グッドデザイン賞受賞概要

2020年度|審査の視点レポート

作り手のオリジナリティの追求〜2020年度グッドデザイン賞
審査ユニット07(家電)審査の視点レポート

2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit07 - 家電]
担当審査委員(敬称略):
三宅 一成(ユニット07リーダー|デザイナー|ミヤケデザイン 代表)
玉井 美由紀(CMFデザイナー|FEEL GOOD CREATION 代表取締役)
松本 博子(プロダクトデザイナー|女子美術大学 芸術学部長 プロダクトデザイン専攻 主任教授)
安井 重哉(UIデザイン研究者|公立はこだて未来大学 システム情報科学部 情報アーキテクチャ学科 准教授)

見出し

三宅 本審査ユニットの審査対象は生活家電や小型の空調機器などです。今年は審査対象数もかなり多かったのですが、海外からの応募が増えたので、バラエティに富んだ製品を見ることができました。この分野の製品は生活に直結しているものなので、その作り手がどうやって生活を見て、ものづくりをしているかというところが問われる分野ではないかと思います。
今年のグッドデザイン賞では「交感」というテーマがありましたが、作り手と使い手の間でうまく交感が起こっているかどうか、が審査ポイントだった気がします。
例えば「使いやすい」という一言においても、今年は自動化された製品がいくつか見られました。洗濯機で、洗剤や柔軟剤が自動投入されるものなどです。自動化はもちろん「使いやすい」ということですが、他の「使いやすい」が実現されている例もありました。その使い方に迷わない、何かを説明されなくてもすぐに使えるということもあります。
今回本ユニットの受賞作を俯瞰してみると、グッドデザイン・ベスト100とかグッドデザイン金賞に選ばれたものは、作り手独自の考え・オリジナリティが明確に見えるものが高く評価されているように思います。そういうふうにオリジナリティを持っているものが、同時に外観デザインも良くて、使いやすくて、細かいところまで考えられている。そういうものが上位賞を受賞している印象です。

家庭用電動ミシン [子育てにちょうどいいミシン]

三宅 こちらは「ミシンとはどういうものか」ということがよく考えられている商品だと思います。これは「ミシン」をデザインしたよりも、「縫う」ためのモノをデザインしたらこうなりました、という感じがするんですよね。それがすごく共感できると思いました。ユーザーがどう使うかというところが非常によく考えられているデザインだと思います。

松本 これは個人的にもイチ押しで、いいところがたくさんありました。このミシンは、パソコンや絵の具、鉛筆などと同じように、糸と針と布を使うクリエーションのツールになったという気がしています。使い方の動画がすぐ見られるようになっていたり、初心者にとっても導入しやすい工夫が随所になされています。それから、ミシンは収納場所に困ることがあるのですが、これは本棚に収められるようなミニマムなデザインにもなっています。初心者にとってミシンは重いし大きいし、いろいろなハードルがあるのですが、そういう既成概念を崩して、手軽なものにしてくれています。
それから、スマートフォンで動画を見るときに、スマホを置ける台になるパーツがあるのですが、それが実は針カバーにもなります。本当にユーザーのことを考えて、ユーザーと一体になってデザインしているということがすごいと思います。

三宅 価格が低めに設定されているところもすごいと思います。ちょっと縫いたい時に気軽に買える値段です。今までのミシン業界では売上が右肩下がりだったけれど、これは全然生産が追いついていないという話を聞きました。

玉井 私もそうなんですが、年に何回か「ミシンが欲しい!」と思う時があるんですよね。そんなに複雑なものを作るわけではないので、そういう時にサッと使えるというのは、今までありそうでなかったものだと思います。少し視点を変えるだけで、こんなにニーズと一致するんだなということを非常に感じました。

Air Conditioner [Cassette Air Conditioner]

三宅 これはダイキン・マレーシアが開発した冷房専用のエアコンです。これも、なぜ今までこういうものがなかったのか、と思いました。普通に考えれば、マレーシアのような南国で、冷房しか使わないところは冷房専用にしてもよかったと思うのですが、コストのこともあったからなのか、これまでは冷暖房が一緒のものを使ってたんですよね。これも、冷房専用にして機能を絞ることだけで、モノとしてこんなに良くなるということがわかります。

玉井 たとえば会社などで、デスクの位置によっては、ここは寒いけど、ちょっと離れたところにいる人は暑い、というような温度差がある場面が結構ありますよね。通風口にパーツを取り付けたりもしますが、それほど改善されなかったりします。それは、審査でお話を聞いて驚いたのですが、どうやら冷暖房が一体になった機器の特性だということでした。それを冷房専用にすることで均一な温度にできる、というのが本当に衝撃的でした。作り手が前提を思い切って変えたことで、みんなが喜ぶモノができた、というのは、これが本来あるべき姿だったんだなと感じました。

