフィス、シェアハウス、商業施設の合築にみられるような職住の混合である。成熟社会日本において、住み続けられる場所は、働き続けられる場所でなくてはならない。そのような複合が単に合築である以上の意味をもつには、実際には法的な側面も含めて様々な困難があるのが現実だが、こうした事例がグッドデザイン賞の受賞を機に注目が集まり、多様な展開をすることを期待したい。

また、そうした先進的な試みの一方で、中規模から大規模の集合住宅は街並みを構成する大切な要素であるという点、また構法からの集合住宅への提案など、従来からのテーマにそって、その質を上げていくというスタンスも当然、継続して注視していかなくてはならない。そこでも、ファサードや接地階の扱いが洗練された、多くの秀作に出合うことができた。こうした事例を通して、その背景にある集合住宅に求められる価値観を、広く、海外とも共有しあう機会が欲しいとも思った。

→ この審査ユニットの受賞対象

永山 祐子

建築家

14-01 産業のための建築・空間、14-02 商業のための建築・空間、14-03 公共の建築・空間、14-04 ランドスケープ、土木・構造物、14-05 街区・地域開発、14-06 産業・商業・公共建築のための構法・工法

ユニット14は去年に続き、大変多くの応募があった。オフィス、大学、学校、保育園、商業施設、地域コミュニティセンター、博物館、ランドスケープ、建築技術と多岐に渡っている。このユニットが難しいのは、オフィスと保育園を並べて審査するというような、まったくプログラムも評価のポイントも違うものを同時に審査しなければならない点である。グッドデザイン賞における建築作品の評価軸は、通常の建築作品賞とは違う。グッドデザイン賞での審査委員の評価軸は、今後出来てくる建築に対して新しい方向性を提示しており、さらにいい意味でマネできる実例となり得ているかという点であった。グッドデザイン賞で評価される作品が広く知られることで、後に続くプロジェクトの質が上がっていくことを望んでいる。
審査の過程では今年は昨年に比べて作品全体を見回した時にインパクトが少々かけていて、「これは」という決め手のある作品の数が少ないという話がでていた。今年は海外作品も多く応募されていた。そちらは去年よりも質が上がっているように感じた。最終的に選んだ作品は、それぞれきめ細やかで魅力があり、提案のプログラムも様々でバランスは良かったと思う。しかし、建築の分野以外の人々をも圧倒するような力強い作品は少なかったかもしれない。
今年のグッドデザイン賞の全ユニット共通の審査基準は「美しさ、共振力」であった。まさに昨今の建築の評価基準の通りであると思う。モノとしての美しさはもちろんのこと、さらに共感を得られる社会性を要求される。審査を通して建築に求められる役割は、多岐に渡っていると実感する。それは逆にいうと、それだけ建築が関わることができる分野が広がっているということであり、様々な取り組み方が存在し、その中を柔軟に横断しながらできあがっていく建築が評価される、ということであると思う。
建築はクライアント、ディベロッパー等、最初の「問い」を立てる役割の人達と、建築家との協業で出来上がる。グッドデザイン賞の建築分野の審査では、成果物の建築に加えて注目する点は「問い」の良し悪しであり、そういう意味では出題者も審査されている。今回インパクトにかけているという印象は、もしかすると良い「問い」が立っていないのかもしれない。今後、良い「問い」が立てられ、それに呼応して素晴らしい建築が生まれることを期待したい。

→ この審査ユニットの受賞対象

水口 克夫

アートディレクター

15-01 メディア・媒体、15-02 一般・公共用コンテンツ、15-03 業務用コンテンツ、15-04 広告・PR手法、15-05 展示・ディスプレイ、15-06 ブランディング・CI/VI、15-07 フォント、15-08 一般・公共用パッケージ、15-09 業務用パッケージ、15-10 一般・公共用アプリケーション・ソフトウェア、スマホ・タブレット向けアプリ

