GOOD DESIGN AWARD

グッドデザイン賞受賞概要

2014年度|審査講評

ユニット1 生活用の装身具、スポーツ用品

生活用の装身具、スポーツ用品

廣田 尚子
プロダクトデザイナー

今年もユニット1からは多数のベスト100受賞が選出され、成熟しているかに思われる身の回り領域は、新しい用途、技術の応用や構造、心の充足への緻密な創意工夫に満ちていることがうかがえた。ベスト100以外でも幅広いジャンルで、これまでなかったユニークな視点で解決された応募が多々あり、全体に質の高い年だった。日用品には最新のテクノロジーを開発する割合が少なく、技術については他分野で既に使われているものを上手く応用改良して製品の進化に役立てる例が多い。成功する製品開発には、今ある技術を何に活かすかという広く多面的な視点、人のニーズを深掘りする探究心、新しいストーリーを組み立てる力、心を満たす心地の質を追い求める「デザイン発想」が必然だ。日用品の分野では、技術は応用・転用でも素晴らしい商品を生み出すことができる。これは今日本が抱える問題と一致している。日本は技術立国として技術の開発に力を注ぐが、そのエネルギーを「技術を活かすデザイン視点」にシフトすれば、国際的に通用する魅力ある製品の開発が可能だ。特に中小企業には大事な課題で、中小企業こそデザイン発想で物作りに取り組んで欲しいと感じた。しかしまた大企業でも、腕時計については同様で、流行技術の足し算を形にすることでは魅力ある製品は生まれない。審査会場では、明解なストーリーを立てて、過去にとらわれない挑戦的な開発を望む意見が多数上がった。
  今年は日用品関連ユニットで担当するジャンル区分けが新しくなり、ユニット1にイヤホン、ヘッドホンが登場したことが大きな変化だった。これはヘッドホンが音響機器の付帯道具といよりも、身につける機能品という、腕時計に近い成熟商品になったということを意味する。音が良いだけではなく、心地を満たす商品開発が迫られている。日用品における心地の質は、技術が前面に出ず、ユーザーの生活にシンクロして夢や希望を与えるところまで昇華したものを指すのではないか。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット2 身の回り・ライフスタイル用品

身の回り用品、ライフスタイル用品

渡辺 弘明
インダストリアルデザイナー

このユニットでは文具、楽器、美容機器、ペット用品、防災・・・と幅広い分野を審査対象としている。身辺のデザインと称され、常に身近にあるものという点では本年度のテーマ心地の質がもっとも問われる分野かもしれない。
審査で感じたのは「落ち着いている」こと。成熟した製品分野で、革新的なテクノロジーとは無縁でありながらも地道にゆっくり進化しているという印象。
文具では修正テープがいくつかエントリーされていたが、内蔵するメカをシンプルに、スムーズに、正確に、早く、たるまず、と消すだけの作業に費やすメーカーの情熱には頭が下がる。ベスト100に選ばれた株式会社トンボ鉛筆[モノノート](14G020081)は、周知のMONO消しゴムと同じプロポーション、アイコンで製品化した。修正テープに必要な全てを凝縮し洗練させ、このブランド相応しい仕上がりになっている。
オムロン ヘルスケア株式会社[電子体温計](14G020116)の原型は2005年に遡る。体温計として定番になっている感があるが子供用としてさらに進化した。先端部がゴム製でやわらかく曲がるため肌に優しく、冷たさにひやっとすることもない。子に対する親の目線、気配りに審査委員一同思わず納得した。
パナソニック株式会社[電池がどれでもライト](14G020122)は、2005年のグッドデザイン金賞のBF-104Fから大きく進歩を遂げている。大きなハンドルが特徴で4種の電池に対応、内蔵可能とし、非常時の備えとして頼れる懐中電灯。震災後のパニックで特定サイズの電池が買えないという体験をした方も多いのではないか。これがあれば、家中のあまり電池でサイズに関係なく使える。
楽器ではヤマハ株式会社[グランドピアノ](14G020142)が異彩を放っていた。演奏者にとってノイズとなる造形要素を廃し、演奏することに集中できるフォルムを追求した結果、緊張感があり隙がなく周囲を凛とした空間に変える力を持っている。
この4点はいずれも老舗メーカーの製品であるが、どれも歴史が深く年月を経て進化し結実している。淘汰される物も多い中で、大きく変化することはないが守り通すべきは守り、変えるべきは何かをしっかりと見極めることが成功に繋がると教えられた。
最後に。審査委員から多く聞かれたのがカラーに対しての意見。特に有彩色に関してはどれも吟味してセレクトしたという印象が薄い。色も心地の質を決定する大切な要素と言え、フィニッシュの重要な要素として捉えて欲しい。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット3 生活・家庭用品、キッチン用品

