グッドデザイン賞受賞概要

2019年度|審査報告会レポート

[ユニット04 - キッチン/生活 雑貨 & ユニット05 - 家具・家庭用品]

2019年度グッドデザイン賞審査報告会
[ ユニット04 - キッチン/生活 雑貨 & ユニット05 - 家具・家庭用品 ]

日 時: 2019年11月2日(土) 17:30〜18:30
ゲスト: 川上 典李子委員(ユニット04リーダー)、安西 葉子委員(ユニット05リーダー)

ユニット4:成熟市場にも、まだまだ配慮の余地が多くある

川上 ユニット4の審査においては、審査員それぞれの経験に基づく知見やデザイナーとしての経験をもって、時間の許す限り手にとり、細部にも目を向けながら、ディスカションを重ねました。審査対象は身近な品々やキッチンツール、雑貨と幅広く、手頃な価格の品が多いのも特色です。
アイテムではすでに開発、製造されているものが大半で、グッドデザインのなかでも成熟していると思われる分野ですが、そのなかでも配慮されるべき余地がまだまだあることに気づかされます。開発過程で行われた実に細かなリサーチや検証の様子や、こうした配慮が実現できるのか、と審査員が驚かされる点も多々ありました。
審査対象は各地の産地との連携が非常に強いのも特色です。例えば陶磁器や金属素材の品々などでは、その背後に産地の現状があります。伝統的に受け継がれてきた素材や技術や工夫を、この先10年、20年、30年とどう発展させていったら良いのか、いろいろな課題に直面している状況も浮かび上がってきます。それら背後にある様々な状況に対して課題を解決しようと取り組まれたプロダクトが、受賞結果に多数含まれています。
規模の大きな企業でも、自社の強みを活かし積極的な取り組みや新規事業、ブランディング拡張での試みが見られます。このような活動の経緯と最終的に着地したプロダクトとしての完成度がいかにバランスよく共存しているのかが、審査の際に特に議論の時間を費やした点です。
ユニット4からの受賞対象は35点でした。中小企業からの応募も多く、少人数で日々工夫しておられる企業も含まれています。特徴のあるものをいくつか、審査時のポイントとともにご紹介します

焼き物 [1616/arita japan](グッドフォーカス賞[技術・伝承デザイン])

川上 400年の歴史がある有田焼の産地で企業が行った商品開発です。歴史を誇る一方で、窯元の大半は業務用食器などの発注を受けてのうつわ作りが中心というのが現状となっていました。継承された技術をいかに生かしていけるのか、後継者をどう育てるのか、開発、製作したものをどう発信していくのかなど、課題は多く厳しい状況でした。これはそうした背景における一つの提案として、企業と外部のデザイナーによって行われたプロジェクトです。産地の伝統を尊重し、踏襲しながらも従来の有田焼にはなかったデザイン・アプローチを実現し、その結果、産地には徐々に変化がもたらされていきます。
通常、ある産地における窯元と窯元はライバル関係となるのかもしれませんが、そうした枠をも取り払って、一丸となって課題に取り組もう、自分たちの活動の地を活性化しようという動きもその後、広がっていきました。企画した企業とデザイナーはもちろん、有田の人々を鼓舞したこと、皆の活動のきっかけをもたらしたことの評価もこのプロジェクトの特徴です。2013年に販売が始まったこれらの品々は生産が継続され、発展的な状況を生んでいます。まさに大きな共振の力を発揮しているところが評価されました。

テーブルウェア [HIBITO](グッドデザイン・ベスト100)

川上 デイリー・スタンダードのテーブルウェアを開発しようという目的のもと、海外のデザイナーと開発したプロダクトです。アイテムごとに国内の異なる産地を丹念に調べられ、全体がテーブルウェアのセットとして成立するべく、各々のクオリティを同じ水準で実現している努力を高く評価しました。時間を費やして丹念な開発となっていると同時にデイリー・スタンダードという目的を達成すべく価格も抑えています。産地に負担のないよう、長期的な関係を前提とした生産計画を立てることで、ユーザーが買いやすい価格を実現していることも重要な評価ポイントです。

計量スプーン [やくさじ](グッドデザイン・ベスト100)

