本年度のグッドデザイン賞の審査も、領域別に応募対象をグループ分けした「審査ユニット」ごとに審査が行われました。各ユニットでの審査を通じて見られた傾向や特徴、領域ごとのデザインの状況や課題をまとめました。
「身につけるもの」が対象のユニット01は、コロナ禍である現在を色濃く反映した内容となった。そして、この状況下で使い手が何を望み、作り手は何を創り出すべきか、想像力を働かせながら真摯に開発を進めたことが伝わる素晴らしい製品に遭遇する機会にもなった。これは非日常の暮らしを「日常化」せざるを得ないコロナ禍の皮肉な結果でもあるが、日々の暮らしを成り立たせている身近な「身につけるもの」のデザインへの期待値が高いことの裏返しでもあるように思われた。
今年度応募が激増したマスク製品がそれを象徴している。毎日使うものとして肌や化粧への考慮をしたもの、運動時に呼吸を確保しながら装着できるものなど、N95のような性能を必須条件とはせずに評価を行なった。結果として10点近くのマスク関連製品が受賞したが、それぞれが独自の視点や技術をもとに、マスクと過ごす日常に何かしらの豊かな価値を届けようとする点を評価した結果である。感染予防という点では、使い捨て医療用防護服の「easy脱着ガウン」(21G010040)も特に高い評価を得た。医療現場の混乱時にポリ袋メーカーならではのこだわりで、即座に開発を進め、製品を市場に供給している。望ましい社会を実現すべく、素早く連携をとった行動は、まさしく今年度の「希求と交動」というテーマに即している。同じくエッセンシャルワーカーに向けての製品として、炎天下での労働者を対象とした「コモドギア i2」(21G010047)も高い評価を集めた。このように、生活の根幹を支える人たちに優れたデザインが届くというのは、QOLの視点としても歓迎したい。また、交通事故の削減も社会課題の一つとしてあげられるが、Hondaの交通安全アドバイスロボ「Ropot」(21G010038)は、そこに一石を投じるものである。「魔の7歳」という言葉がなくなっていく社会を、モビリティメーカー自身が担っていこうとする提案は高い評価を集めた。
ユニット01は、腕時計、バッグ、衣類など、特に成熟した製品が多く、結果としてそれらの分野からは新規性よりも、適切に改善されたものが多かった印象である。その進化はとても重要ではあるのだが、多くの社会課題を抱えながらも「デザイン」で未来を拓くことができる今、心が動く新しい提案も今後にぜひ期待したい。
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デザインイノベーション
- ユニット02:パーソナルケア用品
02-01 ウェルネス・マッサージ関連用品|02-02 衛生用品|02-03 美容機器、器具|02-04 育児用小物、装身具|02-05 家庭用育児用品|02-06 家庭用福祉用品・介護用品
昨年のヘルスケア部門は、ソートフル・ライフスタイル時代の幕開けとなる年となった。
それは、一人ひとりが自らの感覚と向き合い、新たな行動へ移していく目覚めの年であり、真の豊かさを見つめ直し、暮らしのあり方を再定義するという大きなうねりの年であった。
2021年のヘルスケアでは、この大きなうねりが伝播し、多様さを持って広まっていったように感じられる。いくつかの顕著に現れたテーマについて触れることで、今年の傾向を伝えるとともに、総括としたい。
一つ目のテーマは、「深い思いやりの行為としてのデザイン」である。これまで私は、「デザイン」とは思いやりであるということを言い続けてきた。この「スマートキッズベルト」(21G020076)は、今まで標準化や規格化のせいで見過ごしされていた体格の小さい子供にも合うシートベルトを携帯できるようにすることで、見過ごされてきた子供の危険に初めて寄り添い、本当の安全を創り出したのである。まさに深い思いやりがデザインされている好例と言えよう。
二つ目は、「目的のデザイン」。言い方を変えると、パーパスデザインだ。
何を創るのかの前に、なぜ? 何のために? というパワフルな問いを生み出す事によって、地域企業が一丸となって価値を創出した事例である。会津若松市への感謝の気持ちから、地域企業の技術を結集して生まれた「あいくし」(21G020087)は、まさに目的のデザインがなされている。
三つ目は、「美しいプロセスのデザイン」である。近年、台湾企業の活躍が目覚ましい。
中でも頭ひとつ抜きん出ていたのが「AROMASE」(21G020083)だ。AROMASEはアジアのヘアケア業界では初となるC2Cブロンズを取得し、さらにはB corp認証も受けているサーキュラーカンパニーである。これら認証の取得は、環境にプラスの影響を与えている良い企業であるということを意味する。美しいプロセスをデザインするとは、どういうことか。それはすなわち、社員の日々の働き方から、製造プロセス、ステークホルダーや地域との関係性、そして地球環境にいたるまで、企業の「らしさ」と美意識が浸透し、関わる一人ひとりがビジョンに向かって走っているということである。人類の日々はプロセスの中にある。そのプロセスが美しければ、自然と美しい結果が生まれるのだ。
以上をふまえて思うのは、何かを生み出す時に、三つの視点を「私」だけではなく、「私たち」という主語から始めることの大切さだ。つまり、個人と個人、個人と地域、個人と自然を分けるのではなく、ともに存在するものとして捉え、考え、創ること。そういったシンプルな行為の積み重ねから、「希求と交動」に込められた目指すべき未来へと人類が導かれていくのではないか。より多くの人々がソートフルに価値を生み出していく未来を切に願う。
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ユーザーエクスペリエンスデザイナー
- ユニット03:文具・ホビー
