グッドデザイン賞受賞概要

2018年度|審査ユニット総評

本年度のグッドデザイン賞の審査も、領域別に応募対象をグループ分けした「審査ユニット」ごとに審査が行われました。各ユニットでの審査を通じて見られた傾向や特徴、領域ごとのデザインの状況や課題をまとめました。

原田 祐馬

アートディレクター / デザイナー

01-01 装身具・身につけるもの、01-02 文具・事務用品、01-03 教材・教育用品、01-04 衣料品、01-05 育児用小物,装身具、01-06 玩具、01-07 その他小物類

ユニット1の審査対象は、生活プロダクトの中でも小物類と呼ばれる、文具、時計、眼鏡、鞄、下着、教育ツールなど「類」の名に相応しく、多種多様なものが集まってくる。手のひらに乗るほどの大きさのものが多く、審査会場にやってくるまでは、私たちの暮らしに潜んでいるものばかりである。そんな小さな存在たちは、当たり前の顔をしながら、私たちの日々の生活で役に立っている。グッドデザイン賞の審査会場では、生活環境から剥がされ、そのプロダクトをメーカーがどのような想いで開発し、デザインしたのかを改めて知らすことが出来る場となる。審査委員は、それぞれの専門性があるが、生活に根ざしたプロダクト群においては、一人のユーザーでもある。実際に審査中に試せるものは徹底的に体感し、何度も手に取り、解像度を高めて精度や構造、可能性について議論し判断をしていく。
今年の審査の中では、フレームに触るだけで瞬時に遠近を切り替えられるアイウェアや、子どもの描いた絵からぬいぐるみをつくるサービスノートのように使え持ち運べる小さなホワイトボードなど、人の生きる環境がめまぐるしく変化していく中で、ジャンルを横断し新しい体験をつくりだすプロダクトに注目が集まった。また、メーカーが定番商品を大きく変化させるのではなく、いまの社会に適応するよう使いやすさを向上させることで、見た目ではすぐに解らない更新作業をしているプロダクトも多くみられた。今までの半分の力で開くことが出来るクリップや、構造から見直すことで、糸残りが少なくスパッと切れる布ガムテープセロテープの切り口を今までよりもまっすぐ切れるように、カッター刃を改めて開発をしているなど、道具を使う心地よさを変化させるものにも評価が集まっていた。その心地よさはすぐに生活へと浸透し、その感動を人は忘れてしまうだろう。しかし、その感動を忘れさせるほどの心地よさをつくるものを評価するのもグッドデザイン賞の役割の一つだろう。
今後もユニット1から、小さなプロダクトを通して、人の可能性と拡がりをつくりだし、生活を静かに大きく変えていくものが生まれることに期待したい。

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鈴木 啓太

プロダクトデザイナー

02-01 健康器具・用品、02-02 美容器具・用品、02-03 家庭用医療器具・用品、02-04 スポーツ用品、02-05 レジャー・アウトドア用品、02-06 ホビー・ペット用品、02-07 園芸用品、02-08 音響機器・楽器、02-09 その他趣味・健康用品

多岐にわたるジャンルの製品が集められるユニット2。デザインの専門家として美しい製品を適正に評価することと、生活者としての細やかな視点で厳格に物を見ることのふたつを心がけ審査に臨んだ。以下に本年度の審査を通じて見えてきたキーワードを列挙する。

1.「工業の工芸化」
ソニーの「デジタルミュージックプレイヤーDMP-Z1」(18G020170)、「密閉型インナーイヤーレシーバーIER-Z1R」(18G020155)は、デザインと技術の高度な融合が見られ、審査委員を興奮させた。緻密に仕立てられた製品は「工芸品」と呼べるレベルにあり、見る者すべてに「物」ならではの力強さを感じさせる、次の時代のプロダクトデザインを予感させるような秀作であった。イタリアのジュエリーと並んでも遜色のない、素晴らしい金属加工の技術が電化製品で見られることに驚いた。

2.「プロダクト+ソリューション」
年々、大企業はソリューション製品にビジネスを移行させている。パナソニックの「歩行トレーニングロボット」(18G020124)は、プロダクトとソリューションが一体になった、これからの大手メーカーのものづくりを予見させるような象徴的なプロダクトであった。アナログ・デジタルのどちらもが人を向いて真面目につくられており、使用感が素晴らしい。サブスクリプションを取り入れたビジネスモデルも興味深かった。

3.「抽象化の精度」
「セラピーロボットQoobo」(18G020114)は、審査委員の中で評価が分かれた受賞作であったが、私は高く評価した。手軽な金額で手に入れられるセラピーロボットがないことに着目した受賞者は、動物の要素を最大限に抽象化し「しっぽ」のみを製品に残し、円形のクッションに取り付ける。要素を抽象化し具象化する精度が高ければ、複雑な動きや表情がなくとも、とても可愛らしい愛らしいロボットができる。これからのデザインは、抽象化の精度が良し悪しを決めるのかもしれない。

4.「Go it Alone」
「ルアー 飛びキング105HS」(18G020110)は、プロフィッシングプレイヤーが中心となり、企画・デザイン・製造・販売までを一気通貫で行なった製品である。昨年も感じたが、小さな組織が大きな組織を脅かす時代が来ている。さあ、信念に従いもっと良い製品をつくろう!

