グッドデザイン賞受賞概要

2019年度|審査報告会レポート

[中国審査ユニット]

2019年度グッドデザイン賞審査報告会[中国審査ユニット]
日 時: 2019年11月1日(金) 19:00〜20:00
ゲスト: 倉本 仁 委員(中国審査ユニットリーダー)、Shi Xiaoxi 委員

はじめに:先進的、文化的なアプローチで急速な進化を遂げている中国デザイン

倉本 中国からのグッドデザイン賞への応募は年々伸び続けているのですが、今年はさらに昨年より大きく増加しました。特筆すべきは、やはり応募対象の品質の向上です。
特に家電製品・精密機器のカテゴリーにおいては、世界的な企業に成長した複数の中国大手企業が製品のレベルを高く引き上げ、それに追随するメーカーやブランドも高品質なデザインと製品企画を実践しています。
製品の細部に至るまで美しく丁寧に製造され、また新しい素材提案なども積極的に行われており、まさに世界の工場と呼ばれる中国ならではの状況が応募対象から見てとれました。

キャッシュレスやECの進化、スマート家電の普及などに見られるように、人々のライフスタイルも先端的進化を遂げており、そこに関連して発生する社会課題に対する取り組みも、製品やサービスとして落とし込まれて提案されています
また、大企業がイニシアティブを取った環境問題への取り組み、啓蒙活動が応募の中にいくつか見られたことも、中国での審査会での大きな特徴の一つでした。企業PRの一環ではあるものの、中国に暮らす膨大な人口が積極的にこれらのサービスや活動に参加し、すでに大きな効果と実績を上げているということからも、消費者の高い関心が窺えます。
世界経済の状況から見ても、大きな進化を遂げている中国という国が、製品やサービスの開発においても先進的、文化的なアプローチを実践していることをまざまざと感じた中国での審査会でした。

Electronic Piggy Bank [Little Can](グッドデザイン・ベスト100)

子どもがご褒美やお小遣いをデジタルマネーで受け取ることができるようにした、面白い触れ合いを提供する電子貯金箱。製品を押すと「チャリン」という音がしてお金が貯金箱に入った感覚を味わうことができ、底面のインターフェイスに金額が表示される。

Shi この製品は今の中国を象徴するような製品だと思います。香港会場では中国国内のライフスタイルに合わせた製品が多く見られましたが、このデザインが伝えているのは、子どもにお小遣いを貯める習慣を身につけさせること。中国ではキャッシュレス決済が進み、現金を使うことが少なくなってきていて、今の中国で本物の貯金箱を作る意味はあまりありません。
この製品の最大の意義は、新しい方法で良い習慣を受け継いでいくことだと思います。それが技術の適材適所でもあります。
他の製品に例えると、たとえばテスラが第一世代の電気自動車を出すときに、電気自動車はフロントグリルから空気を取り入れる必要はありませんが、この構造や造形をなくすと、一般消費者は「これは車ではなく、おかしい」と思ってしまいます。そのため、テスラの第1世代の電気自動車は、伝統的な自動車の形を継承していました。しかし、次世代のテスラは、自動車の持つべき固有の造形から離れつつあり、消費者の受容度も高まっています。
この製品にも貯金箱のような物理的な造形がありますが、もし最初から完全にアプリだけであれば、消費者には受け入れられないかもしれません。実は、この製品は物理的な造形で消費者に受け入れてもらい、電子化の技術を試して、最終的には伝統的な習慣を保存しているのです。過去を受け入れ、未来を歓迎する、ということを具現化しています。

倉本 この製品は本当に面白いと思います。今回、香港での審査会では、日本人審査委員4名、中国人審査委員4名、合計8名の審査委員で審査を行ないましたが、この製品をベスト100候補に推薦することに、中国人審査委員の全員が賛成し、日本人審査委員は全員よくわからなくて手上がっていませんでした。その後、中国人審査委員から説明してもらい、日本人審査委員もこの製品の良さを理解して、ベスト100に全員で推薦することになりました。このように、徹底的に議論を行うグッドデザイン賞の審査システムは本当にいいなと思いました。

Smart Home Control Platform [Mi Home /Xiaomi Home](グッドデザイン・ベスト100)

スマートフォンという一つのデバイスだけで、シャオミ社製の家電製品のほとんどをコントロールできるスマート・ホーム・コントロール・プラットフォーム。ユーザーはネットワークに接続し、シャオミ社製のスマートデバイスを操作できる。