生活・家庭用品、キッチン用品

山本 秀夫
プロダクトデザイナー

ものづくりの現場が海外へ移転し、国内で作られる製品は付加価値の高い高級品か、大量生産に向かず、高い専門技術が必要なものだけになっていく。
そんな中で、産地の素材や技術をうまく活用しながら、丁寧にデザインを編集し、しかも手頃な価格で提供されるプロダクトと出会った。手で触れ、肌で感じ、いつも生活の近いところにある道具が集まるこのユニットの審査を行い、日本の産業を救うのはこの「デザインを編集する力」なのだと確信した。
今年のテーマは「心地の質」である。道具の機能だけでなく、洗練された「使い心地」や、それらの道具に囲まれた生活の「居心地」までが評価軸となる。
このユニットでは年々、小売業からの応募が増える傾向にあった。製品開発できる環境が整い、しかも顧客の声がダイレクトに届く小売業は、これを瞬時に製品に反映できる強みがある。しかし多くはマーケティングの結果や使用素材の機能だけに頼る傾向があり、デザインにまで踏み込んでおらず、評価できるレベルに至っていない。
審査で高い評価を獲得したのは、プレステージジャパンの「重箱」(14G030166)をはじめとする一連の食器群、アンドーギャラリーの「グラス」(14G030143)、良品計画の「羽毛掛ふとん」(14G030216)など、デザインプロデューサーが素材と専業メーカーを吟味し、自ら働きかけて職人の優れた技術を活かし、時間をかけて質の高い製品に仕上げたものであった。
メーカーがつくる量産プロダクトの応募が少ないのが気になるが、白山陶器の食器「すみのわ」(14G030163)や、象印マホービンの「ステンレスハンドポット」(14G030184)や「フードジャー」(14G030195)、岩谷産業の「バーベキューグリル」(14G030199)などには、メーカーに蓄積された高度な技術と、これをさらに前進させようとするエネルギーが感じられ頼もしい。
「心地の質」とは良い時間がデザインされたときにはじめて現れるものである。道具が機能を発揮する瞬間だけに注目するのではなく、道具と一緒に過ごす時間に目を向けデザインが編集されることを期待したい。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット4 生活家電・音響機器・照明器具

生活家電、音響機器、照明器具

柴田 文江
デザイナー

本ユニットは、家電、照明、パーソナル音響機器などを中心としたカテゴリーであり、今年の傾向として顕著なものは大きく3つあった。そのひとつに「冷蔵庫デザインの変化」を挙げることができる。すべてのメーカーが強化ガラスをフロントパネルに使用したデザインとなり、操作部やハンドルもガラス素材の特性を活かし、フラットかつ極力要素を少なくした処理を行っていた。ガラス端面が露出するフレームレスなデザインが増えたことは昨年との大きな違いであり、数年前の冷蔵庫と比べると、リビングなどの空間とのマッチングを考慮した進化と言える。もうひとつはスマートフォンの音楽をワイヤレスで楽しめるスピーカーの提案が多く見られたことである。簡易品/普及品/高級品共に、音楽の楽しみ方がスマートフォンを中心に考えられていることは市場を反映しているといえるが、その一方で従来の音響機器が持っている本格的な機器としての重厚感が失われつつあることはやや残念である。最後に、今年の最も重要な傾向として、良品計画に代表される「家電メーカーではない企業による家電製品のシリーズ展開」を挙げたい。これらの開発事例はそれぞれの企業のアイデンティティーを強く表現しており、これまでの家電製品が全メーカー横並びに同じようなデザインとラインナップを展開してきたことを考えると、ユーザーに近い「売場」を持っている小売業の方がより正しくニーズをとらえ、製品開発に結びつけていると感じた。その他の良品計画の製品にも、ユーザーの暮らしを見据えたものづくり姿勢を強く感じ、売場至上主義の家電デザインに対して良いお手本になったように思う。それは「高級品は大型で多機能である」「誇張された表示部は見やすい」「プラスチック外装の華飾」といったような、これまでの商品開発セオリーのようなものに対する変化の兆しとして捉えることもでき、今後の家電デザインにおいて希望の種となるだろう。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット5 個人・家庭向け情報機器

個人・家庭向け情報機器およびその周辺機器

櫛 勝彦
プロダクトデザイナー

ユニット5では、民生向け情報機器を対象領域として審査した。  パソコンとその周辺機器、タブレット端末やスマートフォン(以下、スマホ)、デジタルカメラとその周辺機器、テレビやゲーム機といったエンタテイメント系機器等が、本ユニットでの代表的審査対象である。一見、各製品分野は独立して在るようにも思えるが、審査を終えた今、スマホという新たな情報プラットフォームの普及が、多くの領域における製品開発に少なからず影響を与えていることに気づかされる。メールやインターネットブラウザーなど、従来パソコンを中心として使われてきた機能も、その使用頻度の重心はスマホにシフトしており、撮影や、ゲーム、テレビ視聴といった、これまで固有のハードウエアに依存してきた行為に対しても、スマホが急速に侵食してきている。常に携帯できるスマホの利便性と、(ハードウエア開発に比べ)低予算で機能実現が可能なソフトアプリ開発といった新状況が、ユーザとメーカの意識に変化をもたらした。
 この新たな情報環境の中、スマホと寄り添い、そのユニバーサルなプラットフォーム特性を最大限活かそうとするアプローチと、それとは逆に、ユーザや使用シーンを絞り込み、モノとしてのリアリティ、高品位な情報入出力装置としての原点回帰を目指す方向性の両方が見受けられた。例えば、カメラでいうならば、前者の代表は、ソニー・レンズスタイルカメラ商品群(14G050388)であり、単なるスマホ撮影で物足りないユーザのセグメント化に成功している。大手カメラ各社のデジタルカメラにおけるアナログ操作感の快適性を訴えた製品群は後者の例であるが、シグマのdp Quattro(14G050396)は、気軽な撮影とは縁を切った、ある種「開き直り」から生まれた製品であり、スマホの存在が、そのカウンターとしての新たなフォルムを生み出したと言えよう。
 スマホ自体をサポートする周辺機器、例えばモバイル充電バッテリーなどの申請が多かったのも今年の傾向であるが、国内各社の撤退により、実はスマホ本体の申請は多くはなかった。パソコンやテレビのデザインでは、現代の生活状況に対する新たな解釈を見出せる製品は少なかったが、ソニーの4K超短焦点レンズプロジェクター(14G050384)は、例外的にスマホ文脈とは無縁の位置にあり、それが、単純な「驚き」を与える強さに繋がったと考えるのは、やや考えすぎであろうか。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット6 家具・インテリア用品、住宅設備