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手槌 りか

プロダクトデザイナー

03-01 清掃用品、03-02 家庭用福祉用品・介護用品、03-03 家庭用育児用品、03-04 防災用品、03-05 寝具、03-06 仏具関係用品、03-07 その他生活雑貨・日用品

生活雑貨・日用品の様々なアイテムが並ぶ中、今年は仏具、防災、寝具、ベビー等に多くの応募が集まった様に思う。仏具関連では、存在感を最小限に抑えた生活空間に溶け込むシンプルな仏壇や神棚等が多く、取付けが配慮された工夫ある商品なども存在した。位牌、おりん、骨壺などは、伝統的な素材や手法にとらわれずに新しい素材や工法で価値を生み出し、故人をより身近に感じられる工夫がなされ、温かみあるデザインに仕上げられていた。全体を通して、供養のデザインは住空間を軸に考えられており、そこに適したアイテムで構成されたまとまりあるものが多くあった。シンプルな姿で生活空間に溶けこみ工夫ある表現で故人を弔うというスタイルが今回の応募から受けた印象である。今後も引き続き、新しい手法で価値を作り、日常に適した供養のあり様が追及されていくであろうと思われる。
防災関連では、災害が多発する現状から生まれた様々な視点の商品があった。災害時に必須とされる商品やそれらの機能の底上げはもちろんのこと、住居以外(車内やオフィス)での使用を想定した防災グッズ、またその運用が継続的に行われるよう支援するシステムなど、優れた提案がなされていた。今後も日常のマストアイテムとしての位置づけで経験を通した様々な防災商品が開発されていくと思う。
今回は車いすになるベッドシニア用ショッピングカートなど、超高齢化社会をサポートする優れた商品もあった。それらは一見してシニア用のものとはわからない高いデザイン性を持っており、今後もそのようなシニアを区別しない魅力をもつ商品の開発はなされていくと思う。最後に掃除用品や収納関連の分野ではシンプルで機能的なもの、環境負荷を減らすものなどいくつかの秀作が見られたが、市場で存在する商品数から考えるともっとたくさんの応募があってもよいのではと感じた。次回は日本が得意とするそれらの分野においても多くの応募を期待したい。

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鈴木 元

プロダクトデザイナー

04-01 キッチン用品、04-02 食器・カトラリー、04-03 調理器具、04-04 調理家電、04-05 生活家電、04-06 空調家電、04-07 その他キッチン・家電製品

このユニットは食に関する道具や生活家電など、毎日の暮らしに寄り添う日用の道具が審査の対象である。スマートフォンなどの情報機器は、同一のモデルが世界中で販売され、グローバル化と均質化が進んでいるが、食や暮らしの周辺では、土地に根ざした伝統食や風習が見直されるなど、長い時間をかけて蓄積した生活の美意識や、ローカルで多様な価値を人々は志向しているように見える。今年の審査会を俯瞰してみても、評価を集めたものは、現代の生活に沿った新たな工夫やテクノロジーを取り入れながらも、機能的優位性を声高に伝えるのではなく、どちらかというと控えめで、その背後に暮らしに対する深い眼差しを感じさせるものであった。
ベスト100に選出された、耐熱樹脂食器の「9°」(18G040238)や「SELECT100 ボウル」(18G040245)は、道具として高い機能性を実現しているが、細部まできめ細やかに配慮が行き届き、どちらも大量生産されるプロダクトでありながら、佇まいには工芸的な美しさが宿っている。生活家電では、ともすれば無骨になるテクノロジーの角を丸め、日々の生活空間や、伝統的な美意識と調和させているものが印象的だった。「かまどさん電気」(18G040274)は、精密機器である家電と手工芸の土鍋とを巧みに融合させた好例だろう。これからの家電のあり方のひとつの道筋を照らしている。洗濯機や冷蔵庫など大物の家電は国内外の市場のローカルなニーズを緻密に汲み上げ、デザインに昇華している例が見られ、多様な暮らしに寄り添うものづくりの姿勢に共感した。中でもパナソニックの国内向け冷蔵庫「NR-F604」(18G040332)は、家電の域を超えて、精緻に作られた家具のようでもあり、キッチンとリビングが一体化している近年の住まいにおいて、美しい生活の風景を作ることに成功している。
これまで、日用品や家具、工芸や家電は別々のジャンルとして扱われることが多かったが、テクノロジーの進歩がその境目を溶かし始めている。本来、それらは切れ目ない有機的な存在であるはずだ。風土や伝統への感受性とテクノロジーへの深い洞察、そして両者を繋ぐ平衡感覚を、これからの作り手はより求められるだろう。

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片岡 哲

プロダクトデザイナー

05-01 カメラ・携帯電話・タブレット、05-02 スマートウォッチ・撮影用小型ドローン、 05-03 映像機器、05-04 一般・公共用情報機器、05-05 業務用放送・音響機器、05-06 業務用情報機器、05-07 その他情報機器・設備

日本でも各種スマートスピーカーが出揃い、今年はAI、IoT、ARといった事を前面に打ち出した製品がユニット05でも多数登場する年になるのではないか、と審査に臨んだが、実際には“目新しい物が少ないな…”というのが当初、応募対象をラフに見渡した際の(個人的な)印象であった。
しかし、よくよく中身を見ていくと、一見以前から見慣れたような製品であっても、AIやIoTの技術は進化を伴い、静かに其処此処に存在していて、既に顕在から潜在のステージにあるのだと気付かされる。技術を誇示するのではなく、当たり前のようにそっとそこに在る。人が人の為に開発する技術というのは、本来そうあるべきなのだと感じた。 グッドデザイン賞ではデザインという言葉を、“人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごと”と、かなり広義なとらえ方をしており、他のデザインアワードとは一線を画す。一方、一般的にデザインとは外観の形や色、仕上げ等を指す言葉ととらえている人が未だに大多数なのも事実。広義と狭義のバランスを取りつつも、本年度我々は”美しさ”を一つのキーワードに掲げ審査を進めた。外観の美しさ、考え方の美しさ、解決方法の美しさ、結果の美しさ等、美しさという評価基準がどの程度当てはまるのかという議論が繰り返された。
あるものは圧倒的な造形美、仕上げの美しさで審査委員を魅了し、あるものは到底人には出来ない振舞いで目的を達する様を見せつけた。企業目線ではなく、ユーザーの立場に立った美しい考え方を持ったもの、業界のスタンダードを美しく変化させる可能性を持ったものもあった。そして高い評価を得た対象の多くは、この多様な“美しさ”を複数持ち合わせ、相乗効果を発揮していたように思う。
今後AIによって我々の生活が更に大きく変わっていくことは明白であるが、それが何の為の変化なのか、その目的と結果は人にとって美しい事としてつじつまが合っているか、そんな観点でこれからのデザインを考えていきたい。