03-01 文具・事務用品|03-02 教材・教育用品|03-03 玩具|03-04 スポーツ用品|03-05 レジャー・アウトドア・旅行用品|03-06 ホビー・ペット用品|03-07 園芸用品|03-08 楽器
コロナ禍で多くの制約を受けながらの審査も2回目となった。応募作品の搬入がままならない、または思うようにいかないケースも多く見受けられる中、国内外から多くの応募をいただいた。このユニットが扱う文具・ホビーの応募作品には、既に馴染みのある成熟製品を、更に人々の生活に寄り添った良いものにするための提案に加え、全く新しい視点で開発されたアウトドア用品などもあり、特に海外からの提案に斬新なものが目立った。
グッドデザイン賞を与えるということは、いわば「お墨付き」を与えることでもあり、審査委員の我々もその責任を常に感じている。例えば全く新しいレジャー体験を提供する道具であれば、その安全性や社会との共存性までもが審査対象となる。それらに対する提案が弱いもの、審査資料からは読み取れないものは、非常に魅力的な体験を提供する可能性を感じても、受賞は見送らざるを得なかった。また、人々の気持ちや困りごとに寄り添い、社会的な意義が感じられる提案であっても、その表現が最適ではなく、提供される側に価値が伝わりきらないため、惜しくも受賞を逃したものもあった。言い方を変えれば、利用実績を積み重ねてエビデンスを獲得し、より良い表現や技術を追求することで、この先受賞の可能性が十分あるということなので、今後の飛躍に期待したい。一方で、世の中の変化に伴い、そのもののありかた自体を考え直す時期に来ている製品もあると感じた。
また、このユニットからは7点の「グッドデザイン・ベスト100」が選出された。いずれも決して派手なイノベーションではないが、昨今の社会課題や人々に向き合い、実直に取り組んだ結果生まれたもので、上質な体験や喜びを提供する点で特に優れていた。そして、使う側に程よく委ねる「余白」を残しているのも、今年のベスト100の特徴といえる。多様化する人々の生活や価値観に柔軟に対応できるものが、今の時代には求められていることを示唆しているように感じられた。
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クリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー
- ユニット04:生活用品
04-01 キッチン用品、調理器具、食器・カトラリー|04-02 日用品|04-03 清掃用品|04-04 防災用品|04-05 寝具|04-06 神仏具関係用品
ユニット4はキッチン用品や清掃用品、防災用品、寝具などの生活用品が対象である。日本でもレジ袋の有料化が定着し、世界中で環境問題への意識の高まりが年々増している中で、使い手もより吟味してモノを選び、ゴミを増やさないよう努力をする世の中になってきた。そのような背景のもと、生産されるアイテムの質がより高く求められるようになってきたのは、多くの人が共通して持っている感覚であり、今年の審査の目が厳しくなった理由だと考えられる。
このユニットの分野ではすでに多くの名品が世の中に存在しており、成熟したキッチン用品や食器、清掃用品、寝具など、何十年にも渡り改良されているアイテムが多くある中でグッドデザイン賞として選ぶのは容易ではなかった。その中でこの壁を超えてきたのは「まだこんなに進化できるのか!」と思わせたものだ。例えば、今回ベスト100にも入っている「スパスパ」(21G040270)は、成熟度の高いエアークッションの緩衝材を「手で切れる緩衝材」として進化させていた。このユーザーに寄り添う挑戦には驚き、審査委員の共感を呼んだ。受賞したアイテムに共通していたのは時代の潮の目を読み、使い手の気持ちに寄り添って、意匠性や使いやすさなど様々な角度から改良をした点だろう。
一方で、まだまだ成長が見込め、未成熟なカテゴリーとしては、環境を配慮したアイテムと、防災用品が挙げられる。環境への配慮を意識しているアイテムが以前よりも格段に増えていたのは喜ばしいことだったが、まだこの分野は黎明期にある印象で、機能性と意匠性、価格設定などのバランスが良いモノが少なかった。防災用品に関しては、特に意匠面の評価が全体的に低かった。気が沈みがちな災害時こそ良いデザインが支えてくれる世の中になって欲しい。環境への配慮も防災用品も非常に需要が高い分野なので今後に期待したい。
近年ではテレワーク利用者が増え家の中へ意識が向き始め、コロナ禍でアルコール消毒の頻度が増えるなど、世の中の生活習慣や価値観が大きく変化してきている。改良し尽くされ成熟していると思われる分野が、突然新しい視点によって再発明される可能性すらある。今後もどのようなアイテムが生まれてくるか楽しみだ。
昨今の生活や働き方の急激な変化は誰しもが感じることであろう。そのような状況でユニット5の審査対象である家電製品はどうあるべきか。家電製品は企業が大量生産しているものが比較的多い。そう考えると市場の製品の中でも先頭を切って様々な課題に取り組まなければならないカテゴリーではないかと思う。それは一つ一つの製品が与える影響は微々たるものでも、何万、何十万個と売られて使われる家電製品は集まれば大きな影響力になり、社会を良い方向に変えていく力が大いにあるからである。その反面、影響の大きさは作る側に責任が伴い、ただ作りっぱなしではいけない。一つ一つの製品に存在価値を与え、役割がなければならない。私たち審査委員はこういう考えのもと、デザインはどうあるべきなのか、そして何が求められているのであろうか、という問いを応募された製品を通して考えた。
多くの消費者は新しいものを頻繁に買い換えることはもはや求めていないのではないか。個々に合わせ最適化し長く使い続けられることが求められることであり、延いては環境負荷軽減に寄与する。