家具・インテリア、住宅設備

橋田 規子
プロダクトデザイナー

住宅設備商品では、空調、水廻り、玄関廻り、ドア廻り、窓廻りなどがあり、今年はこれらにおいて、省エネ、健康指向、防犯、防災、といったポイントが重視されていた。数が多かったものとしては、窓やドアに関するものが挙げられる。その中でも、防災関連商品や設備の応募は本年度も継続して多く、地震や水害に対しての意識の高まりが感じられる(14G060520 簡易型止水シート/止めピタ 文化シヤッター株式会社)。これに加え、採光や通気などにおいては、健康志向かつ防犯を踏まえた内容となってきている。また、住宅設備のインターフェースとして、照明スイッチ(14G060453 配線器具/パナソニック株式会社)や、キッチンコンロ(14G060475 ビルトインコンロ/大阪ガス株式会社)など、新しい操作性を導入したものがあり、今後の展開が楽しみである。気になった点としては、国内エアコンの省エネ性能向上と形のまとめ方のバランス、パワーコンディショナーなどのエネルギー系設備のデザイン性である。次年度に期待したい。
家具については、椅子が充実しており、障碍者や高齢者などの弱者に向けたデザインも多く応募された(14G060447 座位保持装置/川村義肢株式会社)。今後の在宅介護の方向性を示唆しているが、さらに機能、素材、形状を融合させて美しさを向上させてほしい。家庭用家具やインテリアは、日本的な繊細さや高い技術力を活かした心地よい製品が多く見られた(14G060430 ダイニングチェア/ 飛騨産業株式会社)(14G060432 椅子/株式会社宮崎椅子製作所)(14G060443 家具(シェルフ)/株式会社メーベルトーコー)。日本の家具やインテリア会社は、高い品質と共に美しいものづくりを実現している。これからも視覚的かつ体感的に使い心地の良さを追求した製品づくりを継続してほしい。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット7 素材・部材、開発・生産・製造用の機器・設備、製造技術・製造法/研究・教育・医療用の機器・設備

素材・部材/開発・生産・製造用の機器・設備/製造技術・製造法/ 研究・教育・医療用の機器・設備

安次富 隆
プロダクトデザイナー

ものづくりや医療関連のプロダクトの大きな役目は「人を助ける(人の手を助ける、人の生命を助ける)こと」です。助かる!と思えてこそ良いデザインと言えます。特に人の命に関わる医療機器には、本年度の審査テーマ「心地の質」においても最上の質が求められます。そのため審査も慎重に行なう必要があり、昨年以上にヒアリングや対話型審査に力を入れました。その結果、本年度は「微に入り細に入りデザインを深めているプロダクトが多い」印象を持ちました。この分野においてもデザインの役割を認識して、いかに目的に対するデザインの応用と効果を深めることができるか、真剣に取り組む事例が確実に増えてきています。
そうしたデザインの深め方は様々です。例えば、徹底的な作り込みが特徴の株式会社デンソーの[産業用ロボットVS050 SⅡ](14G070580)は、減菌環境へ適応させるためにパーティングラインさえも埋めて仕上げています。株式会社セントラルユニの[医療ガス供給設備ユニライン](14G070609)は、病院内のガス供給システム全体を見直すことによって、災害に強いシステムを構築すると同時に院内を居心地の良い空間に変えています。異分野の技術を応用することで、高度なモノ作りを行なっている事例もありました。株式会社シャルマンと福井大学が開発した[脳外科マイクロ剪刀](14G070602)の製造には、眼鏡フレーム製造で培ったレーザー微細接合技術が応用されています。ソニー株式会社の[医療用ヘッドマウントディスプレイシステムHMI-3000MT](14G070604)は、ゲームなどのエンタテインメント用に開発された技術の応用です。逆転の発想で問題解決している事例もありました。株式会社基陽の[高所作業用ランヤード](14G070583)は、外れにくさが要求されるフックを、取り外しやすくすることで落下事故の問題を解決しています。ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社の[卓上型会話支援機](14G070589)は、「話す側でもできる支援」という発想の転換によって、難聴者に聞きやすい音を創出しています。
人を助けるデザインを真摯に追求したこれらのプロダクトは、明らかに見た目も美しく魅力があります。しかし、人を助けるためのデザインの追求に終わりはありません。今後の進化も楽しみに感じられる年でした。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット8 オフィス用品・機器、流通・販売用の機器・設備/公共用の機器・設備