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橋田 規子

プロダクトデザイナー

06-01 生活家具、06-02 住宅用照明機器、06-03 住宅用空調機器・設備、06-04 住宅用建材・建具、06-05 住宅用内装用品、06-06 住宅用外装用品、06-07 住宅用キッチン、06-08 浴室・洗面・水回り、06-09 ビルトイン家電、06-10 その他住宅用機器・設備

最先端の技術はなかなか登場しないが、日々の暮らしで私たちが最も多く接するのは住宅の家具や設備であり、その点において、常に人をデザインの中心に考えるグッドデザイン賞の審査は有意義である。「良い外観」を審査する際には、その物の美しさに加えて、空間での納まりや素材感が重要である。また、「良い設計」を審査する際には、人が安心して使える品質があり、強度や性能を証明するデータが必要である。少し使っただけでは効果がわからない性能については、応募の際に既存品との差異と実装実験結果を添付する事が望ましい。工芸的な製品で均質の保ちにくいもの、ニッチな製品も判断が難しい場合がある。取り組みなどを伴ったものは、別のユニットに入る可能性もあるので、応募の際には検討していただきたい。審査で重要視している点は、その製品のある空間で生活する人々が、長期的視点で心地よく過ごせるかという事で、その上で、既存製品との差別化や新規性があるかをみている。
家具の分野では、生活の中でさりげなく、落ち着いた美しさを出すものが評価された。ダイニングチェアでは、国産材活用として取り組まれてきた、杉の圧縮材を用いたものや、他にも卓越した木工職人の技術が使われた製品が評価され、いずれも技術と共に意匠的に新しさのある点を評価した。
エアコンは今年も応募多数であった。日本のエアコンは技術的に成熟し、センサー技術やメンテナンス機能の発達が目覚ましい。しかし外観のデザインに関しては、既視感のあるものが多かった。一方、海外製品はより自由で将来の可能性を感じた。日本製品も建築モジュールに縛られない自由なデザインができるようにならないものか。
建材関連では、素材自体に細かな技術を入れ込むことでアレルゲン、空調をコントロールすることのできるカーテンタイル建材左官材といったものが目立った。今後もミクロの素材開発から新規性のある製品が出て来るのではないかと期待する。
コンロ関係も昨年に引き続き多種の応募があった。オープンキッチンが定着し、見られるインテリアとしてデザイン性が上がり、普及クラスもデザイン性が高くなってきている。
水廻り関連では、空間にフィットするシンプルな洗面ユニットが評価された。また水圧の抵抗を減らす給水管や加圧ポンプなど、表には出てこないが快適な暮らしに必要な製品が評価されている。
照明はLEDを使ったものの応募が多いが新規性の感じられるものが少ない印象である。プロジェクター+照明の製品は今後の展開を期待する。
数は多くないが、今年は、シンプルな構造で水圧をあげるシャワーヘッドや、簡易式トイレがあり、途上国向け含めたグローバルな視点もあり、興味深く感じた。

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菅原 義治

デザイナー

07-01 乗用車、07-02 乗用車関連機器・商品、07-03 業務用車両、07-04 業務用車両関連機器・商品、07-05 自動二輪車 自家用・業務用自動二輪車、07-06 自動二輪車関連機器・商品、07-07 パーソナルモビリティ・自転車、07-08 パーソナルモビリティ・自転車関連機器・商品、07-09 鉄道、07-10 船舶、07-11 航空機、07-12 移動・輸送システム・サービス(ロジスティクス・物流)、07-13 その他移動に関する機器設備、システム・サービス

モビリティは今まさに100年に一度の変革期の最中にある。人類の誕生以来、今の場所から次の場所へと移動することがモビリティの目的だった。人間社会の変化と技術の進歩と共に、モビリティも進化を遂げ、それがまた社会に変化をもたらしてきた。そして現在、情報技術の進展が生活に浸透し、モビリティの概念は大きく変わり始めている。つまり直接的な移動を伴わないモビリティの出現である。例えば自動車配車アプリは、アプリ自体移動しないが移動の最適化と活性化を促すといったように、価値転換による新たなモビリティが生まれている。

モビリティを審査対象とするユニット7では、美しい外観品質と丁寧な仕上げ、機能的ユーザビリティ、それぞれをデザインの力で進化または深化、ブレークスルーさせた応募を高く評価する一方、「モビリティに新たなエコシステムを生みだしたか?」「近未来の社会システム支援となるか?」「多様化するライフスタイルに価値を創造したか?」など、移動ということの在り方自体を俯瞰する視点をもちながら審査に臨んでいる。

今年の審査結果は、成熟した日本の基幹産業である自動車、二輪車鉄道、船舶、建機においては、非常に完成度の高いデザインとイノベイティブな創造性が際だつ年であった。高度な安全基準や各種規制を遵守したうえで、快適性と利便性を高めるユニークなアイデアを盛り込み、妥協のない美しい外観を達成していることを高く評価した。 その一方で、多様な移動を支援するスマホアプリ客の移動を誘発する宿泊施設効率的で安全安心な都市道路計画のような、新しいモビリティの受賞も散見される。今後はシェアやダイバーシティに目を向けた一層新しいモビリティへの発展を期待したい。