本当の使いやすさとはどういうことか。ボタンが見やすいとか押しやすいだけではない。ユーザーが何をしたいか、どう使いたいかに機器がちゃんと答えられて初めて使いやすいと言えるのではないか。
環境負荷軽減の問題は早急に取り組まなければいけない。しかしすぐに全てを再生材にすることは現状ではできない。それならばパッケージの印刷を少なくするという、小さいが確実な1歩を踏み出す。
審査の中で共感が集まったデザインは、どれも「問い」と「答え」がその製品から感じられた。日々感じる問いに対して独自の答えを導き出し、それを製品を通して実践する。つまり、ものづくりに明確な思想があり、そこから滲み出てくるデザインがものを「カタチ」にする。今求められる家電製品のあり方はこういう考えのもとつくられたものではないか、それが応募された製品から感じられた。
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インダストリアルデザイナー
- ユニット06:映像/音響/情報機器
06-01 個人用音響機器|06-02 業務用放送・音響機器|06-03 カメラ・カメラ周辺機器|06-04 映像機器|06-05 スマートフォン・スマートフォン周辺機器|06-06 スマートウォッチ|06-07 パソコン・パソコン周辺機器|06-08 一般・公共用情報機器|06-09 業務用情報機器
ユニット06は映像/音響/情報機器が対象となる。プロダクトの価値を視覚、聴覚、触覚によって伝え、その手立てとなるテクノロジーとは密接な関係にある。IOTと言われ久しく、Bluetooth、5Gなどは既に行き渡り、世の中の変化ほどプロダクトの変化量は大きくない。とりわけ、イヤホンやスピーカなど音源がほぼスマートフォン(以下スマホ)の音響機器は顕著で、横一線、審査は容易でなかった。ただその中で、映像機器にはメーカー独自の技術や歴史により積み上げられた資産を生かし、モノづくりへの圧倒的な熱量を感じるプロダクトが多く見られた。代表格がプロやハイアマチュア向けの一眼カメラや映像用カメラである。ベスト100に選出された「CANON EOS R3」(21G060399)や「FUJIFILM GFX100S / GFX50sⅡ」(21G060403)、「SONY 映像制作用カメラ商品群」(21G060411)には、ハイレベルな写真や映像を撮る道具にふさわしい風格、それぞれ異なる思想、造形手法による特色ある外観を有し、手に取りたいという衝動に駆られる。手に取れば釦やダイヤルの感触、操作音、照光に魅入られてしまう。プロダクトの本質に向き合い、変えるものと残すもの、さらに追加するものの選択が絶妙で、もはやそれぞれのブランドの理念としてプロダクトに結実していると感じられた。
かたや映像を再生するプロダクト、TVやスマホ、PCなどの情報端末はアプリケーションが主で、画面がプロダクトの大部分を占めメーカーの独自性を打ち出し辛く、前者と対局にあると言える。その中にあり一つの突破口と思えたのは「SONY Xperia PRO」(21G060468)である。端子類が簡素化される昨今、HDMI端子で撮影機器と接続、5Gを活かした高解像度高速データ伝送により、スマホを映像制作業務効率化のための通信媒体、高解像度モニタリングデバイスとして活路を見出している。多くのスマホは一般コンシューマー向けの右へ倣え的世界にあるが、このプロダクトが示す未来として、医療などの他の領域にも拡げ、遠隔通信による新たな社会価値創造も期待させる。
それら名だたる老舗メーカーが名を連ねる中で、審査委員一同衝撃を受けたのが「Kandao Obsidian Pro」(21G060435)である。これは8基の魚眼レンズによる12K360度3D VRカメラであるが、特筆すべきは前例の無いプロダクトに於いて、ベンチャーとも呼べる企業が極めて完成度の高い撮影機材を作り上げたことにある。他分野の審査委員からも高評価で、新規参入が難しいとされる分野に一石を投じている。
今回の審査対象の多くは5年いや1、2年後には現役を終えている可能性が大きい。テクノロジーの推移と共に、商品としての終焉をみることになるが、前述の光学機器などには長く使いたいという思いが湧く。消費から廃棄というループを断ち切る愛着の持てるプロダクト、それも環境負荷など社会問題に対する一つの答えである。
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インダストリアルデザイナー
- ユニット07:産業/医療 機器設備
07-01 工具・作業用機器|07-02 農具・農業用機器|07-03 生産・製造用機器・設備|07-04 医療用機器・設備|07-05 素材・部材|07-06 生産・製造技術|07-07 研究・実験用機器・設備|07-08 その他医療・生産プロダクト
ユニット総評として、少し視点を変えて製品の成長過程における現在の位置付けに着目してみた。どのような開発でも、誕生や大きなイノベーションなど、話題になりやすい時期と、見た目の変化は少ないが成長、強化、普及が進行する時期がある。大きなジャンプから10余年を経て、その間のたゆまぬ進化の結果として確実に社会や生活に根づき実績を上げている開発を、医療と産業の分野で見ることができた。
医療分野における、富士フイルムの躍進は周知の通りだが、開発テーマの一つとして、X線フィルムをDR画像素子パネルに変えるイノベーションが10年ほど前にあった。その後、パネルの特徴を活かして機器への展開が続いているが、今年はベースであるDRパネル本体の改良(「CALNEO Flow」(21G070646))と、それを使うことで実現した可搬型検査機2台の応募があった。どちらも優れた製品で、アナログからデジタルへの転換のようなジャンプではないが、医療のレベル向上を考えると、高いレベルの普及ステージと言える。