オフィス用品・機器/流通・販売用の機器・設備/公共用の機器・設備

朝倉 重徳
インダストリアルデザイナー

ユニット8の審査対象はビジネスユースおよびパブリックユースの機器類だが、その内容は多種多様である。一つの括りは「OA機器、家具什器、文具」などオフィス環境に置かれる道具だ。OA機器ではA4サイズ対応プリンター/スキャナーの応募が多く、各メーカー共に省スペース、使いやすいインターフェース、簡単な紙交換やメンテナンス性など、細部まで気を配った造り込みがなされており、厳しい設計条件の中での完成度の高さが印象的だった。その中でも、造形的に美しく、型シボなど成形部品の精度をよくコントロールした成熟機器の逸品として、キヤノンのインクジェットプリンター/複合機(14G080657)を高く評価した。
 特に大きな技術革新がなかった家具什器の領域では、提案の質と製品の完成度が評価のポイントになった。オフィスの空間利用に対する提案では、仮説の検証が不十分で、課題を残したままの審査対象も散見されたが、新たな開発に取り組む姿勢は評価された。一方で、完成度の高さで評価された製品として愛知株式会社の椅子が上げられる。座り心地という必須条件を満たした上で、価格に見合った適正な構造、素材、意匠が施され、製品群を通して企業の一貫した開発姿勢をも見ることができ、総合的に高く評価された。
 審査対象のもう一つの括りは「流通・販売用の機器・設備/公共用の機器・設備」として、業務用の道具や、めったに一般消費者の目に触れない機器類である。病院の配膳車では、温かい料理は温かいまま、冷たい料理は冷たいまま患者に届けるだけでなく、看護士の労働軽減が求められ、風力発電機では冷却効率を考えた空力特性が性能を左右する。また、セキュリティーシステムでは画像や音声の解析が機能の要であり、タービン発電機では搬送効率が設計与件になる。審査で評価された製品の例を挙げたが、このような機器も、機能が満たされているだけでは良いデザインとはいえず、美しさを持ち合わせていなければならない。このことは、マーケティング的経営価値だけで説明するのは難しく、理解するためには、機能と美をこの世(宇宙)の原理に従う秩序として等価なものと捉え、それが、やはり宇宙の中に存在する人との関わりに於いて、心地よさとして繋がっていくことがデザインだとして考えなければいけない。つまり、人と機能と美が一つの原理に従うという考えの下で、その道具が合理的であるかどうかが問われるのである。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット9 移動機器・設備

個人用の移動機器・設備/産業用の移動機器・設備/公共用の移動機器・設備

山田 晃三
デザインディレクター

「移動機器と設備のデザイン」
 「移動」の歴史は、人類の歴史とイコールである。獲物を追いかけ、新天地を求め、ときに動物にまたがり、船を漕ぎ、車輪を作り、人は地球のいたるところに君臨した。その後の動力の獲得は、鉄道や自動車、飛行機の発明につながり、宇宙へとその行動範囲を拡げようとしている。このユニットはそうした「移動」の機器とそれを支えるさまざまな装置や設備を対象としている。
 移動の技術は発展の一途である。しかしいっぽうで 障害や高齢化など歩行の不自由を克服する道具も重要だ。今年は「車イス」の応募が多かった。その種類は多様で対象者や目的によってみな違う。なかでも特筆したいのは電動アシスト車イスだ。全自動化のまえに、自らの力で移動することを基本におき、スマートにサポートしている。「公共交通」領域では、新幹線など高速大量輸送機関とは別に、中量輸送システムから改良車両が登場した。いずれも東京湾岸地域を走る東京モノレールとゆりかもめである。オリンピック・パラリンピック開催を前に、都市内公共交通と車イスは時代の要請でもある。その総合的観点をもってさらにこれらを進化させて欲しい。荷役作業用フォークリフトなど「建設産業機械」も着実に進歩している。とくに安全管理や自在操作において評価できる結果であった。「自転車」の応募も多い。人力を基本とする以上、画期的な技術イノベーションはみられないが、ユーザー心理をとらえた細かな気配りが今年の特徴であった。
 世界標準であり、最高の品質と安全性能を求められるのが「自動車」と「オートバイ」である。全自動運転、ハンドルもブレーキ操作もいらない未来が予測できるが、いっぽうで制御しながら自らの感性で移動する面白さも重要なファクターだ。オートバイは人機一体、身体をもってマシンを制御する移動具の代表、無駄のない機能的な美しさを発見した。自動車は性能と使い勝手が拮抗していて甲乙付けがたい。同時に突き抜ける魅力に乏しい。企業としてのアイデンティティを明快にし、世界をリードする普遍的なコンセプトの構築を期待したい。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット10 住宅・住空間/住宅・住空間向けの建築工法

住宅・住空間/住宅・住空間向けの工法

古谷 誠章
建築家

このユニットは、工業化住宅、分譲・賃貸マンションなどの、文字通りの商品としての住宅がその主体となっているが、それに加えて個別の解として設計された独立住宅や、快適な生活空間を実現されるための工法、部品などの応募もある。また近年では住空間としてとらえられる高齢者施設、あるいはコンバージョンやリフォームの提案も増加する傾向にある。
商品化住宅やマンション、あるいは部品や工法などは、量産されることを念頭において開発されており、その点で工業製品を主体とする他ユニットの審査にも共通する観点での評価が可能であるが、特殊解としての建築や住宅の改修などは、グッドデザイン賞の本来の目的に立ち返って、そのアイディアや手法の「汎用性」を吟味することが必要だと考えた。その意味では、優れた建築作品ではあっても、この分野全体の今後のデザインの展開に資する内容を持つか否かで、その評価は分かれたと言える。またデザイナーの手が代わっても再現可能なデザインの本質があるか否かも、重要な判断要素となった。
その中では、地域の「小さな経済」を包含する賃貸住宅の提案、コンクリートと木造のハイブリッド構造により将来も改変可能な魅力的な内部空間を実現するもの、ノーブランド商品として販売する住宅のデザイン、漁業者の生活スタイルを反映した災害復興公営住宅の集合住宅モデル、木造による中規模の伸びやかな高齢者施設の実現など、それぞれがもつ斬新でかつ汎用的な提案を評価している。
一方、本来の主流である商品化住宅などでは、総じてデザインの水準は高いものの、商品ごとの際立った特徴が出しにくくなっているように感じられた。車のデザインなどにも通じることなのかもしれないが、時に既存モデルの殻を打ち破るユニークさが欲しいと感じる。マンションではさらに一棟ごとの経済論理が支配的となるために、住戸住棟のデザインの新規性が発揮されにくく、「心地の良い」デザインに対する一層の魅力作りが図られることを期待したい。本来デザインには、それ自体に大きな商品価値があるはずである。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット11 産業・公共用の空間・建築・施設/産業・公共用空間向けの建設工法