人類の移動の歴史はまさにモビリティの歴史である。AIと自動化、効率化が日常に深く浸透する近未来社会では、改めてヒトとモビリティの「関係性」が問われている。グッドデザイン賞のモビリティ領域の審査評価が、社会に与える影響はこれから一層重要であり、身が引き締まる思いだ。

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田子 學

アートディレクター/デザイナー

08-01 業務用装身具、08-02 工具・作業用機器、08-03 農具・農業用機器、08-04 生産・製造用機器・設備、08-05 医療用機器・設備、08-06 素材・部材、08-07 生産・製造技術、08-08 研究・実験用機器・設備、08-09 その他医療・生産プロダクト

産業、医療系が対象となるユニット8の本年度の全体傾向は、SDGs実装元年と言われるだけあり、大きく変わる社会への適応性と生き残りを賭けた勝負を感じさせるものであった。進む超高齢化社会、労働人口の減少を起因とする生産現場の問題、複雑に絡まった環境対策など、今までに増してデザインの課題解決能力が求められ、製品もより具体性を持っていたと言える。明らかなのは、単に使いやすさや機能性、個別最適を目指すような設計思想から脱却しようとしている点であり、社会問題に意識を向けた挑戦だ、と読み取れる提案が多かった。

さらに日本の企業に顕著な傾向は、過去からの解放といえよう。これまでの研究成果やノウハウといった資産を俯瞰する事で、新たな解釈やプロセスでプロジェクト化に成功している。製品やサービスの再構築によって、ターゲット、マーケット、コストの軸は激変し、新たな価値へと変換されているのは興味深かった。安易に複数技術を一つにまとめ、多機能化を図るという発想はもはや無い。一つの技術を突き詰める過程で見えてくる新たなるテーマや要素を、最終的には一つのプロダクトやサービスに包含させることで、多角的に課題を解決し、今までにない市場の形成につなげている。

このような複合的解決のブレイクスルーが起きる背景は、イノベーションを時代が求めているからでもあるが、変革はむしろ産業が成熟した時の必然であるから、事業を徹底的に突き詰めたが故に成し遂げた結果というべきなのだ。ブレイクスルーできるか否かは、時代を読み取る洞察力や判断力と、挑戦しようという野心的な姿勢に他ならない。

東京2020を前に、課題先進国である日本は、よりポジティブな未来を描くために、本質的なデザインを実装し、いよいよ動きはじめている。その姿から、挑戦者の成功を応援したい気持ちが生まれたと同時に、期待に胸が熱くなった2018年度の審査会だった。

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寳角 光伸

プロダクトデザイナー

09-01 店舗・オフィス・公共用家具、09-02 店舗・販売用什器、09-03 公共用機器・設備、09-04 業務用厨房機器、09-05 業務用機器・設備、09-06 業務用照明器具、09-07 業務用空調設備、09-08 業務空間用建材・建具、09-09 業務空間用機器・設備、09-10 その他店舗・公共プロダクト

誰のために製品を作るのか?ユニット9の製品が属するBtoB市場と一般的なBtoC市場の製品開発は“誰のために”が少し異なる。
それはサービス・モノの発注決定者と、発注したサービス・モノの受益者とが一致しない点で、製品開発者は想定ユーザーとして発注決定者・管理者・施工者・実ユーザー・最終受益者などそれぞれの多様なニーズに同時に対応しながら開発を進める必要がある。このニーズの収集において、従来のビジネス環境下では商流網を利用した情報収集しか手段がなく、全てのユーザー層からの情報を得ることは難しかった。その結果、開発陣は企画の拠り所を求めて製造現場の都合優先や技術優先、先例優先の製品開発が多く存在した。
しかし近年この市場においてもIT技術による日常的な情報収集や海外企業のグローバル向け製品の台頭、訪日客の増加などのビジネス環境の変化によってプロの道具やドメスティックな公共プロダクトといえども国際市場・標準を視野に入れて多様なニーズに対応した製品開発が必要という認識の変化が出てきた。
更にモノづくりの技術的要因の変化としてUI技術のオープン化がある。ソフトであるコンテンツが多くのハードウエアの代わりをし始めてハードの役割が再定義された。結果、製品の要求性能実現のために、ソフト・ハード・サービスの組み合わせと配分を適正に調整するプロセスが必要とされてきた。
このような市場状況にあって本年度のユニット9では、新たな市場創出の可能性や“あるべき姿”を持つ製品が最終的に受賞し、それらは適正なデザイン的アプローチにより妥当なロジックがフォルムに帰結した結果だと評価した。今後もこの分野で、公共プロダクトによって社会環境をより良い方向に導くものづくりがなされていくことを期待したい。
最後に公共用仮設トイレについてであるが、この製品群は多くの人が集まるイベント会場や災害後の復興施設でも欠かすことのできない重要なインフラ設備である。東京五輪を控えたこの時期に、誰のために作るのか、製品の価値と機能がどうあるべきかを再考して今後のモノづくりに繋げて頂きたい。

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仲 俊治

建築家

10-01 商品化・工業化住宅、10-02 戸建て住宅、10-03 共同住宅、10-04 小規模集合住宅、10-05 住宅用工法・構法、10-06 戸建・小規模住宅関連のサービス、システム/HEMS