富士フイルムが手がけるもう一つのテーマに、CTやMRIから得られる2Dデータを3Dで可視化するシステムがある。断層画像ではわかりにくい臓器や器官の境目が図鑑のイラストのように色別で立体表示される。2013年に発表され、60以上のアプリケーションに展開しているが、今年はこの基本システム(SYNAPSE VINCENT)のアップデート(21G070658)と、アプリケーションの一つとして放射線治療機器の応募があった。60の中の一つとして見れば、ジャンプは小さいかもしれないが、がん治療の最前線である放射線治療を支援するアプリケーションの実現は、医療の強化に大きく貢献している。
産業機器ではドローンに着目した。歴史は意外と古いが、話題になったのは2010年発売の玩具普及からだろう。その後、日常的な流行の時期は過ぎたが、開発は継続されており、産業利用が本格化している。今年、いくつかの応募があったが、一つは高所の建造物など陸路での資材運搬が難しいところへの利用。一つは、強風、長時間飛行、防水を考慮した防災用。三つ目は映像クリエイター専用機。物流、防災、映像というドローンの産業利用の三本柱全てを見ることができたことで、話題から10年を経て、社会や生活に貢献する製品としての成長と普及が感じられた。
医療と産業の分野において、今年はジャンプより実績の年だったと言えるかもしれない。審査としても、大きなイノベーションや話題性だけでなく、実質的な社会実装を評価していきたい。
最後に、ユニット全てに共通する傾向を挙げるとすれば、作業者の負荷軽減を第一の目的とし、そこから効率化につなげる開発が多かったことだ。効率化と働き方改革を技術革新によって両立することは、SDGsに繋がる取組みでもあり、各企業の意識の高さが感じられた。
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プロダクトデザイナー
- ユニット08:住宅設備
08-01 住宅用照明機器|08-02 住宅用空調機器・設備|08-03 住宅用建材・建具|08-04 住宅用内装用品|08-05 住宅用外装用品|08-06 住宅用キッチン|08-07 浴室・洗面・水回り|08-08 住宅用機器・設備
ユニット8は、住宅に関する設備製品が主となる。空調機器、照明器具、給湯機器、水廻り設備、ホームコントローラー、また、建物の外装内装材、外構や窓廻り部材も含まれる。
今年は、昨年よりもCOVID-19関連の応募が多かった。ひとつは、家の中にウィルスを留まらせないようにするための、窓やエアコンなどの換気機能製品である。特に換気機能付きエアコンは、住宅内の空気のみをコントロールする従来品よりも、難しい設計が要求される中で、各社が健闘していた。もう一つは、居住者がウィルスと接触することを抑えようという製品。抗ウィルスフローリング建材や、殺菌や洗浄機能を向上させた水栓、外来者との接触を減らす宅配便の受け渡し設備など。それから、間接的ではあるが、感染流行防止のための在宅ワークに対応した、住宅内個室も多く見られた。また、こうした感染症流行中での災害避難には、在宅非難が有効として、車から家へ充電機能するシステムの応募があり、数は少ないが住宅設備としての重要性が明らかになった。
私たちの生活に大きな衝撃を与えたCOVID-19。今後も、感染症対策のこれらの製品は開発されていくであろう。しかし、まだ違和感のある製品もある。人が生活する空間に相応しい、自然なデザインを期待したい。
受賞製品の全体的な印象は、生活者がメンテナンスも含め長く使っていくための、シンプルで心地よい美しさを持つものであった。長く使っていけるという事はSDGsの観点で重要である。それから、強く印象に残った優秀な製品として、人の生体反応をセンサーで測定し、その人、その季節に合った快適な環境をAIやアプリを活用して提供するというエアコン(21G080707)をあげる。こうした、住宅設備が人に対してきめ細かいケアをしていくような機能が今後も追求されていくのではないかと予測する。
他に、制振機能のダンパーや防音防振性のある排水管など、外からは見えないが重要な役割をしている部材もいくつか良い製品があった。日本の堅実なものづくりが進化を続けていることを感じることができた。
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インテリアデザイナー
- ユニット09:家具・オフィス/公共 機器設備
09-01 生活家具|09-02 店舗・オフィス用家具|09-03 店舗・販売用什器|09-04 公共用機器・設備|09-05 業務用厨房機器|09-06 業務用機器・設備|09-07 業務空間用建材・建具
このユニット9では、暮らしとオフィスの家具、公共、機器設備を審査するが、商材の幅は広く多様化し、従来からの評価視点に加えてデザインが持つ可能性を広げることも重視している。また、今このタイミングでは、パブリック空間での集団で扱う商材について難しい判断があった。コロナ以前からスタートしたプロジェクトも多々あったかと思う。
先行きが不透明な中、環境問題、SDGs、災害等、取り組むべき課題は多い。思い切った変革に大きく舵を切った企業も数々あった。その速さと柔軟性に敬服する。
二つのキーワードをあげて今年の特徴を示したい。
「軽量化」は上記の課題に応えたキーワードのひとつである。フレキシブルに多様に使うことは、暮らし・オフィスどちらにも求められていることであり、軽さを追求することはより扱い易くするための有効な手立てである。また、省資源化・移動負担軽減・コストダウンが期待できる。 「シナーラ」(21G090835)は、環境問題への取り組みから「軽量化」への目標を掲げ、機能を持ちながら大幅減量を行なった結果、ABW(Activity Based Working)の働き方にフィットし、CO2 排出量を大きく削減している。この開発思想は今後に大きく影響を与えることであろう。