川上 金属加工の産地で業務用厨房用品の開発、製造やOEM製品の製造を行ってきた社員10名ほどの小規模企業による軽量スプーンで、自社からの発信をするべく、自社ブランドを設けて開発されている製品の一つです。よく考えられていて、従来の計量スプーンの常識を一新しています。軽量のしやすさはもちろん、柄が長くされていることで軽量と同時に食材をまぜたりすくったりでき、瓶に入れたときに内にスプーンが落ちず、取り出しにくくならない、使用後の洗浄もしやすいなど、調理に関わるさまざまな行為がしやすい形状、サイズとなっています。配慮に配慮を重ねて細かいところまで実現しているのです。時間をかけたくてかけられないことも多い現代の調理のあり方やコンパクトなキッチンなどライフスタイルに合う点も評価されました。

着火機能付きお香 [hibi 10MINUTES AROMA](グッドフォーカス賞[技術・伝承デザイン])

川上 歴史のあるマッチの製造企業とお香製造の企業がチームを組んで開発したプロダクトで、マッチをつける行為でお香を楽しむことができます。現在、製造が減っているマッチの製造企業の積極的な提案です。時代のなかで伝統的な素材や技術からつくられる道具、生活での使われ方が変化していくなか、同じ志を持つ人々がチームを組んで課題解決に取り組んだ、チームビルディングとしても非常にいい事例です。

hibi」も「1616/arita japan」も、産地が今後どう存続できるのか、関わる人々の危機感があるなかで、自分たちで発信して開発しなければならないという意識と情熱のなかから開発されたものであり、なおかつ生まれ出たものの姿もきちんと配慮されていて美しい、という対象として、今回のベスト100にも入りました。

ユニット5:幅広いジャンルだが新しいモノの開発が難しい生活用品分野

安西 ユニット5は、ユニット4から更に範囲が広がって、生活用品から介護用品、防災用品そして仏壇等までを審査する、かなり幅広いユニットです。モノづくりの現場に近いデザイナーや専門家が審査を担当しています。
幅広いジャンルではあるですが、新しい技術が豊富な分野ではないので、新しいモノの開発はとても難しいことはよく理解しています。そこで、どういう商品を世の中に提案しているか、どういった思想の元に新しいモノを開発したかということを重点的に見ていきました。
ただ、ユニット5からの受賞数は25件と、通過率は比較的低い結果になりました。グッドデザイン賞の審査基準に基づいて審査をしていますが、基準をすべて満たしているように見えるものであっても、本当にグッドデザイン賞に値するのかどうか、本当にこれを皆さんに勧められるかどうかを最後まで議論をしました。その中で、いくつか特徴的な受賞対象を紹介したいと思います。

ゴミ拾いトング [サンカ ゴミ拾いトング (L/M/S)](グッドデザイン・ベスト100)

安西 ゴミ拾い用のトングとして開発された商品です。シンプルでモダンなデザインが一番の特徴です。素材はアルミなので、他のスチール製トングと比べ、かなり軽量化されています。構造も特徴的で、パーツ自体は市場にあるものと樹脂のパーツを組み合わせて構成しています。分解とリサイクルが容易に可能な点など、モノのあり方が非常にスマートです。そして開発面では、樹脂パーツ自体のバリエーションを増やすと、このトング以外にも、他の展開も期待できます。

消火器 [+ 住宅用消火器](グッドフォーカス賞[防災・復興デザイン])

安西 最初は審査委員の中でも「白と黒に塗っただけ」という声がありましたが、実は塗ったことによって、消火器の意味が変わってきました。開発の意図としては、通常の赤い消火器は家庭用として取り入れることはなかなか難しく、一般家庭の中に置いてもらえないことが多い。その課題に対して、インテリアの中でも違和感がないような存在をするために、白と黒そしてマットで仕上げました。それは形状のデザインではなく、姿のデザインで、非常に効果がありました

音知覚装置 [音をからだで感じるユーザインタフェース「Ontenna」](グッドデザイン金賞)

安西 耳が不自由な方の新しいコミュニケーション・ツールとして開発された、振動と光で音を表現できる音知覚装置です。開発者は学生時代からプロジェクトをスタートして、音を振動に変えることに気づき、卒業後は富士通に入り約8年かけて開発しました。今年発売されたこの商品は、非常に洗練された美しいデザインになっています。スイッチのような装置で、充電も容易にでき、たとえばろう学校では先生と生徒のコミュニケーションがスムーズにできるというように、商品として完成度が高いことが評価されました。富士通さんは全国のろう学校へ無償配布されたり、より楽しく更にコミュニケーションが広げることができるようなワークショップも全国で開催されています。モノづくり及びそれを普及する活動を含め、戦略的に活動されていることが高く評価されました。

