[ユニット11 - 店舗/オフィス/公共 機器設備]
日 時: 2019年11月1日(金) 14:30〜15:30
ゲスト: 五十嵐 久枝委員(ユニット11リーダー)
はじめに:審査のものさしは1つではない
グッドデザイン賞の審査委員は、それぞれの専門家が集まっていて、審査においては、多角的な議論をして、多面的に見ています。物差しは一つ、二つではないのが難しいところです。
昨今のプロダクトは、当たり前のように美しいものが増えてきていて、単に造形がよければいいというだけではなくなってきている傾向があります。ネットワークにつながった機能、アプリなど、ひとりで使うのではなく集団で使うものが増え、その中で、些細なことでもいいから便利なものにアップデートしていくことに苦労しているのが窺えました。
このユニットから受賞した対象の中から、印象に残ったものについてお話していければと思います。
衛生状態モニタリングシステム [ルミテスター Smart](グッドデザイン・ベスト100)
グッドデザイン・ベスト100に選ばれたこちらの製品は、飲食店や食品工場、医療現場などで人の目には確認できない汚れを検知する器具です。10秒間で結果が出るので、検査場に送る手間も省くことができます。食中毒などの防止に役立てるだけでなく、アプリとも連動し、店舗のデータを会社でも管理できるすぐれものです。製品自体、エアコンのリモコンのようで、衛生器具としてハードルを上げすぎず、初心者でも使いやすくなっていて、清潔感のあるデザインが高く評価されました。
チェア [エニー](グッドデザイン・ベスト100)
グッドデザイン・ベスト100に選ばれたチェア [エニー]は、キャスターに至るまで全て色を統一しているチェアです。本体の線の細さ、キャスターの小ささなど細部に至るまでこだわっていて、難しさを克服してデザインの理想の形を目指している点が評価されました。ワークエリアからカジュアルなシーンまでいろんな方に共感を得て使ってもらいたいという思いが名前のエニーに込められています。
小便器 [センサー一体形壁掛小便器:YU-A21A、YU-A21A-TU]
今年は、公共トイレ・レストルームのプロダクト製品に特筆すべきものが多くありました。中でも受賞対象には、清掃性の向上という観点が共通しているようでした。来年には東京オリンピック・パラリンピックの開催も控え、ますます訪日外国人の増加が予想される中、日本のトイレは美しいと来訪者に印象付けるようなものでありたいと願っています。
その中で、こちらの製品は、コンパクト化を一つのミッションに掲げ、表面積を従来の2/3として、清掃も簡便化させ、清掃時間の短縮も実現しています。清掃員の雇用難と高齢化問題の解決に寄与している製品といえるでしょう。造形的にもとても美しい。
パブリック用大便器 [レジリエンストイレ(災害配慮トイレ)BC-P112SA/便器、DT-PB150CH/タンク](グッドフォーカス賞[防災・復興デザイン])
また、災害時でもいつも通りに使えるトイレとして、グッドフォーカス賞[防災・復興デザイン]に選ばれた、こちらのパブリック用大便器は、ペットボトルを逆さに入れて差し込むことで、通常5L必要な水を1Lに節水することができます。外側のデザインは既存のものをそのまま使用しており、手をつけていないので、審査の過程で「ここにデザインはあるのか」という議論がありました。ですが、災害の最中において、普段使っているものの安心感に価値があるという考えから、推すことになりました。非常時に1Lの水を用意できるのか、という疑問も出ましたが、被災の程度にはグラデーションがあり、状況によってはこのトイレがもっとも必要な備えになる場合もあると思われます。トイレの使い方を含め、防災訓練を行うなどの啓蒙活動をしているということも評価のポイントとなりました。
電飾ファブリックサイン [ルーファス](グッドデザイン・ベスト100)
グッドデザイン・ベスト100に選ばれた電飾ファブリックサイン [ルーファス]は、電飾サインを普及させるために誰もが簡単に設置することができるものが必要という考えからできた製品です。このタイプのサインは、一般的にはアクリルが多く、自重によってフレーム自体が頑丈なものにする必要がありますが、これは樹脂フィルム製なので、印刷されたものを宅配便で送ることもできる手軽さがあります。女性一人でもしわなく張ることのできる画期的なものです。アクリルに比べて CO2排出量も少なくなっている点も評価に繋がりました。
屋外遊具 [PLAYRING](グッドデザイン・ベスト100)
最後に、同じくグッドデザインベスト100の屋外遊具 [PLAYRING]は、昔からあるジャングルジムや滑り台などの鉄製遊具の要素が複合しています。地面に接しているのが点と線のみで、危なげな見た目がかえって子どもにとってワクワクする感じを与えています。白い遊具は汚れが目立つのではないかという意見もありましたが、汚れていくさまも楽しく、遊んだ時間の経年変化となるのではないかということで納得しました。大人がいる空間に存在していても違和感がないデザインも評価のポイントとなりました。
まとめ:評価してほしい点や苦労したポイントを訴求してほしい
今年は一次審査(※ウェブに登録された情報のみで審査)において、応募者は、応募対象の「特筆すべきポイント3点」を記載する項目がありました。ここで、今後応募される皆さんにお願いですが、この項目ではデザインそのものからは読み取れない情報や、一番評価して欲しいのはどこか、どこに苦労したのか、を書いておいていただければと思います。
もう一つ付け加えるとすれば、対話型審査の時には、すでに登録済みの情報の繰り返しにならないように、現物を見ても分からない部分をプレゼンテーションしていただくのが良いのではないでしょうか。
審査委員会では、ベスト100は「今年の顔」になるものと位置付けています。ベスト100の受賞対象をみて、考え方や環境に対する姿勢など、デザインに込められている想いを参考にしていただけたらと思います。