次のキーワードは「脱廃棄」。使い方に合わせてフレキシブルに対応し、長く使用できることに繋がって廃棄を削減する。(ファニチャー・ソファ・ベッドなど。)また分別廃棄をユーザーとシェアするという考え方も見られた。(ソファ・マットレスなど。)SDGsの12番目に掲げられる「つくる責任つかう責任」を自覚し、ネガティブなことをみんなと共有して新しい価値に変えていこう、という潮流が見られた。
公共的な視点が活かされた商材としては、「アメニティブース」(21G090897)は、清潔なトイレをどこでも設置可能とするユニット商品で、水回り配置の制約から解放されるため、物流倉庫で働く人の労働環境改善や建築ストックの活用、災害時に有用であり、障害者・ジェンダーへの配慮もなされている。壁に消える担架「ラピッドレスキュー」(21G090904)や子供からお年寄りまで誰でも使える「多目的シート」(21G090905)、下肢機能の低下した高齢者・障がい者が働くサポートをしてくれる 「ウェルツEV」(21G090836)は、社会における様々な困り事をデザインでサポートしている好事例である。東京パラリンピックは無観客開催となり、障がい者と出会う機会を持てなかったことは大変残念であった。より気軽に出会える機会をデザインがサポートできるといい。「あるものを活かす」パラリンピックの精神はデザインにも有効である。
最後に、外観・デザインについては誰でも受け入れることのできる配慮をお願いしたい。
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クリエイティブコミュニケーター
- ユニット10:モビリティ
10-01 乗用車、乗用車関連機器|10-02 業務用車両、業務用車両関連機器|10-03 自動二輪車、自動二輪車関連機器|10-04 パーソナルモビリティ・自転車、パーソナルモビリティ・自転車関連機器・商品|10-05 鉄道・船舶・航空機|10-06 移動・輸送システム・サービス(ロジスティクス・物流)
「希求と交動」という今年のグッドデザイン賞のテーマに対し、モビリティユニットの受賞対象は様々な角度からそれに応えるものであったと思う。
モビリティにまつわるプロダクトやサービスは、モータリゼーションという言葉に代表されるように、人々の生活の豊かさを実現する主要な手段の一つとして、ひたすらにその勢力の拡大と、一方向的かつ文明的・物質的な進化を遂げてきた。昨年から猛威を振るう新型コロナウイルスは、皮肉にも人々に移動することの意味を改めて考えさせる契機となったが、モビリティ分野においても、一度立ち止まって振り返り、内省することから、新たな息吹が生まれつつあるように感じられる。
複数の受賞対象に見られた、古いもの、まだ使えるものに対し、新しい価値を与えながら再生する考え方の進展は、その代表例の一つと言ってよいだろう。持続可能性の獲得は、人類共通の喫緊の課題だが、その倫理的側面ばかりでなく、その中に心地よさや楽しさ、新しい価値をも見出し、積極的に取り組んでいこうという姿勢が感じられたことは、非常に頼もしい傾向である。
慢性的な物流業界の人手不足を解決する試みも、昨年同様に様々な提案がなされた。設計思想を変えて大幅な軽量化と積載量の確保に挑んだトラック(21G100935)や、自動運転技術で労働集約型業務の改善に挑む牽引トラクター(21G100937)、シェアリングによる輸送の効率化を目指すシステム(21G100998)など、多種多様なアプローチが生まれ、それらが有機的に交わって、一つの新しいエコシステムを形作る未来を予感させる。
公共性の高さゆえに一方向的なサービス形態に陥りがちであった鉄道分野においても、車内や途中駅で出会う人々の交流を促す長距離列車(21G100945)や、企画段階から利用者を巻き込んで交流を図った高速鉄道(21G100947)などが提案され、新しい潮流を感じ取ることができる。
変化に大きなエネルギーが必要なモビリティ分野においても、そこかしこに変わろうとする力がみなぎり、その連鎖が始まっていることは明らかである。
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建築家
- ユニット11:建築(戸建て住宅〜小規模集合・共同住宅)
11-01 商品化・工業化住宅|11-02 戸建て住宅|11-03 小規模集合住宅|11-04 小規模共同住宅・寄宿舎|11-05 住宅用工法・構法|11-06 戸建・小規模集合住宅関連のサービス、システム/HEMS|11-07 戸建て〜小規模集合住宅のインテリア
今年の住宅・小規模集合住宅部門は、興味深い作品が多く見られた。理由はいくつかあるだろう。まず大きな特徴として、日本各地の地場のハウスメーカーから優れた作品の応募が多数あった。日本各地で地域の縮退が目に見えて始まっていて、生き残りに向けて地域発の暮らしの工夫が加速してきているということかもしれない。
驚いたのは、ハウスメーカーや施工会社の設計の工夫が小手先のアイデアでなく、空間構成の質も高く、また、地域の地産地消を意識して材の仕入れから考えられているものが多かった点だ。設計の質全体が底上げされているように感じた。林業や地元のものづくりと連携したプロジェクトが多く、大いに共感した。また、地場のハウスメーカーの場合には、土地の仕入れも重要であるが、崖線状の土地や田園風景などの地域独自の環境に対して、空間の質を伴った説得力のある提案が融合している事例も多く見られた。
都市部のプロジェクトでも、単なる建築作品としてではなく、都市生活をどのように更新していくのか、住宅のタイポロジーやまちづくりなどのエリアマネジメントの視点を持ったものが多く見られ、ユニットを越えた議論でも共感が集まった。都市部の暮らしもまた、コロナ禍などの影響で、大きな価値転換がこれから進んでいくに違いない。