産業用の空間・建築・施設/産業用空間向けの工法/公共用の空間・建築・施設/公共用空間向けの工法

安田 幸一
建築家

深澤審査委員長から出された今年のグッドデザイン賞の指標は「心地」の質である。まさに建築や環境のデザインには、居心地、住み心地などは最も重要なキーワードであるのだが、単純にその「心地」を統一した尺度で言い表すことは難しい。特に建築の分野が他のユニットのデザインと大きく異なっているのは、一品生産であるということだ。それぞれの建築が建っている土地の形状も気候も千差万別で、建築の数だけ土地の性格が異なっている。また、プログラムも全く同じものはほとんど存在しない。すなわち建築は一つ一つが全く異なる条件の上に成立しているため、比較することは不可能である。建築の「心地」は、その土地が持っている最も核心的なもの、他にない固有なものをいかに吸い上げているかがポイントとなってくる。それは単に固有なものを追求すれば良いわけでなく、つまり独りよがりのものではなく、社会の中で活用できる価値を垣間見せてくれるものであってほしい。

今年の産業・公共用領域での応募は、オフィス、工場、商業施設など多岐に渡ったが、特に大学・幼稚園等の教育施設、美術館・図書館等の文化施設、保存改修などの応募が多かった。その中で入選に至ったものは、主題を絞り込んで、かつ「深く」掘り下げたものである。これらのテーマは、サステナビリティに関する新しい考え方を提唱したもの、安全安心の新しい考え方を示唆するもの、建築ストックの保存再生についての新しい手法を見せてくれたもの、教育施設のあり方についてその土地が保有する性格から固有のアイデアを引き出したもの、地場産業と密接に結びついたデザインにつながっていったものなどが例として挙げられる。振り返ってみると、良くできた質の高い建築も当然その価値は高いが、建築的な納まりがたとえ未熟であっても新しい手法を見出そうとしているものが高い評価を得たように感じる。
一方、オーソドックスな手法ではあるが、提案内容のバランスが群を抜いているものも評価が高かった。特に環境に関する提案では、ある程度成熟した環境装置を並べただけでは十分な評価は得られなかった。

空間や建築はその土地と切り離して考えることはできない。星の数ほどある事例があるのにもかかわらず、まだまだ新しいグッドデザインの可能性が今後も発見されることを信じてやまない。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット12 メディア、ソフトウェア、コンテンツ、パッケージ、広告、宣伝

個人・家庭用のメディア・ソフトウェア・コンテンツ/個人・家庭用のパッケージ/個人・家庭向けの広告、宣伝/産業用のメディア・ソフトウェア・コンテン/産業用のパッケージ/産業向けの広告、宣伝/公共用のメディア・ソフトウェア・コンテンツ/公共用のパッケージ/公共向けの広告、宣伝

永井 一史
アートディレクター

 全体の傾向として、まったく新しいものより、今まであったものを生活者側のニーズに立って細やかに深化させたり、今まで継続的にやっていたことをより磨いていくようなものが多かった。それは本年度の審査テーマである”心地の質”を問うというスタンスにも通底するものである。当ユニットの受賞対象のうち、おおよそ半分がソフトウェア、四分の一がパッケージ、そして残りがブランディングやその他という構成になっている。その多くを占めるソフトウェアも、近年、スマートフォンアプリやWEBサービスなど新しい仕組みやデザインが次々と生まれてきていたが、一旦落ち着いた印象であった。その中で、音声入力の「しゃべってコンシェル」(14G120991)、登山者のための「YAMAP(ヤマップ)」(14G120986)、ライフログをより包括的に使いやすくした「Lifelogアプリケーション」(14G120978)などは、ユーザーの使い勝手を徹底的に考え、設計されていることが高い評価を得た。ソフトウェア以外では、”乗り心地”を考えた「タートル・タクシー」(14G121050)や、1枚のデータから物語を紡ぎ出した「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」(14G121053)などが特に印象的であった。またパッケージは従来、化粧品・食品がほとんどを占めていたのに対して、今年は薬剤などのエントリーが目立ち、質も高かった。
 デザインにはその可能性として、”今までなかったものをかたちにする”、”今あるものをより深化させる”、”今までなかった領域にデザインが入っていく”という3つが考えられる。それぞれが重要なのは当然のことであるが、”メディア”というカタチを固定しない自由度の高いカテゴリーだからこそ、3つ目の”今までなかった領域にデザインが入っていく”ようなものがもっとあってもいいのではないかと思う。今後も意欲的なエントリーを期待したい。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット13 サービス・システム、ビジネスモデル・ビジネスメソッド、社会基盤/プラットフォーム、インターフェイス、インタラクション

個人・家庭向けのサービス・システム/住居に関するサービス・システム/個人・家庭向け機器のインターフェイス、インタラクション/ 産業用のサービス・システム/ビジネスモデル・ビジネスメソッド/産業用機器のインターフェイス、インタラクション/公共用のサービス・システム/公共用機器のインターフェイス、インタラクション/社会基盤、プラットフォーム