安井 「みんなが喜ぶ」の「みんな」というのがエンドユーザーだけではなく、施工業者もそうなんですよね。設置する際に工事の手間が少なくて済むので、施工もとても楽だと聞きました。おそらく、これは技術ありきの話ではなくて、その人たちのために一番良い技術は何か、というところから考え込まれた設計だと思います。この製品に関わる人たちのことを広い意味で考えて作られた製品だと私も感じました。

松本 メンテナンスのしやすさという点でも、大きなパネルの片側を保持して、開けるだけでメンテナンスができるという工夫もあって、いろいろなことを考えて作られている優れたデザインだと思います。

Non-electric washing machine [Yirego Drumi]

三宅 これは電力を必要としない洗濯機です。そもそも海外では、家に洗濯機がないという家庭も多いのですが、ちょっとだけ洗濯をするのに、足でペダルを踏む操作で、電気を使わずに洗濯できるというものです。
もともとの意図はそうだったかもしれないですが、実はいろんなところで使えるので、電力供給が不安定な発展途上国でも使えますし、災害のときにも使えます。実は作ってみると、意図しなかったようなところに普及しているという面白い製品だと思います。

松本 たとえば屋外でガーデニングなどを行う際なども、外で洗って完結したいという用途にも使えます。洗濯機というのは一般的には家電ですが、これは電気使わないですね。

玉井 電気を使わないというのは、すごい発想の転換だと思います。見た目もそうですが、いろいろなものがなくなっているんです。ハンドルを上げるとロックが解除されるなどの工夫もあって、余計なものは一切ないシンプルなデザインが使い易さにもつながっています。たとえば、海遊びから帰ってきたとき、水着だけを洗うために普通の洗濯機を使うのは少しもったいなくて、でも手で洗うのも面倒だし、そういう場面などでもすごくいいなと思います。普段使いの中での最適化ができると思います。今、冷蔵庫も洗濯機も大型化していて、大きいほうが性能も良いし欲しくなるのですが、それを常にフル活用できないことが、エコだったりサステナブルという観点から少しうしろめたい気持ちになりがちです。最適化されることで、こういう使い分けができたり、持ち運びもできるのでキャンプにも持って行くこともできます。もちろん災害時にも使えます。非常時と平常時のフェーズをなくすことを「フェーズフリー」と言うのですが、そういった考え方で幅広く活躍できるプロダクトがこれからも増えてきてほしいと思います。

安井 大きさもちょうどいい感じですよね。これより小さくても使いにくそうだし、大きすぎても大変そうかなと思います。2キロぐらい洗えるって書いてますね。

玉井 審査を振り返って思うのは、最適化と最小化というのは大きなポイントだという気がしました。そしてこの製品は、それが象徴的に表現されていると思います。便利さや使いやすさをどんどん求めていくと、環境に負荷がかかってきたり、必要のないものまで作ったりということが発生してくるんですね。そのような状況の中で、いかに最小限で必要なものだけを作って使い続けていくかというのが、これからの私たちに必要なことなのではないかと思っています。そういった製品が受賞作やベスト100の中に多かったと思いますし、このユニットの中にもそういうものが増えてきていると思います。
それから、中小企業が独自の製品を開発していく挑戦をした素晴らしいものが増えてきている印象を受けました。大きい会社でないとできないものというのはたぶんあると思いますが、小さい会社でもすばらしいものは作れるのです。みんなが工夫して、少しずつ良いものを作っていくということがすごくいいと思っています。きちっとエビデンスをもっていて、クオリティもちゃんとしたものを作られているというところがすごく感動的でした。もっとそのチャレンジを広げていくことで、世の中にいいものが増えていくといいなと思いました。

冷蔵庫 [日立冷凍冷蔵庫 国内主力高級鋼板タイプ(Hタイプ)]