ユニット15はパッケージ・デザイン、広告、ウェブサイトやアプリ、番組コンテンツ、ブランディング、フォントなど、その審査範囲は多岐に渡っている。応募する方々もどんな基準で選ばれているのか不思議に思われているかもしれない。ひと言でいうと「パッケージ×デザインとしての美意識や強度があるか」だと思っている。パッケージ(package/packaging)は辞書によると、「包み、包装、包むこと、ひとまとめにすること」とある。パッケージとしての美しさはもちろん、情報をどうパッケージしているのか、そのまとめ方も重要だ。以下、今年の審査対象の中で際立ったものを挙げてみる。
まずはパッケージ・デザインの未来が見えてくるものとして、『エネループ』(19G151175)と『ロハコウォーター』(19G151169)。今後eコマースからの購入者が増えていく市場で、店頭販売とは違う最適化ができている。
駅という公共空間をどうパッケージするか、その答えとして『小田急線登戸駅 ドラえもんサイン』(19G151201)と『相鉄デザインブランドアッププロジェクト』(19G151202)が挙がる。前者はキャラクターを使いながらも、子どもっぽくない抑制された空間に。後者は沿線の駅の統一感を持たせるためのコンセプトメイクからデザインルールまで丁寧につくり込んでいる。
自社の商品をどうやってユーザー体験に落とし込んでいくのかは、企業のブランディングにおけるこれからの重要な課題だ。その手法のうまさで光っていたのは、『雲海出現NAVI』(19G151181)と『生き物としての力を取り戻す50の自然体験』(19G151209)だ。特に後者はWebサイトから書籍に展開し、企業としての本気度が伝わってくる。
『NHK回想法ライブラリー』(19G151190)は、膨大な過去の映像を抱えているNHKが、それらを再利用しつつ認知症の予防に役立つコンテンツにまとめている点が秀逸だ。
最後に挙げるのが、世界150カ国以上の言語に対応した共通のフォント『ノイエ・フルティガー・ワールド』(19G151207)。このグローバル化された現代において、今まで無かったことが不思議だが、世界各地のデザイナーたちをまとめあげて完成させたその功績は、後世に残るだろう。

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林 千晶

プロジェクトマネージャー

16-01 一般・公共用システム・サービス、16-02 保険・金融サービス・システム、16-03 業務用ソフトウェア、16-04 業務用システム・サービス、16-05 社会基盤システム/インフラストラクチャー

ユニット16は「システム・サービス」。正直、抽象的でわかりづらい。会社で活用されているアプリやサービスだったり、エレベーターや冷暖房をもっと便利に使えるサービスだったり、はたまた、漁業や畜産業を根本から変えて便利にするシステムだったり。つまり、未来に向けてテクノロジーで「もっと便利に、もっと賢く」を目指す取り組みが集まるユニットだ。

でも、だとすると再び疑問が湧いてくる。「もっと便利に、もっと賢く」を追求するなら、ほとんどのものがそうだし、当然、バックグラウンドではシステムが動いている。それならグッドデザイン賞の審査をこのユニットだけで受けていいのか? 一瞬そう考えてしまうほど、このユニットに応募されてくるものは、「時代を表現する」ものばかりだ。

例えば、スタートアップ企業が本気でグッドデザイン賞に応募するようになってきた。タクシー配車アプリや、会社の人事や営業評価システムなど、AIなどの先端技術の活用を強みとするようなサービスも多く集まっている。

一方、大企業も手を拱いて見ている訳ではない。空港の体験はどうあるべきか?飲食店の生産性を高めるためには?スピードが求められる新体操に、AI搭載のカメラを導入したら評価はどう変わるか?「点」から「面」に視点をあげ、新しい領域に挑戦してきている。このユニットの審査では、テクノロジーの急速な進化や社会実装と同時に、その激しい競争までもが垣間見えるのだ。

こうした高度なテクノロジーは、体験をどのように拡張していくのだろうか。喜び、感謝、感動。面白さ、心地よさ、驚き。

「もっと便利に、もっと賢く」を超えて、「胸が高鳴るような」体験を提供するサービスが増えることを、このユニットでは応援していきたい。そんな思いをもって審査ができた。

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石川 俊祐

デザイナー

17-01 ビジネスモデル、17-02 研究・開発手法、17-03 産業向け意識改善・マネジメント・取り組み、17-04 教育・推進・支援手法、17-05 個人・公共向けの意識改善

このユニットは、企業・団体、個人が事業を通じて世の中に価値を生み出し、それらを持続的に提供するための「ビジネスモデル・メソッド」を審査の対象としている。いわゆるモノではなく、コトを審査するユニットである。
ビジネスモデルは、その言葉の響きからプロダクトやサービス、体験のデザインとは切り分けて捉えられる傾向にある。だが、本審査会では、ビジネスモデルがいかにナチュラルに、プロダクトやサービス、さらにはユーザー体験にまで落とし込まれているかに着目した。
本年度、特に際立った事例を下記に列挙する。これらの事例が、ビジネスモデル・デザインという領域の未来を牽引する存在となることを期待したい。