暦本 純一
ヒューマン・コンピュータ・インタラクション研究者

本ユニットは、デザインの中でもビジネスモデル・インタラクション・仕組み・サービスのデザインといった、従来型のデザインとは一見かなり異なった領域を扱っている。「形状」のないもののデザインをどう評価するかは基準が難しいところもあったが、昨年と同様、グッドデザインの本来の理念である「くらしや社会を豊かにしうるデザインであるか」という原点に忠実に審査を行った。今年度は、センシングやプリンティング技術などによって着実に生活や製造プロセスを改善するデザイン、社会のある種の非効率性を改善し、本来あるべき姿にするデザイン、あたらしいモノづくりの仕組み、ネットワークやスマートフォンとの連携、広義のIoT(Internet of the Things)のためのデザインなどが潮流と言えるのではないか。
スマートテニスセンサー(14G131111)はセンシング技術によってわれわれの見慣れた器具がどう進化するかを示している。テニスラケットに装着するだけでスイングや球の当たる位置などを判定できる。住宅管理用ソフトウエア(14G131101)はAR(拡張現実)により家の内部構造を可視化するものであり、従来はデモどまりであったARを確実に生活の改善に役立てている。製造工程の革新につながる可能性があるのがミニマルファブ(14G131121)で、半導体製造プロセスにはクリーンルームが必須という従来の常識を打ち破っている。ファブリケーションをアウトソースし、さらに製造したもののインターネット上での市場を作ろうというrinkak(14G131076)にも新しいモノづくりの可能性を感じる。

→ この審査ユニットの受賞対象

ユニット14 個人・家庭・居住者・産業・公共向けの活動・取り組み、社会貢献活動/研究活動、研究手法、都市づくり、地域づくり、コミュニティづくり

個人・家庭・住人向けの活動・取り組み/産業向けの活動・取り組み/公共向けの活動・取り組み、社会貢献活動/研究活動、研究手法/都市づくり、地域づくり、コミュニティづくり

南雲 勝志
デザイナー

今年の傾向として日本の小さな地方、漁村や中山間地域などから活動・取り組みの応募が多かった。少子高齢が当たり前となっている今、地域が生き残るために雇用や定住促進のための仕組みづくりが不可欠となっている状況が伝わってくる。地場の資産、資財の魅力の再認識と伝え方、地域のコミュニティ形成、あるいは外部との関係性の構築や伝え方をどうつくっていくかが大きなポイントになってくる。

そんな中で、それぞれ無理をせず、独自の方法で自立の可能性を探っている取り組みが増えてきた。地方の生き残りをかけたそのような動きは今後の日本の元気に繋がるだけでなく、生きることや生業そのものを示唆し伝えていくこととなるだろう。

ベスト100に選出された、「石積み学校(14G141170 )」、「瀬戸内しまのわ2014(14G141190)」、「東北食べる通信(14G141148 )」、「里山十帖プロジェクト(14G141188)」などは、それぞれ多彩な方法で地域の魅力をデザインし、大きな成果をあげている。
震災の現場からは、「桜ライン311(14G141152)」、「思い出サルベージ(14G141169 )」など、忘れられない記憶を刻みながらも、しっかりと前を向き、未来を築いていこうというという想いが伝わってくるプロジェクトが注目された。
また、「Found MUJIの活動(14G141138 )」に代表されるように、次のステップに進む前に、今まで築いてきたものをきちんと検証し、目指してきた基本をもう一度見直そう、という動きも特徴的だった。 そして近年数多く応募されているマンションデベロッパーによる取り組みの中では、エンドユーザーの意見を積極的に取り入れ、より心地よい暮らしを再編する「Tokyoイゴコチ論争(14G141142)」は評価が高かった。

これらの根底に共通するものは、「あ~、そうだったんだ」と改めて気付かせる解決方法、無条件に気持ちがスーっとする気持ち良さ。行為や目指すところがなるほどという必然性を持っていること、そのような感覚は人間の肉体的にも精神的にも有意義なのだと気付く、その気付きを心を込めてデザインしていくことが、今年のテーマである「心地」の質のレベルで共通してくる。しかしながらその背景にきちんとしたビジュアルやプロダクト、空間デザインがあってこそ伝わるものであり、その質の高さもグッドデザインとして重要であることは間違いない。

→ この審査ユニットの受賞対象

韓国審査ユニット

渡辺 弘明
インダストリアルデザイナー

3年目を迎えた韓国での現地審査。昨年同様受賞率が極めて高く、134点の二次審査数に対し74点が受賞した。TV、スマートフォンに代表されるデジタル機器はもはや韓国メーカーのお家芸とも言えるが、今年はデジタルカメラSAMSUNG NX mini(14G050390)がベスト100に選ばれた。薄型、軽量のミラーレス・カメラでミニマルなデザインの交換レンズを含め高い完成度を有している。ハード同様に美しいグラフィカル・ユーザー・インターフェイスも秀逸である。
ユーザー・インターフェイスと言えば、昨年の講評にも今後の課題としてインターフェイスに関する指摘があった。各メーカーも既に重点的に取り組んでいたとみられ、今年はベスト100にインターフェイスで応募の2点が選出された。そのうちのひとつ、LG のスマートフォンG3_D855(14G050336)は本体の繊細な表面処理とのマッチングが計られた美しくエモーショナルなGUIを高精細大画面のLCDで表現することにより製品の魅力を高めている。またSAMSUNGのWashing Machine (WW9000)(14G040304)は他製品に見られる高機能イコール大型操作パネルという図式を覆し、見やすく洗練されたLCDとタッチパネルを採用することによりノイズの少ないデザインを実現させている。どちらもハードとソフトを融合させ機器を進化させた好例と言える。
また、韓国外向けのプロダクトのエントリーが増えていることも特徴と言える。特に審査委員の注目を集めたのがインド市場向けの洗濯機SAMSUNG WA75H4000HP/TL(14G040296)。インド人の装いとしてサリーが思い浮かぶが、そのサリーを先に洗うためのタライ状の中蓋を設置、現地の嗜好を反映した独特のカラーリングなど、インドに特化した製品にしている。マーケット・オリエンテッドなきめ細かなものづくりが成功の一因となっている。
その他、昨年まで殆ど受賞のなかった住宅設備や家具、商業施設にも優れたデザインが見られた。応募者もメーカーにとどまらずデザイン事務所からのエントリーもあり今後の韓国のものづくりにGマークが幅広い分野で浸透していくことが期待される。現地の審査委員からも産業の高度化というGマークの設立理念が今ここで活かされているという話を聞くこともでき、今後もこの地でGマークが根付くことが産業の発展に寄与すると確信している。