今年の審査を通して、いくつかの興味深い傾向が顕在化したように感じた。
まず、住宅を人的なネットワークの中に位置づける作品。生活支援や相互扶助などのネットワークの中に住宅を位置づけ、従来はプライバシーの塊と見做されていた住宅を変えてしまった作品である。外部から人や視線が入り込んでくるため、配置や開口部などにデザイン上の刷新が求められる。
つぎに、開放的な環境配慮型住宅も目に付いた。中間領域を積極的に評価し、その結果として人と外部に親和的なアピアランスを持つ住宅は、アジアモンスーン地域の住宅形式として、1つの方向性を示している。
用途の複合も目に付いた傾向である。他の審査UNITにおいても、働き方改革への興味がデザインに影響を与えていることが見て取れたが、こと住宅分野においては、「住む」と「働く」とが融合した住宅が地域社会での生活をも提示する強さを感じた。
リノベーション作品が多数ある中で、外部を意識した作品に提案性を感じるものが多かった。風景や風土に繋げようとするものであったり、空き家対策や介護対応だったり、動機はさまざまであったが、住宅内部にとどまらない作品は、リノベーションという手法そのものの深化を感じるものであった。
地方の工務店の存在感が目立った審査でもあった。断熱気密性能の向上はそれなりのレベルに達しつつあるが、さらなる差異化として、地方ならではの材料や手仕事を取り入れたり、地元の建築家や大学関係者とコラボレーションしたり、という取り組みが一定の成果を上げていることが確認できた。今後の展開が楽しみな傾向である。
これらの傾向に共通して見出される思想は、住宅を完結した商品として見なさない、ということだと思う。
例えば、つくればつくるほど空き家が増える現状をどう考えるのか。資源は有限であることをどのように考えるのか。良質なストックの供給が叫ばれてきたが、その良質さは、住宅内部の商品性にのみ奉仕するものなのだろうか。何に向かって住宅をデザインするのだろうか。そのような思いをあらたにした審査であった。

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篠原 聡子

建築家

11-01 中〜大規模集合住宅、11-02 中〜大規模集合住宅関連のサービス、システム/HEMS

ユニット11でも、多くの海外の作品応募があった。それらは、グッドデザイン賞によせられる大きな期待をあらわすものであると同時に、日本との価値観の違いを浮き彫りにしていた。大規模な集合住宅が担っている社会的な使命については、日本においてはより自覚的にデザインされており、成熟した状況を感じた。
大規模な開発によって創出される空地を共用施設と合わせて、より効果的に都市のパブリックスペースとして計画し当該建築だけでなくその場所の価値をあげるような提案や、長期間の開発行為によって竣工までの間にできる遊休地を近隣に開きコミュニティの拠点とするなどの時間のデザインと言えるようなプロジェクトには、ユニット11ならではの、一定以上の規模があり、時間があるからこそなしえるデザインの可能性が拓かれていた。
また、行政と協働した取り組みにも、住宅地開発の中で宅地からダイレクトにアクセスできる、全体計画と連携した公園の設置やRC造の積層型集合住宅から立地の特性を生かした木造平屋への公営住宅の建て替えなど、果敢なチャレンジを見ることができたのは、大きな成果であったと思う。民間と行政、ディベロッパーと住民といった従来の枠組みを超えた連携によってこそなしえた計画が少なからずあった。また、マンションと高齢者の施設を合築するプロジェクトなども、従来の単なる合築ではなく居住者の生活行為を重ね合わせる計画となっており、これも既存のビルディングタイプを超えるものと言えるだろう。今後はこうした仕事の領域や建物の種別を超え、また建物の竣工だけを目標としない、空間的にも時間的にオープンエンドな姿勢が必須になってくるという予感がした。もちろんそこにグッドデザインと言える「美しいデザイン」が伴っていることは必須であるが。
一方で、海外からの応募や海外における作品には、同じ尺度では測れない饒舌さ大胆さも見ることができたのは大変興味深かった。もちろん、日本が先に到達した価値を共有してもらうこともあるだろうし、そのエネルギーから日本のデザイナーが学ぶもの少なからずあるように思った。

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山梨 知彦

建築家

12-01 産業のための建築・空間・サインシステム、12-02 商業のための建築・空間・サインシステム、12-03 公共の建築・空間・サインシステム、12-04 ランドスケープ、土木・構造物、12-05 街区・地域開発、12-06 産業・商業・公共建築のための構法・工法

「産業商業公共の建築・インテリア」を対象としたユニット12の今年の状況を一言で言えば、「当たり年」であった。
建築系のユニットには毎年多くの応募がありグッドデザイン賞の中でもいわゆる激戦区であるのだが、今年は例年に比べ質が高いという感触を持った。実際にも、他のユニットと合同審査で選ばれる「グッドデザイン・ベスト100」にも10作品が選出されるなど、審査中に感じていた応募作品の質の高さが、数字として客観的に表れた結果になった。
ここ数年の建築系ユニットでは、「アクティビティ」や、運営の「仕組み」といった「ソフト」系へ関心の高まりが見られた一方で、「もの」や「素材」といった「ハード」系への関心が薄れ、「かたち」の喪失や希薄さが顕著になっていたように思う。しかし今年は、ソフト系への関心はそのままに、それをしっかりと建築へと落とし込んだ作品が目についた。「アクティビティ」から「かたち」への明確なブリッジングがなされていることが、他のユニットを交えた議論の中でも高い評価につながったのだと思う。加えて、「土木」や「ランドスケープ」や「建築」といった既存の枠組みを超えた、説得力のある「かたち」を生み出している作品が目立ったことも、今年の特徴だった。
一方で、仕組みやアクティビティに重点を置かれた作品であっても、結果としての建築やモノとしての存在感が希薄な場合には受賞を果たせない結果となった。同時に、美しい作品であっても、その裏にアクティビティや、合理性や、社会性といった意味の読み取れない「かたち」は、評価する手掛かりが審査委員の間で共有されず、苦杯を舐める結果となったのだが、ここに分類される作品が思いのほか多かったことも指摘しておきたい。
次の時代を先導するであろう、美しくありながらもかたちだけに止まらずアクティビティとつながり、きちんと意味をもったデザインが、今年は勝利を収めるという順当な結果になった。