倉本 これも、今の中国を象徴する製品です。シャオミ社から提供されているサービス、あるいはIoT製品のプラットフォームをみると、本当に今現在の中国を実感できると思います。中国の消費者の生活は皆一緒にリッチになっていて、非常に大きなマーケットになっています。
欧米の企業や日本の企業には、膨大なマーケットをリードするブランドがありますが、これから中国から出てくる、将来的に大きいマーケットをリードするブランドになるのは、シャオミ社が一番早いかなと思います。今後インドネシアやブラジル、アフリカのように人口が多い地域に、シャオミが出ていけば、その国で爆発的な成功ができるかもしれません。

Packaging Structure Design [One Paper Box](グッドデザイン・ベスト100)

たった1枚の紙でパッケージボックス全体を構成し、さまざまな電気製品に利用するパッケージシステムのデザイン。シンプルなアイデアではあるが、1枚の紙を3次元の形状に変え、形の異なるさまざまな製品のケースとして用いる。プラスチックを使わず、リサイクル可能な紙だけを使用していて、環境にも貢献している。1つの製品だけではなく、シャオミ社のほとんとすべての製品にこのアイディアが実装されているスケール・メリットも評価された。

Shi これもシャオミ社によるシステム・デザインです。この対象の印象はとても深く、私達はとても長い時間で討論しました。非常に優れたシステム設計で、一つの製品のために設計されたものではないことが分かります。パッケージ・デザインが難しいのは、製品によって包装の構造が異なっていて、このような制限の下で、シャオミはその考え方を統一して、1枚紙の構造で、できるだけ多く分野の製品の包装問題を解決しました。私たちが目にしているのは、紙で包装するシステムですが、実はシャオミの内部では、すでにデザインを会社の戦略レベルの高さまで高めているはずです。1枚の紙の包装方式は決して新しいものではなく、多くの他の業界、例えば靴の分野では、いつもこのように包装しています。優れているのは、製品ごとに同じパッケージで統一することができ、ブランド識別性にも優れていることです。

倉本 これには素晴らしい点が二つあり、まず環境問題への配慮、二番目は還元利益の考えです。
2番目の利益還元に関して、シャオミは一定以上の利益は、全て消費者に還元すると宣言をしています。こういう企業は世界中にありますが、企業利益を増やすために、いろいろな手段やデザインを考え、儲かるほど儲かる分を消費者や社会に還元するという姿勢にとても感動しました。

まとめ:中国が世界の工場として蓄積してきた経験が花開いている

Shi 今、Made in Chinaは、非常に高いレベルまで向上しています。大きな中国の国策に「中国製造2025計画」もあります。香港の会場で見た応募対象は、製造業の観点からも非常に良いものでした。東京会場の製品と比較しても、品質に差はなく、日本製品よりも優れているものもありました。
日本と中国の審査会には違いが2つあると感じました。
ひとつは、香港会場で多くのIoT製品が応募されていたことは、現在の中国市場の発展に合わせて、中国国内ではなじみのあるライフスタイルの現れです。日本の会場と比較すると、日本製のIoTの製品は少なく、伝統的なものが多い印象を受けました。
ふたつめには、ユーザー中心の考え方です。例えば中国国内の製品は、価格性能比コストパフォーマンスを求めて、合理的な価格性能の基礎の上で、とても良い製品を作っています。中国国内には一連の熟成した製造チェーンがあるので、コストパフォーマンスを重要なポイントとして考えることができます。この点は日本の製品にはないところだと思います。コストパフォーマンスは、最終的には消費者に還元されます。中国国内では、限られたコストで優れた製品を作ることが非常に多く、これらの製造業での成果は、ここ数年、中国が世界の工場として蓄積してきた経験と切り離すことができません。

倉本 電化製品の応募が大変多く、世界中の電化製品が全部この審査会場で見られるのではないかと思うほどでした。特に携帯電話、スマートフォン、ヘッドホンが非常に多くありました。
デザインと製造の技術など、中国の製品が日本より高い局面も多く見受けられました。やはりリアルに作っている場所が一番進化しているんですよね。だからこそ、中国から世界をリードする商品ブランドが出て欲しいと思います。例えばアップルやテスラのような、商品開発やクオリティの話だけではなく、ブランドとデザイン全てが絡んでいる会社が、間もなく中国から出てくると思います。僕は昔から中国によく仕事で行っていて、明日も深圳に行くのですが、実感しているのは、今のものづくりの高いクオリティから、世界をリードするブランドが出てくるのは時間的の問題だと思います。