1)Drug2Drugs(19G171293)は、AIを用いた世界初の「探索・設計シミュレーション技術」を用いた創薬支援サービス。いままで膨大な時間がかかっていた新薬開発の期間を短縮するだけでなく、コストダウンや成功率の向上にも大きく貢献する。多くの尊い命を救うという役割を担う新事業として大きな期待ができる。

2)Global Mobility Service(19G171271)は、世界の貧困層・低所得者層に対し、適正利率でカーローンを提供するサービス。IoTを活用することでそれを可能にした。彼らが車両を所有するだけでなく、それを用いて就業し、貧困から脱する機会を得る未来まで描いている点が秀逸である。

3)文喫(19G171281)は、これまでの本屋にはない優れた空間・体験設計と、入場料制という仕組みが高い次元で融合することで、人々が新しい本と出会うモチベーションをデザインしている。デジタル世界の進展で過度にパーソナライズが進み、視野が狭まりがちな昨今において、人々に多様な知との出会いを提供することに成功している。

ビジネスモデル自体は目には見えない。だが、それをどう設計するかによって、関わる人々や地球環境も大きな影響を受ける。つまり、ビジネスモデルは、企業のビジョンや倫理観を映す「人格」のような存在であるといえよう。今後、企業はより、テクノロジーの意味を問い、人間や地球の幸せを問う、本質的なビジネスを創出することが求められる世の中になるだろう。

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服部 滋樹

デザイナー/クリエイティブディレクター

18-01 地域・コミュニティづくり、18-02 社会貢献、18-03 一般・公共向け取り組み・活動

俯瞰し眺めていた社会課題は環境問題から、マイノリティーへと解像度が上がり身近な問題へと近づいている。社会、コミュニティ、個人と言うように距離感は体感出来るほどに、私達の生活に関係する問題に触れる事となる。
昨年、大賞となった「おてらおやつクラブ」によって、貧困による子育ての問題が明らかになった。過去に行われてきた「お供え物」の善意の形を、少し見方を変え、仕組みを組み替えた、素晴らしい活動だった。今年のテーマである「美しさと共振」は、この活動においても以降引き続いて、繋がりが拡がっていると聞く。
今年目の前に表れた取り組み達も、共振性の高い活動が多く仕組みの組み替えによる課題解決が多く見られた。さらに、予め設定した課題に対してダイナミックに設計し組み立てられたモノや、小さな取り組みの鮮やかな回答など規模が様々で、活動の領域が広くなっているような印象だった。
年々広がっている「取り組み」や「活動」の意義は、既にプラットフォームとしての価値を持ち、活用の可能性にも満ちているかどうか、ということにある。あの方法を使って私達のエリア用にバージョンアップして。というように、広く共振し始めているのだと思う。先に述べた様に、善意の形とそれに基づくイノベーションというのは、さほど大きな改革をするのではなく、普段の身近な気づきによって行われる行為であり、隣り合う境界を自ら越える「力」にある。
善意の形とは、美しくも強靱でしなやかな柔軟性を持つモノとして、誰もが生み出せるデザインの思考そのものなのだと感じさせる。
個人の想い、組織の想い、コミュニティーの想い。身近な想いを。
立ちはだかる、未来の課題にオープンなプラットフォームで立ち向かいたい。
皆さんの溢れる想いが「善意の形」として、社会の隅々に表れる夢をみた。