川上 この対象はプロダクト開発において重要なポイントが多々あり、高く評価したいと思います。新しいプロダクトの開発においては、いかなる問いを持つのかから始まり、その問いの設定が重要となってくるのですが、何をどう変えていくか、どういう状況を作りたいか、開発者の問題意識、そしてそれに深く向き合うほど、広がりが生まれていくのだということを、説得力をもって示している良例だと思います。
障がいのある人とない人が一緒に音を体感でき楽しめるということは、インクルーシブ・デザインの観点からも評価したい事例です。それも、個人の問いや想いから始動したプロジェクトが、熱意によって大手企業での開発チーム設立へと発展し、社会実装への道筋がつくられていったということ。開発後も製品を積極的に広める活動が展開されているなど、それぞれの段階で共鳴する人々の力によって進められてきたことも伝わってきます。共振力としての注目すべき面がうかがえます。

棚 [Alex Products Alex Shelf](グッドデザイン・ベスト100)

安西 アルミの押出構造材メーカーが開発した美しい洗練されたシェルフです。メーカーのノウハウにより、10ミリの厚さで80キロの重さに対応できます。もともと家具メーカーではないのですが、独自の技術を持った構造材メーカーが、自社の技術を集約して、さらに美しい、世界に通用するような洗練されたシェルフを完成させたことが評価されました。

システム収納家具 [USMハラーE](グッドデザイン・ベスト100)

安西 スイスのメーカーによるモジュール式システム収納家具です。今回の応募対象は、この家具の照明システムですが、彼らがこだわったのは、30年間ユーザーに愛されたシェルフを変えずに、スマートに照明システムを導入したという点で、そこが大きな評価ポイントとなっています。照明のチューブは基本的なシェルフの構造材になっていて、チューブの中に電気を通すシステムを開発し、非常にスマートに電源のオンオフができる照明システムです。完成度の高さ、ロングライフのあり方として、お手本になるようなデザインとして高く評価されました。

掛ふとん [グレー羽毛掛ふとん 綿生成パッケージシリーズ](グッドデザイン・ベスト100)

安西 無印良品の布団ですが、特徴はパッケージです。従来のパッケージは不織布でしたが、新しいコンセプトとして捨てられないパッケージ、長年収納袋として使えるものにしたいということで、布製のパッケージが採用されました。パッケージを布に変えるだけならばシンプルですが、コンパクトにするために改良を重ね、布団自体も改良されました。薄いけれども保温性がある布団を開発し、コンパクトなパッケージに収めて、グラフィックも非常に洗練されています。全体を通して、ユニット5では持続可能、サステナブルなコンセプトは少ない傾向がありましたが、これはとても良い例で、プラスチックの使用をやめることだけではなくて、パッケージを変えつつ、さらに改良して、取り入れやすいような工夫がされています。

まとめ:背景やコンセプトがしっかりしている対象が評価されやすい

安西 グッドデザイン賞の最近の傾向としては、背景やコンセプトがしっかりしている対象が評価されやすいと感じています。ただ美しいだけのものより、それは何のためにつくられているか、どういうことを達成するための商品かということが審査のポイントになっていきます。
今回のグッドデザイン賞のキーワードでもある「美しさ」というところはもちろんありますが、最終的にはそれが生活の中にあることで豊かな気持ちになったりすることも、モノのあり方としては欠かせないところだと感じました。最終的には、これを欲しいか欲しくないかということは大事なポイントで、総合力を持ったものは評価されやすいです。

川上 開発の背景でどのような考えが持たれ、具体的に何を解決するのか。また、今日の生活のあり方や使用される環境がきちんと想像されるなど、社会の現状に軸足を置いたうえで、今後の生活を豊かにしてくれるものの開発となっているかどうか。モノとしての美しい佇い、価格とのバランスなど、やはり総合的な観点でいかにバランスが保たれているかという点が重要だと考えます。
グッドデザインということは、次の時代の指標となっていくものとして、解決の仕方においてもヒントとなる視点を投げかけられるものであるかどうかが大切です。様々な面から、一つのプロダクトを丁寧に検証し、実現に向けた検討を重ねていくということは容易なことではないかもしれませんが、難題にも屈することなく実現されているプロジェクトがこのように幅広くあるのだということを伝え、身近にある品々の今後を深く思考するヒントを示していくことも、グッドデザイン賞の忘れてならない重要な点だと思っています。