[ユニット17 - ビジネスモデル・メソッド]
日 時: 2019年11月2日(土) 13:00〜14:00
ゲスト: 石川 俊祐 委員(ユニット17リーダー)、太刀川 英輔 委員、廣田 尚子 委員、ペニントン マイルス 委員
はじめに:そのデザインによってもたらされたものが、いかに社会に貢献したか
石川 今日ここで紹介するグッドデザイン賞受賞の好事例の評価ポイントを通じて、次の応募へとつなげていっていただければと思います。今年のグッドデザイン賞のテーマであった「美しさと共振する力」は、このビジネスモデルの審査においても意識されていました。このユニットからは、全部で42件がグッドデザイン賞を受賞しました。
太刀川 評価の基準としては
・つながっていなかったものがつながったのかどうか。
・それによってもたらされたものがいかに社会に貢献したか
を見たと思います。
ビジネスモデル [ボーダレス・ジャパン]
石川 社会起業家のビジネスはとかくスケール小さくなりがちですが、1〜2億のスモールビジネスを束ねたエコシステムを形成し、起業家同士が切磋琢磨しながら支え合いながら、ビジネス全体を大きくしていく仕組みです。起業ノウハウを提供しながらサステナブルに運営していけるように工夫しているところも良かったと思います。
シェア工房 [メイカーズベース東京]
太刀川 ビル1棟をシェア工房にしていて、レーザーカッターや3Dプリンターなどが共用できるものです。メイカーを始めるハードルを下げる場になっています。空き物件の活用と起業を助ける仕組みがうまくマッチしていると思いました。
石川 ここで作っている人の製品を売り出したり、販売コーナーがあったり、ネットショップで売ることもできるなど、単に場の提供だけでなく、そうしたバックアップの仕組みも伴っていることも高く評価されました。
アプリ [TABETE](グッドデザイン・ベスト100)
廣田 食品ロス問題は、特に小規模の飲食店を圧迫している社会課題です。いくつか似たものがありますが、こちらは最初に始まったものでもあり評価しました。
ビジネスモデルというカテゴリーのユニットでありますが、単にお金が入ってきてうまく回っているビジネスを評価しているのではなく、「ビジネスデザイン」という観点で見ています。単純な「仕組みでいいね!」ということではなく、社会課題を良い価値に変えているところに「デザイン」の力が働いている、という点を評価しています。
石川 「ビジネスデザイン」とは、社会課題もしくは顧客のニーズに対して、ゼロから考えてどうビジネスとして成り立たせていくかをクリエイティブに考えていくことだと思います。そこもデザインとしてとらえ、評価しています。三方良し、五方良し、というような、関わる人すべてが幸せになっていることも、よいビジネスモデルと言える要素だと思います。
AIを用いた創薬支援サービス [drug2drugs](グッドデザイン金賞)
ペニントン こちらは、AIやソフトウエアを活用して、新薬の開発を早く、しかもローコストで行えるようにした仕組みが高く評価され、グッドデザイン金賞を受賞しました。
ユニット17の「ビジネスモデル・メソッド」というのは面白いユニットでした。従来の「デザイン」の概念を超えた提案、範囲の広がりをいちばん感じることができるのではないかと思います。その端的な例がこのdrug2drugsで、医療や科学の分野にまでデザインが広がってきていることを実感しました。
石川 新薬開発は気の遠くなるような年月や投資が必要です。しかも成功確率が低い。これは、ゼロからメソッドを開発していることも素晴らしいと思いました。
富士フイルムは、今年大賞にも選ばれています。組織として一丸となってデザインに取り組んでいるのが伝わってきました。ビジネスモデルとしては、富士フイルムが、フィルムのメーカーから化粧品や医療・医薬品のメーカーとして、デザインを取り入れつつ転換してきたことそのものを評価してもよいとさえ思います。
太刀川 富士フイルムについて言えば、化粧品のアスタリフトは、自社の持つリソースを見つめ直して開発し、成功した事例です。そこから他の分野に進出するようになっています。日本の他の企業も、同様の考え方で復活を遂げられる可能性があるのではないでしょうか。