→ この審査ユニットの受賞対象

鹿野 護

アートディレクター

13-01 メディア・媒体、13-02 一般・公共用コンテンツ、13-03 業務用コンテンツ、13-04 広告・PR手法、13-05 展示・ディスプレイ、13-06 ブランディング・CI/VI、13-07 フォント、13-08 一般・公共用パッケージ、13-09 業務用パッケージ

本ユニットでは主にメディアとコンテンツ、パッケージが審査対象だ。一見、これらはかけ離れた領域のように捉えられる。しかし、発信する側が社会へ提供したい「価値」をユーザーに気づかせ、継続的に使ってもらうためのデザインとして考えると、その役割には共通するところが多い。
今回、審査ユニットとして大事にした審査基準としては、単なる装飾にとどまらず機能性を持っていること、新たなコミュニケーションを創出していること、コンテンツと外観が無理のない一貫性を持っていること、である。こうした基準を持って応募を俯瞰して捉えてみると、今年の本ユニットの傾向としては「掛け合わせ」「インバウンド」「コモディディ化」という3つのキーワードが浮かび上がってくる。
もっとも大きな傾向としては「掛け合わせ」がある。これまであった資源同士を掛け合わせて、新しい価値創造に成功している例が数多く見られた。緩衝材×浮世絵、チョコレート×せんべい、コーヒー×AI、伝統芸能×デジタル、農業×日本酒などなど。その中でもベスト100に選出された「渋谷PARCOの工事仮囲い」(18G131129)は、現実と漫画をシンクロさせた鮮やかな「旬」のデザインであるし、「久保田 雪峰」(18G131085)は、パッケージの完成度のみならず、アウトドアで日本酒を楽しむという新たなユーザー体験の創出に成功しているデザインである。
次に「インバウンド」だが、これは近年増加傾向にある訪日外国人数や、2020年の東京オリンピックという大きな節目が反映されたと考えられる。実際、海外に向けた文化発信や、訪日外国人へのホスピタリティを意識した応募が多かった。特に「GACHA」(18G131137)は、観光の終わりに小銭が余ってしまうという一見些細な課題に着目し、空港での新たなビジネスプラットフォームを生み出した好例だ。
その一方で「コモディティ化(一般化)」という傾向があった。今年は際立った先進性や独創性を感じるものが少ない傾向にあったように思う。このユニット領域のデザインが成熟するとともに、安定期に入ったということも考えられるが、その状況を反映してか、既知の資源を掛け合わせるデザインが多かったのが印象的だ。今後こうした状況が続くとすれば、斬新さやインパクトだけではなく、より本質的な価値創出や問題解決ができているか?という点が評価のポイントになってくるだろう。

→ この審査ユニットの受賞対象

ドミニク・チェン

情報学研究者

14-01 一般・公共用アプリケーション・ソフトウェア、14-02 一般・公共用システム・サービス、14-03 保険・金融サービス・システム、14-04 一般・公共用機器インターフェース

今年のユニット14はユニット区分の再編もあり、二次審査数・通過数ともに例年より少ない数に留まった。その中、ベスト100には5件が採択され、素晴らしいサービス・プロダクトも目立っていた。普通、一般向けサービスといえばB2Cと言われる営利的視点の事業を指すが、同時に「公共」の視点を孕むものが例年に引き続き、高く評価されたように思う。行政が担うべきだがうまく展開できていない領域に企業やNPO、大学等の研究機関が自主的に取り組み、「利」と「義」を両立させる方法を模索していることは社会全体にとっても非常にポジティブなこととして捉えられる。個人的には、今年の審査テーマのひとつであった「美しさ」とは、このような社会改編の機運を感じさせ、声なき声を掬い上げたり、包摂的な関係性を醸成したりするようなサービス・プロダクトを高く評価した。
以下に、ベスト100入りしたユニット14のサービスを振り返る。
難病支援アプリである「SMAiLEE」(18G141138)は、高額になりがちなSMA(脊髄性筋萎縮症)の医薬治療を補完する取り組みとして、当事者の家族が自宅でリハビリを行い、その様子を医師とネットを通して共有することで知見を蓄え、よりよい治療のかたちを探ろうとしている。津波避難訓練アプリ「逃げトレ」(18G141139)は、アプリを通して津波被害の可能性が高い場所でヴァーチュアルな津波の可視化を使って避難訓練が行えるものだが、このアプリの利用データを解析することで現状の避難経路の問題点を探るという目的も兼ねている。この両者に共通するのは、情報サービスの利用データを蓄積することで、よりよい治療や防災に役立てようとする研究的な姿勢である。とかく「AIが最適化します」という陳腐な商売文句があちこちで見られる現在において、良質なデータを集めることで未解決問題に取り組むという未来志向の設計は高く評価できる。
洋服の仕立て直しサービス 「ループケア」(18G141142)と、ぬいぐるみのための専門病院「ぬいぐるみ病院」(18G141141)は、両者とも古いものを修繕し、愛着をもって長く使うという意識を促進するサービスである。柳宗悦の『雑器の美』が説いたように、なんでもない身近な日用品を愛用するということは人間の自律的な価値生成の運動であり、この二つのサービスはそのような能力の発達を支援するものとしても評価できる。
最後に、地域包括ケア支援システム 「ナラティブブック秋田」(18G141140)は、老病死のプロセスを医師と患者の双方の視点を交えて記録し、遺族にとっての貴重な遺品にもなる本を提案している。まだ実例が二件であるにも関わらず、審査チーム一同が今後の社会にとって重要な取り組みであると同意した。近代医療は客観的な診断技術を推し進めてきたが、今後は主観的価値の問題とどう補完させるかということが重要になってくる。ナラティブブックは、その問題に対して先鞭をつけるものであり、現代を生きる私たち全員にとって大事な視点を喚起させてくれる。
今後ともユニット14には、上記のような優れて社会的な視点を持ったサービス・プロダクトが引き続き応募されることを祈る。