三宅 冷蔵庫って、もうなかなか変えられないというか、フォーマットがある程度決まっている中で、どうデザインしていくかということがあります。この製品はガラスではなく鉄の鋼板で作られたパネルを使っているのですが、実は冷蔵庫に使われてるガラスは他の素材とくっついていることで、かなりリサイクルしにくいということが問題としてありました。コストもガラスに比べて安価な鉄の鋼板はリサイクルもしやすい、ただデザイン的にも見た目的にも安っぽく見られてしまう。それを克服するために、フラットなパネル鋼板を新しく開発したということでした。話を聞いていると「フラットな鋼板を作りました」と簡単に聞こえるんですけれど、実はそれを実現するためにはかなり大きな努力があっただろうと思います。かなりマニアックな話なんですが、端っこの押さえ方や金型の抜き方向なども、ものすごくきっちりと作られています。冷蔵庫は、先ほども言ったように、なかなか変えられない世界なので、パッと見では同じように見えてしまうんですが、すごくいい形のディティールの集まりが、一つの良いデザインを作っているということを証明している製品だと思います。日立さんはもうずっと冷蔵庫を作ってるリーディング・カンパニーなので、やっぱり老舗メーカーとしての矜持を持って新しいものを作ってきたなという、ある意味で執念を感じました。

寝室用パネルエアコン [眠リッチ]

松本 こちらは、風と音を抑え、入眠時のストレスを減らすことができるエアコンです。眠りに対する価値観がすごく高まっている昨今、睡眠の質を良くすることで集中力が向上したり、生産性が高まるということに注目が集まっています。家電市場を見ていると飽和状態かなと感じる中で、ちょっと視線をずらすことで、こういうものが作れるんだということに感動しました。赤外線を使って、風も音も出さずに部屋全体を暖かくしたり冷たくしていて、空気そのものの温度を変えるという製品です。たしかに、風が当たるという感覚が眠りを妨げますし、体の表面だけが冷たくなってしまう。そこを改善した非常に面白い解決方法を提供しています。それから形状も天井と同化するかのような形で、できるだけ薄くしているので、存在感もあまりないわけです。着眼点も出来上がりも素晴らしいと思いました。

木質ペレットストーブ [コンコード メイ]

安井 審査会場で初めて見たときに、最初はなんだろうと眺めたり触ったりしてみました。私は北海道に住んでいるのですが、いろいろな施設に行っても薪ストーブを置いたりしていて、炎が揺らめいているのを見ているだけでも生活が豊かになるような印象を持つようになりました。これはさらにもう1歩踏み込んでいて、いろんな生活のシーンが目に浮かぶようないろんな仕組みが入っています。単に部屋温めるだけではなくて、料理を作ったり温めたりするための部品が付いています。単純に温めで機能がついているというだけではなくて、その機能を楽しむための仕掛けがいろいろ工夫されています。

脱臭除菌照明 [MIKAZE LED脱臭照明 MKZ-LSN30]

玉井 これは照明の電球をつけるソケットに普通につけるだけで、その空間が脱臭除菌されるという製品です。空気清浄機を付けなくても脱臭除菌されるというもので、機能をきちっと検証をしています。最小限のもので半永久的に使い続けられるということはすごく楽ですし、今このコロナ禍の中で、照明が全部これになれば、自動的に空間が除菌されていくのかなとか、そんなことも考えたりして、こういったものを提案していくのはすばらしいと感じました。一番大変なのは売っていくことだと思うのですが、そこにチャレンジして、いいものを世の中に出していくという企業の姿勢は応援していきたいなとすごく思いました。

Steam mop [S5]

松本 名前の通り、スチームのモップという製品です。カチッとした形で、雑巾を着けて手で動かすモップと同じように、スチームを出しながら床掃除ができるものです。行動の動線が良く考えられていて、(ハンドルを)持って、少し力を加えるとオンするという最小限の動きでスイッチを入れられたり、うまく動かすことができるというところが、よく考えられています。家の中に置かれることも考えて、インテリアに馴染むようなスタイリッシュな形ではあるのですが、取っ手のところは押したり引いたりがしやすいようなエルゴデザインになっています。そこがうまく融合していて、製品としてよくできてると思います。

Smart curtain controller [SwitchBot Curtain]

安井 カーテンの開け閉めがスマートコントロールできる製品です。おそらく同じような発想の製品はたくさんあると思いますが、こういう機能があったらいいよね、みたいなことがちゃんと組み込まれていて、よく考えられています。

玉井 IoT でいろいろなものと繋げる、という点、また工事必要で簡単に取り付けるだけというのが、とてもスマートですよね。やっぱり大きな工事が不要といういうのは重要なポイントだと思います。今後は、デザインがいいとか使いやすさや楽であること、ということは最低限のものになってきて、いかに社会課題や環境に対して、サステナブルに繋がっていくか、みたいなところがないと難しいのかなと感じます。今回注目されている製品は、みんなそういうところを考えられてるなという印象を受けました。