東日本大震災から10年、熊本地震から5年が経ち、復興フェーズとは異なった、未来に向けて新しい価値をつくる希求的なプロジェクトの応募が複数あり、大きな共感が集まった。
技術的な提案も多数あったが、既存技術の囲い込みや、構法として無理があるものが多く見られた。また、住宅の耐用年数が短く想定されている点も散見され気になった。技術や特許での囲い込みは、将来の建築改修を困難にすることはすでに明らかになっている。開かれたものづくりは、環境時代の考えにも沿うものである。また、建築の長寿命化は誰もが真剣に取り組むべき課題であろう。テクトニックの合理を持ち、開かれた技術となる美しいアイデアを期待したい。
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建築家
- ユニット12:建築(中〜大規模集合・共同住宅)
12-01 中〜大規模集合住宅|12-02 中〜大規模共同住宅・寄宿舎|12-03 中〜大規模集合住宅関連のサービス、システム/HEMS|12-04 中〜大規模集合住宅のインテリア
今年のユニット12は、いくつかの点で新しい傾向が見えたように思う。
際立っていたのは社員寮のプロジェクトだ。大変レベルの高い提案が複数見られた。ユニット12の範囲を明確化したことも一因ではあるかと思うが、社員への福利厚生の充実、部署を超えた住まいでの社員の交流促進・関係構築、など、働くこと・住まうことが近接した昨今の事情が反映されたものと見ることもできるのではないかと思われる。寮はシェアハウスと同じく共用部が売りの一つになるため計画的にも多彩な試みがなされていた。設計・施工期間を考えると、今回登場した寮は、コロナ以前から計画されていたものが多いだろうが、来年以降、こうした動きにどのような変化が出るかも、楽しみである。
中層・高層の建築に木造を使う動きは昨年にも見られたが、今年は状況が進んでいるように思われた。法的な解釈・意匠・構造のバリエーションも多彩で、興味深かった。このユニットは、なかなか実験的なプロジェクトを起こしにくい分野だが、そんな中で各社の個性の出た挑戦が大変興味深い。できればこれからも加速して欲しい領域である。
また全体の中での割合は決して多くは無かったが、地域の取り組みに、素晴らしいものがあった。都心部とは異なり市場全体が縮小する中で、新たな挑戦を余儀なくされるのをチャンスと捉え、工務店が事業提案やエリアマネジメントまで行うようなプロジェクトも見られた。今後の地域づくりの羅針盤のひとつになるのではないかと思う。
一方で、全体を俯瞰しての質は、気になることもあった。とくにプレゼン資料については、配置図や平面図などの基本的な情報が無く、計画の全体像がわからないものもあった。良い計画であっても、こちらが読み取りきれないことは残念である。せっかく応募していただいている以上、できる限り全てを把握し、審査したいと考えている。来年に期待したい。
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建築家/大学教授
- ユニット13:建築(産業/商業施設)
13-01 オフィス・産業施設の建築・環境|13-02 オフィス空間・産業空間のインテリア|13-03 商業のための建築・環境|13-04 商業空間・店舗のインテリア
「Unit13:商業・産業」分野では、商業施設、ホテル、オフィスなど建築とはいえ消費サイクルの短いプロジェクトが多く、その所為だろうか、自ら社会を観察し適切な形式を発見する面倒なプロセスを踏むよりも、世界中にアンテナを張り巡らせて目新しい「既成様式」をいち早く輸入し、これを改変・洗練するものが例年、多数ある。今年もそういった従来型のアプローチによる作品も見られ、その内には多額の予算や高度な技術によって高い品質に達しているものも散見されたが、これらに強く惹かれるところは少なかった。
というのも、リモート勤務や働き方改革による職・住空間の接近や多拠点化、COVID-19の蔓延による自然通風重視や単位人密度の減少、新築主導から既存ストック活用への転換、ゲリラ豪雨や温暖化などの気象変化、等々といった無数の社会状況の変化によって、既製の様式の焼き直しでは適切に応じることができないと、既に明らかになっているからである。
そんな状況を背景にして、建築家自らが世界を解釈し、新しい形式や方法論を打ち立てようと試みたり、あるいは建築家という職能の再定義にまで踏み込んだプロジェクトが複数存在し、これらが光って見えてきた。具体的には、昨今の暮らしや働き方に応じたビルディングタイプの新たな提示、既存オフィスビルの室内デザインに留まらず都市との関係の再編まで行ったリノベーション例、敷地範囲を超え出て地域に貢献することで利益に還元しようとする中〜大の商業施設や、その運営や発注側にまで主導的に建築家が関わる例、その他地域の歴史文化・景観を保存すべく長い年月をかけて行政との信頼関係を構築し開発の方向性をさえ変更した例などが挙げられる。
いずれにしても変転する世界と対峙した建築家が何らかの希いを持ち、それを実現する新しい建築形式や職能のあり方を見出そうとするプロセスを踏んだ作品が高い評価を得たようだ。世界史に残るような災厄の一年ではあったが、そのような時代だからこそ建築家・デザイナーの本義が再確認され、共感を得たのだろう。共振・伝播するオリジナリティ、そんなことを考えた審査だった。
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都市研究者
- ユニット14:建築(公共施設)・土木・景観
14-01 公共の建築・空間|14-02 公共建築のインテリア|14-03 ランドスケープ、土木・構造物|14-04 街区・地域開発|14-05 産業・商業・公共建築のための構法・工法
今年はユニット14ではあまり分かりやすい傾向は見られなかった。COVID-19のパンデミックを機に、社会の課題認識や人々の価値観は急激に変化しているが、計画から完成まで時間が掛かる「建築(公共施設)・土木・景観」には急な変化が表れづらいのもひとつの理由だろう。
