グッドデザイン賞受賞概要

2020年度|審査の視点レポート

集合住宅建築における「循環型社会」と「ローカリティ」〜2020年度グッドデザイン賞
審査ユニット15(住宅建築(中〜大規模集合住宅))審査の視点レポート

2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit15 - 住宅建築(中〜大規模集合住宅)]
担当審査委員(敬称略):
篠原 聡子(ユニット15リーダー|建築家|日本女子大学 学長)
猪熊 純(建築家|首都大学東京 都市環境学部建築都市コース 助教 / 成瀬・猪熊建築設計事務所 主宰)
駒田 由香(建築家|駒田建築設計事務所 取締役)
藤原 徹平(建築家|横浜国立大学 Y-GSA 准教授)

住宅街区 [ソーラータウン府中]

16戸の戸建て住宅の配棟をずらして共有地を設けた上で、「地益権」という仕組みを設定して、個人の土地とエリア全体のコモンスペースの両立を図った取り組みがユニークです。本来はより効率を重視して多くの戸数を建てることも可能であった土地であるにもかかわらず、あえて戸数を減らしてその分、公共の財となるスペースを設けることで、地域の住みよさを増していくという考え方は、今後の住宅地のあり方として示唆に富んでいます。さらに、東京産の木材を使った開発を手がけてきた地域工務店と建築家とが時間をかけて取り組んでいるプロジェクトである点も、地域経済の持続性を高める意味で注目されます。
今は集合住宅の分野でコモンスペースの活用が注目されるようになって、しっかりとしつらえられた共用スペースと運用のプログラムが整備されることも多いのですが、ここはより緩やかな形でありながら、かえって住民同士の持続的な関わり合いがうまく機能している点が「自走するコミュニティ」の力を感じさせます。

集合住宅 [クリオ片瀬江ノ島]

集合住宅 [レ・ジェイド辻堂東海岸]

いずれも積層型の集合住宅として、よくある歴史的なコンテクストや物語性を引用するようなアプローチを採ることなく、地域社会や風土との自然な関係を感じさせ、地域の暮らしに根ざした住宅建築になっていることがうかがえます。
日本だと地表階にも住戸が配置されるのが一般的で、そのぶん外部とのプライバシー確保のために塀や密度の高い生垣が巡らされるなど、周辺地域との隔絶性が生まれがちですが、ここは一階の住戸が外部と直に出入りできるダイレクトアクセス構造が採用されていて、生活している人の存在を感じやすいことも効果的です。集合住宅が面する通りや街の個性と住宅の個性とがうまく融合していくような開発の方向性を示している点で望ましい事例と言えます。

集合住宅 [プラウドシティ東雲キャナルマークス]

広い敷地を擁する大規模な集合住宅ほど、必要な要素をカバーするため、平面計画や配棟計画などに縛りが生じてしまいがちですが、オーバル形状の建築の中に基礎的な要素を収容して、中庭を積極的に機能させている点が好ましく感じられます。街区型と棟型の中間的な成り立ちを伴った大規模開発として、「集合住宅をつくることが地域の骨格をつくる」という意識を持って開発を行う意義を感じさせる点で、今後の他事例へも波及することが期待される、注目すべきプロジェクトと言えるでしょう。

マンション・公園 [デュオセーヌ国立]

高齢者向け集合住宅で、敷地内の公園を地域社会へ開放するとともに、館内の自主運営のレストランも外部からの利用が可能です。建築のプランも内部利用者と地域の利用者が関われる部分がうまく濃淡づけられています。高齢者にとっては自ら外へ出ていくこと以上に、自分たちの身近な場に外の人たちが集っているような状況は望ましく、そうしたことを誘引する設えになっています。高齢者向け集合住宅を地域に開くことには難しさを伴いますが、今後さらに重要になるこのテーマに対してテストケースとなる水準の高さが認められます
さらにこの住宅からは、集合住宅の外部に形成されるランドスケープの質や、居住地に付随するような戸外スペース、いわば半戸外スペースに求められる包摂性などについて考えていく意義も見出されます。

共同住宅 [レクシード秋葉原]

共用スペースを、集合住宅の本体とはまったく異なる別棟(離れ)として設けています。このスペースは入居者以外でも利用が可能で、秋葉原という立地性を反映した運用が展開されています。賃貸住宅であるにもかかわらず、こうした共用スペースの整備と活性を進めることは非常に珍しく、集合住宅が街の一部を設計しているという意識のもとで、地域社会のポテンシャルを上げることは、結果として入居のモチベーション向上へも繋がる効果があると思います。一方で、別棟と住宅棟本体との関係も複合的に追求していく必要があります。

賃貸共同住宅 [まちのもり本町田]

コレクティブハウスとコモン付きの賃貸住居を複合している珍しい事例です。コレクティブハウスは比較的生活に対する意識が高い人々が対象となる一方で、そのぶん閉じがちな傾向がみられますが、そこに賃貸入居者が加わり、双方が同じ環境下で混じり合うように共存することで、どういったコミュニケーションが生まれるのか、今後の展開に期待させられます。
これは社宅であった建築のリノベーションですが、もともと単一の機能を前提とした建築が、複合化した住まい方を内包する場として再活用される場合、どのようなデザインをしていくべきかは、同様の再開発が増えると考えられる今後、さらに重要になってくるテーマであろうと思います。

集合住宅 [セントラルレジデンス笹塚]

集合住宅における定期点検・修繕という重要なテーマに対して、設備シャフトを外部に露出させることで対応しています。集合住宅における廊下と設備シャフトのデザインが外部環境に与える影響はとても大きく、そこに積極的に手を入れているのは有効なアプローチであると言えます。今後は設備系を外へ出したことで、室内やバルコニー空間のあり方にどういった変化がもたらされるかも問われてくるでしょう。

マンションでの床空調システムの取り組み [床快full(ゆかいふる)]

床空調の設備として、通常の階高で、かつ一般的な空調設備を用いることで、効率的で快適な室内の温熱環境をもたらします。すでに多くの導入事例があり、暮らしの快適さに対する誠実な姿勢が感じられる取り組みです。

集合住宅 [FLATS WOODS 木場]

複数企業の社員寮機能をシェアしている建築ですが、難燃性の高い木製部材の研究開発を大学と共同で行って活用するなど、都市部における中大規模の木造建築の可能性を実証する実験的な建築になっています。今後ますます都市部における木造建築のニーズが高まることが予想される中で、技術的なチャレンジで先駆けていますが、そうした建築物として持つ意味としても、実際の規模的にも、都市に対するインパクトが大きい事例であるわりには、地域に対して閉じた印象があり、より外向きに、効果的なアピールを社会へ行うことも有効ではないでしょうか。
今は木造建築の新しい可能性が様々な形で追求されていますが、テクノロジーの精度を高めていくことで、高度な内容であるぶん応用範囲が限られるものになるのか、より一般的なレベルで広く活用されるものになるか、この実験からはそうした新しい木造建築の将来像についても考えさせられます。都市における木造建築のあり方を考えるフェーズを一段前進させた建築であると言えるように思います。