→ この審査ユニットの受賞対象

台湾審査ユニット

田子 學
アートディレクター/デザイナー

今回で3度目となる台湾現地審査。
完成度の高さゆえに毎回審査が難しい情報機器を筆頭に、台湾ユニットは生活用品、建築、グラフィック、プロモーションビデオと多岐に渡る応募が特徴。
今年も強化された対話型審査では、台湾デザインの目指すビジョンに触れながら、台湾の「今」を十分に感じることができた。
年々驚くのは、どのジャンルもクオリティの進化が著しい事。しかも技巧はもちろんのこと、プロダクトの本質的意義やマーケット創出の仕組み等、広い視野でデザインを捉えている。クリエイティブとオリジナルブランドを武器にグローバル化を急速に進める台湾ならではの姿と言えるだろう。
今年度で評価が高く印象深かったのは、グッドデザイン・ベスト100にも選ばれた以下3点だ。
Qisda Corporation[Energy optimizer](14G131068)は、ユーザー自身が望ましいエネルギー消費の制御と生産の仕組みについて、参加しながら理解できることを念頭にデザインされている上、その佇まいも美しい。
GIXIA Group Co.[LED Lighting](14G040307)の生産プロセス自体を見直し一体型デザインとすることで、美しさを両立しながら高効率化とコスト削減に成功している。
Darfon Innovation Corp.[e-Bike](14G090719)はオリジナル制御の電動自転車として大変優れた仕上がりでありスタイルが良い。驚くべきはこれがたった数名のベンチャー企業によって作り出されたということであり、ここに台湾デザインの未来への可能性を感じずにはいられなかった。
この3点はいずれも台湾政府が掲げる「エネルギー課題」に対するデザイン的取り組みであるが、共通するのは単なる機能面の追求だけでなく、モノと情報を相互連携させ、ユーザーの意識を底上げしながら、美しい未来の実現に向けて仕組みを提供しようとしていることだ。まさに「心地」の質が落とし込まれたデザインと言えるのではなかろうか。

→ この審査ユニットの受賞対象

香港審査ユニット

中坊 壮介
プロダクトデザイナー

香港審査ユニットでは香港からの応募のみならず、中国本土からの多数の応募を含み、応募総数は昨年より大幅に増えた。本年度は最初の香港審査であった昨年にも増して情報機器関連やそのアクセサリーなどが多くを占め、全体には確実に質が高くなっている。特に成形技術の進歩には目を見張るものがあり、仕上げのバリエーションや精度は世界でもトップレベルと言えるだろう。

中国では現象化しているという程、そのビジネスモデルが成功しているXiaomiのSmart phone Mi 3 (14G050331)やHD TV box (14G050417)などの製品群はどれも高品質を低価格で実現しており、今後の世界市場への飛躍を予感させる。

ベスト100に選出されたROE VisualのLED display screen (14G080682)はオリジナリティと技術、デザインが高い次元で製品として結実し、総合的に高く評価された。あらゆる製品において、これまで使われてこなかった素材や製法を用いることは大変なチャレンジであるが、それがうまく達成された時には新しい価値が生まれる可能性を秘めている。この製品では使用シーンやユーザー、保守などを良く考慮した上、新しいだけではなく理にかなった素材や製法を選択し、理想的な形でデザインに落とし込んでいる。

またもう一点ベスト100に選出された香港のWo Hop Shek Columbarium and Crematorium(14G110975)は、都市部との共存が問題になりやすい葬儀場という施設をこれまでに無いイメージにまとめ、社会的な問題に対しデザインによるシンプルな解答を出している。

このようにオリジナリティのあるデザインが見られ、中国や香港のデザインの今後が大きく期待される。生産技術の飛躍的な向上を続ける中国の、その技術に裏付けられたデザインが益々増えて行くだろう。

しかし、本ユニットは他の審査ユニットに比較して受賞率が低いことが課題として残る。情報機器関連の伸びに対し、プリミティブなプロダクトの評価の低さがそのまま結果に出たと考えられるが、そのようなプロダクトの本来的なデザインの質が上がれば、自ずと結果に繋がるだろう。

→ この審査ユニットの受賞対象

海外デザイン賞との連携応募に対する審査

澄川 伸一
プロダクトデザイナー

デザインレベルの伸び率という点だけに注目してみれば、タイのレベルは近年、凄い勢いの進化である。 今年のミラノサローネの展示をみてもそれは明らかで、政府がかなりデザインに力をいれていることが、確実に結果として表れている。 同じバックグラウンドは韓国にも感じる。 国家総出のデザインに対する取り組みが強化されると、ほとんどの場合、いい方向に産業がシフトしていくようである。