ユニット14は、建築、土木、ランドスケープ、インテリア、開発、サインシステム、構法などを広くカバーするが、いずれも公共的なものが対象となっている。したがって、美しい、新しい、敷地内の課題を解決している、といったことに留まらず、それが地域や社会にとってどのような意味を持ち、どのような可能性を提示しているのかを問いながら審査を行った。そうした視点で見ると、人口が減り、建築する機会も減っていく中で、公共施設の機能がより複合化したり、貴重な建築の機会に同時に様々な課題に対応していこうとする傾向は、ますます強まっているように思われる。
一方考えさせられたのは、公共性と創造性との関係だ。近年はブームとも言えるほど公共空間が注目を集めている。公園、広場、街路、水辺はもちろんのこと、文化施設、教育施設、行政施設などでも開かれた憩いや交流の場が中心的な空間となる。それはもちろん歓迎すべきことだが、どこかしら形式や風景が似てくることに違和感を覚える。そのなかにあって、たとえば「ジョンソンタウン」(21G141330)や「梅光学院大学(21G141250)は、万人に選ばれる場ではないかもしれないが、独自の公共性(コモンという方が適切かもしれない)を模索し空間に体現させる意思を表明している痛快さがある。誰かが定義したそれらしい公共性ではなく、他者と共有する社会のありようをそれぞれが創造的に模索する多様な公共性。今後の“グッドな”公共空間にさらなる期待を寄せたい。
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クリエイティブディレクター
- ユニット15:メディア・コンテンツ
15-01 メディア・媒体|15-02 一般・公共用コンテンツ|15-03 業務用コンテンツ|15-04 広告・PR手法|15-05 展示・ディスプレイ|15-06 ブランディング・CI/VI|15-07 フォント|15-08 一般・公共用パッケージ|15-09 業務用パッケージ
コロナ禍はデザインにも大きな影響を与えているが、メディア・コンテンツ、そしてパッケージやブランディングは、そのなかでも不可逆的で大きな変化が起きつつある領域である。
例えばパッケージは、そもそもプロダクトとの出会いが店舗からeコマースやダイレクトへと移行した今、目立たせるためだけの華美なデザインはますます受け入れられにくくなった。使っている間のプロダクトとユーザーの関係性を主軸に、そのブランドの起源、流通のさせかた、使い終わった後のゴミ箱の中までを考えて設計する必要がある。今年受賞しているパッケージデザインは、その視点において一歩先を行くものであった。
ブランディングやそのためのコンテンツについても、今やそれがいかに美しくリッチであったとしても、不安を抱えた社会のなかではなかなか届きにくい。こんなときに自分が一緒にいるべきブランドはどれなのか、ユーザーは今まで以上に吟味している。そのブランドの存在意義をはっきりと示し、様々な体験を組み込みながらも、ユーザーのなかでじっくりとそのブランドとの関係性を深めて発酵していけるようなストーリーを持つコンテンツが、今年は強かったように感じる。
こうした課題の多い社会状況においては、いつか安全で良い社会に住みたい、環境を良く変えていきたい、などの長期的なセンチメントが強まる。しかしそこには一朝一夕にはたどり着けない。また、こういうときはメディア上には不確かな情報が溢れやすく、人々の不安はさらに高まりやすい。メディア・コンテンツ領域のデザインが果たすべき役割は、不安を解消したい、楽しみたい、満たされたい、というユーザーの短期的なセンチメントをしっかりと拾いあげることであり、そしてそれを長期的なセンチメントが満たされる作用へとつなげていくことである。おいしいし、環境にいい。楽しいし、文化が育つ。今年はそういう刹那性と社会性と機能性のバランスが良いデザインをいくつか見つけられたのではと感じる。
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都市デザイナー/コレクティブデザイナー
- ユニット16:システム・サービス
16-01 一般・公共用アプリケーション・ソフトウェア、スマホ・タブレット向けアプリ|16-02 一般・公共用システム・サービス|16-03 保険・金融サービス・システム|16-04 業務用ソフトウェア|16-05 業務用システム・サービス|16-06 社会基盤システム/インフラストラクチャー
ユニット16のテーマであるシステム・サービスは、社会の流れをダイレクトに反映したプロジェクトが集まる傾向にある。今年も、様々なアプリケーションから新たなビジネスモデル、インクルーシブな活動や産官学の社会実装まで、幅広い応募をいただいた。
今年、審査全体を通して感じた流れの1つは、デジタル化の解像度の高まりだ。デジタル化するだけで価値がある時代は過ぎ、近年は、何を、なぜデジタル化するのかが問われている。様々なDXプロジェクトも、事業全体のどこを効率化し、何に人のエネルギーを注ぐのかを精査し、包括的なサービスデザインがなされていた例が高く評価された。例えば物流プラットフォーム「ハコベルコネクト」(21G161483)や、東京海上日動火災保険株式会社の「事故解決プロセス」(21G161445)などもそれに当たる。
2つ目は、現実世界とデジタルの連携・融合だ。物理世界がデジタル空間と繋がる真骨頂が垣間見えることがあった。例えば3D都市モデル「PLATEAU」(21G161467)は、各自治体に登録されるGISデータと連携しながらデジタルツインを構築し、現実世界ではシミュレーション不可能な様々な都市実験を可能にする。「Locatone」(21G161395)は、Sound ARにより現実世界に新たな音の世界を重ねることで、物理空間を開発することなく街の使い方を変える可能性がある。