本屋 [文喫](グッドフォーカス賞[新ビジネスデザイン])
石川 入場料1,500円を払えば、何時間いてもいい本屋です。本も、新書は置いておらず、独自のセレクションとなっています。入場料が有料だから、ということもモチベーションとなって、普段手にとらないような本を手に取るきっかけが生まれ、そこに思わぬ出会いが生まれます。既存の書店よりも本が売れていて、なおかつ飲食の売上もきちんと取れているそうです。
新しい体験を提供する、多様な知に出会う場所とビジネスモデルが融合しています。今後さらに店の数を増やしていくと聞いています。
書店機能付きライフスタイルホテル [箱根本箱](グッドデザイン・ベスト100)
太刀川 これも多様な本との出会いと宿泊がセットになっている宿泊施設のビジネスモデルです。長時間滞在して本と出会い、買うこともできます。書店発の新たな提案になっていて、書店のビジネスモデルの変革の事例だと思います。既存の枠組みへの危機感に企業が迅速に対応した結果が現れています。
ペニントン イギリス人としてヨーロッパの視点から見ると、とても日本的なエレガントなデザインだと思います。小売業の生き残りという課題に直面している、ヨーロッパの各社も学ぶところのあるデザインだと思いました。
ビジネスモデル [世界の貧困層を救うFinTechサービス](グッドデザイン金賞)
石川 与信が得られないため車を買うことができない貧困層に、IoT技術を活用してローンで車を買うことができるようにした仕組みです。車には遠隔制御できるIoTデバイスが付いていて、月々支払いがされている限り車は動きます。支払いが滞ると起動制御されて車が動かなくなり、支払いを督促できるシステムになっているので、貸し倒れがないのです。一部、日本の地方でも行われています。
太刀川 買った車がお金を稼ぐ手段になる。そのことでお金を借りられるようになっています。フィンテックも使われていて、力のあるプロジェクトだと思いました。もう少し、わかりやすいビジュアル・コミュニケーションだとなお良かったですね。いいことをやっているのを、せっかくなのでもっと広く伝えるようにブランディングやビジュアルなども整えることも重要だと思います。
フレームワーク [ビジネスモデル図解]
石川 こちらは、そもそもビジネスモデルとは何か?を考えさせてくれる本です。いろいろなビジネスモデルを図解してくれていて、皆が使えるツールキットとして公開されたことにも意義があります。
ペニントン デザインも美しく、ビジネスモデルの図解も素晴らしい。この本をどう使うのか、実際の活動に展開していく方法が示されていると、なおよかったと思います。
まとめ:ビジネスモデルのデザインで未来を作る時代
太刀川 今まで繋がることができなかったところに、新たな道筋ができるのがビジネスデザインです。矢印は一方向ではなく、双方向のものもあり、太さもいろいろ。そこをデザインで補ってこそ、伝えやすくすることができると思います。
廣田 現状では、問題解決のための新しい仕組みがビジネスデザインとして多く応募されてきていますが、「少し先の未来に、一番理想的なものは何か」を考えて、それを実現するにはどうしたらいいのか、というような、もっとジャンプアップした発想のものがあってもよいのかなと思いました。ビジネスモデルのデザインで未来を作る時代が来ているのではないでしょうか。
ペニントン 今年の応募の中では、地球温暖化など環境やサステナビリティに関する視点のものが少なかったように思います。そこにもシステム・デザインの視点を入れたものを期待したいですね。こういうジャンルの応募が来年増えればいいなと思いました。
石川 サステナビリティに関連して言うと、長く愛される会社を運営していくという視点も必要です。働く人や事業内容、その会社の存在意義自体もデザインをする必要があると思います。新しいビジネスを考えるときには、自分たちなりの5年先10年先にどういう景色を描くのかまで考えて取り組んでほしいと思いました。