タイの審査対象では、従来の民芸調のアイテムが格段に少なくなってきており、モダンデザインのシンプルでメッセージ性の強いものが増えてきたのは嬉しいことである。 また、木製の美しい自転車(14T001224)に代表される、タイ独特の丁寧なものづくりの技術もこのまま、応援していきたい。

タイ以外でも、シンガポールからの応募作品で、電車などでの緊急通信装置(14S001246)を高く評価した。高性能のエコーキャンセルとノイズキャンセル機能をそなえた、非常用通信システム。都市が加速度的に国際化するのに伴い、言語表示の併記による煩雑さが、公共システムの表示に関しては問題となってくる。 誰にも、明快なピクトグラムや造形手法で非常時のアクションを的確におこなえる「デザインの誘導」はとても大事である。

また、インドからの応募でソーラーパネルを使用した、ノートPC(14I001245)のシステム展開も評価したい。現在は、コンピュータ無しではわれわれの生活は成り立たない。その前提で、もし、電力供給がなんらかのトラブルでストップした場合を想像してほしい。日本国内いや、全世界で、非常時の電源供給の在り方をもっと考慮するべきではないだろうか。

生活環境に根差した、素直なアプローチから、こちらが逆に学ぶべきものが、審査を通じてたくさんあるように感じた。
きれいにまとめるとか、洗練さという部分より、もう一段階「根幹」に近い部分として。

→ この審査ユニットの受賞対象

メコンデザインセレクションによる応募に対する審査

五十嵐 久枝
インテリアデザイナー

このメコンユニットは、カンボジア・ラオス・ミャンマー・ベトナムの4カ国から構成されている。4カ国共にグッドデザイン賞に参加してまだ日が浅いということだが、モダンデザインというカテゴリーには納まらない背景に各々の文化や伝統が色濃く伝わってきている。

カンボジアからは、シルクの特色ある加工品が中心となった。手織りのシルクスカーフなどのファッションアイテムからクッションカバーといったインテリアアイテムまで揃えている。また、ほとんどの企業が弱者への優しく温かい視線を向けていることが素晴らしい。地方の貧困かつ障害をもつ職人や女性の手仕事による製品を広めることを目的とする考えや、孤児の教育支援や若手の職人育成、障害者たちによる共同経営による企業等、様々な状況の人達が一体となり協力して支えあう状況がうかがえ、深く印象にのこる。

ラオスでは染色織物が主となり、天然染め・草木染め・インディゴ製品が見られた。伝統的なモチーフ使いや日本の紙との応用など独自の創造への模索が始まっている。
ミャンマーは漆器制作が旺盛で、木質下地に独自の素材と手法に特徴があり、発展を期待したい。ベトナムの手刺繍やシルク製品は高品質なものが多く、生産の経験もあり、条件が揃えば大きく成長しそうだ。

今回選出されたものには、本来のグッドデザイン賞とは異なる見え方をしているものも含まれているが、向かおうとしている方向には相違はないと考えている。むしろ進んでいるといえる企業の社会貢献への姿勢には、学ぶべきことがたくさんあるのではと感じる。今後のメコンエリアは、様々な発展の中に必ずやものづくりの成長も期待される。成長とともに各々のエリアの特徴が鮮明に写し出されてゆくことを期待したい。独自の美意識をもった優れた製品が多く生み出されることを希望し、注目していきたいと考える。

→ この審査ユニットの受賞対象

新潟審査ユニット

山本 秀夫
プロダクトデザイナー

昨年に引き続き、地域からの応募が集中する新潟燕三条に出向き、審査をおこなった。新潟らしく、食器、調理器、工具、検査機器、アウトドア用品などの応募が目立ったが、残念ながら昨年ほどの元気が無い。
そんな中、今年は工具、検査機など地味ではあるが誠実に開発された製品が光っていた。工具に関しては秀作揃いで、兼古製作所の「スリム絶縁ドライバー(14G070532)」と「電動ドライバー用ビット(14G070533)」、旭金属工業の「ラチェットハンドル(14G070530)」は、創意工夫により使い勝手を向上させた上で、美しいデザインに整理され、かつ精度高く仕上げられており、洗練された「使い心地」を想起させるものであった。システムスクエアの「X線検査機(14G070551)」は、食の安全を守る優れた機能が、丁寧に仕上げられたシンプルなデザインとともに世界に発信されている。いずれにもまじめな取り組み姿勢と、アイデアを確実に具現化する高い技術力を見ることができた。
調理器に関しては、この地ならではの製造技術を用いて新しい分野の製品開発に取り組むなど意欲的な試みが見られたが、機能は高く評価できるものの、残念ながら成熟した製品がひしめくこの分野において、デザインのオリジナリティを確立するまでには至っていない。しかし、今後製造技術とデザインが上手く噛み合えば、競争力のある製品として育つ可能性を感じる。 スノーピークの一連の「アウトドア用品(14G02012914G02013314G02013514G02013614G020137)」は、今年も安定したクオリティの製品を提案していた。道具が提供する豊かな時間、つまり「居心地」の良さを想像させてくれる。 今年のグッドデザイン賞審査全体のテーマは「心地の質」である。この地に集結する技術を編集し、道具の機能を追求するだけでなく、道具が使われる環境、道具とともに過ごす時間までを意識し、デザインに取り組んでいただきたいと思う。

→ この審査ユニットの受賞対象

ページトップへ