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廣田 尚子

デザインディレクター

15-01 業務用ソフトウェア、15-02 業務用システム・サービス、15-03 業務用機器インターフェース、15-04 社会基盤システム/インフラストラクチャー、15-05 ビジネスモデル、15-06 研究・開発手法、15-07 産業向け意識改善・マネジメント、15-08 その他産業向けの取り組み

ユニット15の応募プロジェクトは、社会の課題を浮き彫りにしている。「全グッドデザイン賞の受賞結果を見ると時代の傾向が読める」というフレーズは、昔から多くの人が語っているが、ビジネスモデルとビジネスソフトを扱うユニット15では、喫緊の課題解決の糸口をサービスとして具現化するため、とりわけ傾向が表れやすい。今年は「働き方改善」の年であった。ソフト、社内活動、サービス事業等、対象のカテゴリーは多岐に渡り、働く現場のシステムを改善する良いサービスが集まった。その特徴は3点ある。1つ目は、就労者の心の問題を丁寧に扱い、役職を持たない若い人の視点や意見を活かした仕組みが計画されたことにある。2つ目は、中間管理職の意識や業務を変えることで、全体の動きが変わることを示す事業が多かった。1と2を合わせると働き方改善の課題は、管理業務の改善が着目された。3つ目は、AI化が進んだことで、ルーティンワークから人を開放するサービスやソフトの傾向が多く見えたことだ。働き方改革は長く叫ばれているが進まない、という認識が一般的だが、今年の応募を見るとインサイトの把握を深く行い、問題の本質を捉えて「人が人らしく働く」ための新しい切り口を提案している。つまり洗練したデザイン手法に基づいた質の高い提案事業が増えている。多面的なカテゴリーによる優れたデザインによって、日本の働き方に変化が起きることを期待している。
応募数の増加も例年同様に著しい。ユニット15の応募件数は、一昨年から昨年、そして今年と、それぞれ1.5倍ペースでの増加となった。応募件数と社会における実プロジェクト発生件数の増加は同じではないが、課題解決のために必要で行われたプロジェクトが「デザインだ」と認識され、応募に至った価値は大きい。「ビジネス環境をデザインする」ことによって、心の豊かさと問題の解決を両立した社会に近づくことを願う。

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岩佐 十良

クリエイティブディレクター

16-01 教育・推進・支援手法、16-02 個人・公共向けの意識改善、16-03 地域・コミュニティづくり、16-04 社会貢献活動、 16-05 その他一般・公共向け取り組み

ユニット16の審査対象は「一般・公共向け取り組み」。主に「ソーシャルデザイン」「コミュニティデザイン」と呼ばれる分野の作品である。世の中には社会的意義のある素晴らしい取り組みが多数ある。その中で「グッドデザイン」と言える取り組みとは、どのようなものなのか。

審査委員の間でもっとも議論となったのは「その取り組みは美しいのかどうか?」。グラフィックやプロダクトデザインでさえ、その「美しさ」に対する基準はまちまちだ。さらに有形無形の「取り組み」の美しさとなると、評価には幅広い視点が要求される。審査委員はさまざまなジャンルのプロであるが、それぞれの見地から作品の社会的背景を読み解き、いかに新しい提案がなされているのか、問題解決の提案がなされているのか、そして将来の可能性に関して、まるで当事者が集まっているかのように様々な議論が繰り返された。

もう一つ、重要な審査項目となったのが、「仕組み」、すなわち「プロセスのデザイン」である。デザイン的思考によって生み出されたプロセスが、どのように社会を変えたのか。この点に関しては新規性だけでなく、実績も踏まえて評価を行なった。ユニット16の応募作品には数年前、場合によっては10年以上前から始まったプロジェクトも多い。受賞作品を見て「なぜ今?」と思われるかもしれない。しかしそれは、そのプロジェクトの成果が今、大輪の花を咲かせたことを意味している。

そして最後に。ご自身の応募した作品が惜しくも受賞に至らなかった方にぜひ知っていただきたいことが、今年の応募作品のレベルが極めて高かったことだ。私は今年で3年目の審査委員を務めさせていただいたが、毎年、レベルが上がっていることを実感している。昨年、一昨年であれば二次審査を通過している可能性の高い作品が、多数、不通過となった。不通過だったからといって、けっして「グッドプロジェクト」でなかったわけではない。悩んで、悩んで、選から漏れてしまった作品が多かったことをお伝えしておきたい。

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渡辺 弘明

インダストリアルデザイナー

4年ぶりに韓国ユニットの審査をさせて頂いた。
その様相は、エントリーの半数近くが特定の数社に偏り、分野も限られていた当時に比べ、多様なメーカーから幅広い分野の製品がエントリーされていた。変わらないのはデザインクオリティの高さ。取り分け、お家芸とも言える情報機器関連製品は相変わらずのレベルの高さを維持している。例年に比べ、エントリー数は減っているものの、ベスト100に選出された2つともこの分野のモノからである。すでにコモディテイ化していると言えるプロジェクターとPCディスプレイであるが、まだこんなアイデアがあったかと思わせる柔軟な発想、先進性があり、ディテールまで良く作り込まれている。両者ともその革新性の背景にはデザイナーのレベルの向上はもとより、主要部品を自社開発している点も見逃せない。韓国が有機ELやLCDなどのディスプレイ、半導体に強みを持っていることが、この分野での革新的なデザインを生み出す一因であることは否めず、それらをベースに開発された製品の優位性は暫く続きそうである。
家電のエントリーも多い。健康に関わる製品、とりわけ空気と水に関わるモノが多数を占めているのも特徴。空気清浄機、浄水器は平均点も高く受賞数も多い。中小企業、ベンチャーからエントリーされた製品には大企業には手を出しづらい小規模な市場向けにアイデアあふれた完成度の高い製品も見受けられた。反面このところ常連とも言えるメーカーからの製品には、アイデアに新しさが見られず横並びな感じを受け、そろそろ飽和した感があるというのも審査委員一同の正直な感想である。
モノに限らずコトへの関心も高まっている。伝統工芸の発展を、デザインを通して促すプロジェクトや地方都市の活性化をイベントと洗練されたデザインにより達成させる取り組みなどは今後の動向も注目され、さらに新しい取り組みにつながる可能性を秘めている。
MADE IN KOREAは、言うまでもなく幾つかの分野では世界の市場を席巻しているが、市場の小さい韓国内にターゲットを絞ることなく、ワールドワイドで求められる製品を供給、世界中の競合と戦い、力をつけた。デザインに於いても情報機器、家電のみならず自動車などの分野でも韓国人デザイナーの台頭が伝えられている。かつてはグッドデザイン賞を目標にものづくりに励んできたという韓国人デザイナーの話を聞いたことがあるが、もはや隔世の感さえ感じてしまう今回の審査であった。