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佐藤 弘喜

デザイン学研究者

韓国審査の担当は2回目であるが、前回と同様、やはり家電製品や情報機器に関するリーディングカンパニーの先進性は目を引いた。近年のAIなどに関わる急速な技術革新が、新たな製品を生み出す原動力となっていることは言うまでもない。それらは製品としての完成度やクオリティについてもレベルの高いものが多く、感心させられた。ただしそうした素晴らしい製品群を目にして少々気になったのは、先進性の高さゆえに、かつて日本の家電業界に見られたガラパゴス化のような方向に進んでしまわないかという点である。先進技術による可能性とユーザーのニーズの間で、何を製品に盛り込むべきかを考える視点が、今後はより重要になるかもしれないと考えさせられた。
また、以前から応募が多いのが健康管理に関する製品である。飲料水や空気清浄、理美容など、韓国におけるこの分野に対する関心の高さがうかがわれ、特徴となっているが、製品数が多いだけに、どうしても機能面よりもスタイリング面での差別化に陥りがちであり、新たなアプローチを求めたいと思う。ただし一部の製品にはそうした方向性を感じられるものもあった。
その一方で、全体として審査対象の多様化も感じられた。数はそれほど多くないものの、以前は見られなかった地域振興の取り組みやブランディング、社会インフラに関わる製品、福祉や医療に関わる製品など、応募ジャンルの広がりに変化を感じた。日本においても近年は様々な活動や取り組みなどに関する審査対象が増え、よりデザイン概念が多様化しているが、韓国でも同様の傾向があるものと思われる。特に小規模のベンチャー系の製品やプロジェクトには、文化的な側面も含めて日本では見られない新鮮な視点があった。
日本と同様、韓国においても、成熟した社会においてデザインはより広範囲にその役割が求められるようになっていくことであろう。来年以降、一層広がりのあるデザイン事例が応募されることを期待したい。

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寺田 尚樹

建築家/デザイナー

台湾ユニットを審査した第一印象は、ローカルなマーケットにフォーカスした提案が目立ったということだ。そして、これらローカルな視点に根付いた提案の中で、グローバルな視点では見出せないような「気づき」を台湾の文化や背景から示唆するプロジェクトが評価につながったと感じる。
インダストリアルデザインのジャンルについては、台湾はヨーロッパブランドなどの生産拠点として高い製造技術を蓄積してきた背景があるが、スタイリングの操作のみの提案が多くみられた。マーケットの趣向や趣味はこういったものだという観念からか、デザインの幅が狭まり、ユーザーを誘導するような手法が見られ、それらは評価につながらなかった。
インテリアデザインのジャンルについて、特に住宅については、好条件な敷地や潤沢な予算のもとでオーナーの趣味に応えたようなインテリアについては、客観的な判断ができず評価の対象とはなり得なかった。これらはデザインではなくデコレーションであり、グッドデザイン賞では範疇外と判断した。
一方、台湾の歴史的経緯を背負ったリノベーション案件の中には、地域のお荷物になり得るような古くからある建築空間を、現代の生活様式に合わせるのみではなく、地域と人々の新たな関わりを提案しているものもあり、大きな関心を集めた。
また、グラフィックやパッケージについては、そのデザインやプリントの過程において、台湾独自のきめ細やかさと大胆さを感じる。このジャンルはまだまだ応募が少ないので今後は多くの応募を期待したい。
最後に社会的取り組みについての応募は、市民レベルでの活発な活動や台湾の人々の個人的レベルでの親密な結びつきを感じた応募が多かった。これらの美しい価値観は今後も発信していって欲しいと思う。一方で、これらの応募は取り組みがスタートしたところでまだ結果を評価できる段階でないものも多く見られたので、今後の推移を次回以降のグッドデザイン賞を通して発信して欲しいと感じた。

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倉本 仁

プロダクトデザイナー

年々伸び続ける中国からのグッドデザイン賞への応募であるが、今年はまたさらに昨年より大きく増加した。
特筆すべきは、やはり応募対象の品質の向上である。特に家電製品・精密機器のカテゴリーにおいては、世界的な企業に成長した複数の中国大手企業が製品のレベルを高く引き上げ、それに追随するメーカーやブランドも高品質のデザインと製品企画を実践している。製品の細部に至るまで美しく丁寧に製造され、また新しい素材提案なども積極的に行われており、まさに世界の工場と呼ばれる中国ならでは、の状況が応募対象から見てとれました。
キャッシュレスやECの進化、スマート家電の普及などに見られるように、人々のライフスタイルも先端的進化を遂げており、そこに関連して発生する社会課題に対する取り組みも、製品やサービスとして落とし込まれて提案されています。
また、大企業がイニシアティブを取った環境問題への取り組み、啓蒙活動が応募の中にいくつか見られたことも、中国審査会での大きな特徴の一つであった。企業PRの一環ではあるものの、中国に暮らす膨大な人口が積極的にこれらのサービスや活動に参加し、すでに大きな効果と実績を上げているという事からも、消費者の高い関心が伺える。
世界経済の状況から見ても大きな進化を遂げている中国という国が、製品やサービスの開発においても先進的、文化的なアプローチを実践していることをまざまざと感じた中国審査会であった。

→ この審査ユニットの受賞対象