3つ目に、インクルーシブな社会に向けたプロジェクトの、裾野の広がりである。子連れ移動に伴う悩みの解決情報を、ナビゲーションサービスに組み込みはじめた「NAVITIME for Baby」(21G161427)(標準appへの実装を切に願う)、アクセシビリティに特化した「みんなの劇場」を目指すオンライン劇場、「シアター・フォー・オール」(21G161459)などもそれに当たる。
また、環境循環の取り組みは、よりいっそう各プロジェクトの前提とされていることも強く感じた。
様々な社会変動に後押しされ、人・環境・経済のバランスが大きく見直されようとしているなか、テクノロジーと人間の力が融合することで新たな解を見出そうとする多くの応募プロジェクトに勇気づけられた。これらが次世代のインフラの兆しであることを願い、引き続きともに社会のデザインを考えてゆきたい。
昨年度までの大きな括りを分割し、「地域」にフォーカスし審査を行なったこのユニットは、以下の5つの視点を大切に審査にあたった。
1)本質的な社会課題に着目できているか
2)内容や仕組みにオリジナリティがあるか
3)表現や成果物(アウトプット)が美しいか
4)継続性があり、実績があるか
5)社会全体が良いデザインだと思える共感力があるか
3)に関しては表面的な美しさよりも、取り組みの想いや価値を人々に伝えていくために、ノイズを取り除くという点で極めて重要だと考えている。逆に言えば、その点が弱ければデザインの意図が伝わりづらくなり、我々審査委員も判断がつきにくくなってしまう。
4)は、新規案件であったとしても、継続するための視点や仕組みを持っているかどうか、もしくは、この取り組みを行うことで、次にどのようなバトンが渡るのかデザイン出来ているかという点を考慮し審査を行なった。
本年度の応募案件には、下記のような傾向が見てとれたように思う。
① 拠点形成や遊休地の利活用など、場所に関係する活動
② アイデンティティの探究や地域文化の醸成を目指す活動
③ なんらかの仕組みを用い人々をつなげていく活動
①の代表的な取り組みとして、台湾・高雄市の古い商店街における「Old Bazaar Rejuvenating Project」(21G171516)をあげる。これは、店主の高齢化にともない、虫食い状に空き店舗が増えていった商店街に、地元の若者たちが次世代を担う店を次々と誘致した取り組みだ。若者と高齢者が違和感なく交流を始めるなど再生に成功しつつある。
②は、「イヨボヤ会館の取り組みと『鮭のごちそう』」(21G171493)が分かりやすい。この地に根差す「鮭文化」を次世代につなげるため、レシピ本を作り各家庭に常備してもらうなど、台所から文化が醸成されるような丁寧な活動が評価された。
③に関しては、「ヒダスケ!」(21G171520)を紹介したい。高齢化率が進む飛騨市民のさまざまな困りごとを開示し、全国の方々から助けていただくための仕組みづくりにより、社会関係資本・関係人口が増加した好例である。
これらをはじめ、評価が高かった案件に共通するのは、活動者の顔が想像できること。地域社会を想う切実な行動が、人々の共感を生み、やがて大きなうねりとなって、未来を創っていく。
今年度のテーマとなる「希求と行動」に相応しい多くの取り組みが、全国に広がっていることを強く実感するとともに、継続するための更なる努力や、社会に希望をもたらす次なる展開を期待したい。
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実業家/編集者
- ユニット18:一般向けの取り組み・活動
18-01 一般・公共向け取り組み・活動|18-02 個人・公共向けの意識改善|18-03 産業向け意識改善・マネジメント・取り組み|18-04 教育・推進・支援手法|18-05 研究・開発手法
ユニット18の審査対象は「一般向け取り組み・活動」。近年はグッドデザイン賞の中でも高い評価を得るものも増えてきており、その年の傾向がありありと見て取れるユニットともなっている。
そんなユニット18において今年は大きな変化があった。それは弱者のためのデザインが高く評価されたこと。これまでも福祉の領域などで評価されるものはあったが、今回の審査で高く評価されたもののほとんどが、何らかの形で弱者に関わるものであった。
ユニット18の審査対象は様々な分野に及んでおり、その領域も幅広い。そのため、審査する上で大切にしたことは、一つひとつよく話して確認していこう、というものだった。審査委員もユニット18の特性上、様々な専門家が集まった混成チームであり、細かな意味や解釈もよく確認しながら、じっくり対話を繰り返した。時間はかかるが、深いところまで読み込むことができ、お互いに新しい発見のあるものとなった。
審査のポイントとしてよく議論されたのが、「美しさ」や「新規性」、そして「実績」があるかどうか。これらと同じくらい、もしくはそれ以上に重視されたのが「社会的意義」の有無。一方で意義はあるが、美しさや新規性などがないものは評価されにくいものとなった。あらゆるものに意義や正義がある。ただ、そのままでは届かないことも多い。ここにデザインの役割があると考える。
今回、評価の高かった弱者のためのデザインは、世の中と弱者の間を、いかに自然につなげるか考えられていたと思う。暮らしの中で存在を実感できるもの。自然と支援につながるもの。新しい価値に昇華させているもの。意義あるものをいかに世の中とつなげていくか。そういった場面で、デザインは大きな力を発揮することができる。
インターネットによって、大きな物語が失われて、タコツボ化してしまったと言われている。エンターテイメントや趣味はそれでもよいかもしれないが、もっと多くの人と共有する必要のある課題は、まだまだたくさんある。社会を包み込むような「包摂のデザイン」に期待したい。