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山田 遊

バイヤー

今年のグッドデザイン賞の台湾審査は、日本国内での審査と比較して、その通過率は相対的に低い結果となった。とは言え、日本から参加した審査委員と、台湾国内の審査委員で構成されたユニット内では、建設的な提案や活発な議論が積極的に交わされ、今、振り返っても、非常に充実した内容の2次審査であったと言える。特に、今回の台湾審査に参加された柴田委員長からの提案により、近年、台湾国内で人気が沸騰している、複数のプレイヤーで対戦するビデオゲームを競技として捉える、エレクトロニック・スポーツ(e-Sports)向けに開発されたパソコン本体、及びその周辺機器の、そのほとんどが長時間の使用に堪えるため本体の放熱性を重視し、また、電飾を施すなど、形状においても加飾性の強いデザインを、グッドデザイン賞としての視点からどのように評価するか?という点については、とりわけ長い議論の時間が割かれることとなった。そのような議論を経て、最終的に上位に残ったベスト100候補については、日本からのベスト100候補と比較しても全く遜色の無い、とりわけ質の高いデザインが、広い分野から出揃ったことからも分かるように、近年、台湾におけるデザインのクオリティが総合的に目覚ましい発展を遂げていること、さらに、以前より定評のあった工業製品に代表されるプロダクトデザインの分野だけでなく、むしろ、メディア・パッケージなどのグラフィックデザイン、また、一般・公共向けの取り組みのデザインなど、より広い分野において、明らかに質の高いデザインが増えてきていることが印象的だった。一方で、住宅を中心にインテリアデザインや建築の応募は、その数こそ非常に多かったものの、残念ながらこの分野に関しては、2次通過のクオリティを備えた応募がそもそも少なく、こちらは今後の成長に期待したい

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朝倉 重徳

インダストリアルデザイナー

香港ユニットは中国の全地域からの応募を対象とし、形のあるなしを含め、全ての領域が網羅される。応募数は昨年の約1.5倍で、香港ユニット設立以来増加を続けている。要因は中国産業の発展に加え、グッドデザイン賞の普及、そしてデザインが経営価値として認識され始めたことが考えられる。

中国産業発展の要因の一つとしては、アリペイやウィーチャットペイのような決済システムの変革が可能にしたシェアバイクなど、新しいサービスが注目されているが、今年の応募の中では、システムや仕組みデザインで目立つ提案はなかった。一方で、もう一つの傾向であるものづくり産業の活性化においては、世界の生産拠点という位置付けから脱却し、自社ブランド開発を推進する動きが見られた。生産拠点で培った技術や設備をベースとしたスタートアップやベンチャーなど若い企業からの応募も多く、全体の印象としては開発意欲が感じられたが、個々に見ていくと、製品化を急ぐためなのか開発途中の試作品による応募が目立ち、外観に対する評価は厳しくせざるを得なかった。さらに憂慮すべきは製品コンセプトが希薄なことで、対話型審査でもスペックの説明に終始するところが多く、開発思想、生活シーンとの関係、社会問題の解決など聞きたい内容はほとんど伝わってこなかった。グッドデザイン賞としては、その目的が外観の評価から未来の標準を見つけ社会を良い方向に導く役割に移行しているということもあり、できるだけモノの背後にある考えを汲み取り、引き上げていこうとしているが、期待に沿うような魅力的な提案は少なかった。外観とコンセプト、それぞれの課題によって今年の受賞率は低迷した。

このような状況の中で、他社に水を空けて多くのアイテムで受賞したのが、ベンチャーからスタートし、短期間で急成長している小米科技(Xiaomi、シャオミ)だ。必要十分な機能を高い質感で仕上げ、低価格で提供するバランスの良い製品開発を特徴とする企業で、昨年もベスト100に2アイテムが選出されている。今年も勢いは止まらず事業領域を広げているなか、特筆すべきは、アイテム数が急増しても決して品質を落とさず、プロダクトアイデンティティーをコントロールしていることだ。これはデザインを経営資源として理解し、強力にマネージメントしているからこそできることで、高く評価できる。ただ、一つ気になることは、そのアイデンティティーを含め、オリジナリティが見えにくいことだ。経営方針には様々な考え方があるだろうし、デザインに於けるオリジナリティの判断は難しい問題だが、新興ベンチャーが手本とする大企業に成長したからには、十分配慮した製品開発が望まれる。

今年の香港ユニットでは小米一社が目立つ結果となったが、中国経済発展の状況から考えれば、各分野でもっと高いレベルでの群雄割拠が見られてもよかったはずだ。来年は、本来の中国の産業競争力がグッドデザイン賞の審査に集結することが期待される。

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