グッドデザイン賞受賞概要

2019年度|審査報告会レポート

[ユニット14 - 建築(産業・商業・公共)]

2019年度グッドデザイン賞審査報告会[ユニット14 - 建築(産業・商業・公共)]
日 時: 2019年11月4日(月) 16:00〜17:00
ゲスト: 永山 祐子 委員(ユニット14リーダー)、浅子 佳英 委員、林 厚見 委員

はじめに:これまでの「建築」としての評価ではないところまで包括した結果としての「グッドデザイン」

永山 このユニットは毎年多くの応募をいただいていて、まさに激戦ユニットです。内容も、かなり多岐にわたっているというのが特徴で、それぞれ評価のポイントが違うものを並べて審査する状況で、いつもすごく迷うところです。このユニット14からは、97件がグッドデザイン賞を受賞しました。
グッドデザイン賞における建築の賞の意味について、よく議論しました。建築賞では、基本的に単独の建築としての素晴らしさや、作品としての評価ですが、グッドデザイン賞においては、作品性もありますが、広くこのデザイン的な手法、やり方、事例がいい意味でみんながまねできるようなもの、受賞によって、その分野が発展していくとか、この先広がりをもっていけるということが評価の指標となりました。
建築は、建築家だけが作るものではなく、仕事を発注する側も重要で、その問いの立て方の鮮やかさや切れ味が、最終的に建築として現れてきたときにも出てきます。グッドデザイン賞においては特に作品そのものだけではなく、問いの立て方も包括して見られているという印象でした。1人の力が作るのものではなく、この時代にどういうものが必要なのかを鮮やかに見せるようなものを作っていかないと上位の賞までにはならないと感じました。

浅子 上位まで残った「銀座ソニーパーク」と「須賀川市民交流センターtette」の2つの設計者と関係者の方と、受賞展のときにトークセッションをしたんですが、2者とも新しいパブリックスペースのあり方を提案しているものでした。ソニーパークは企業による商業施設なので厳密にはパブリックスペースではなく、逆に市民交流センターは市の公共施設で、この2つは構造的には違うのですが、その中で気づかされたのは、2つとも非常に似た考えで、どちらも扉がオープンスペースでずるずると街につながっています。老若男女さまざまな人が特別な用事がなくてもぶらりとやって来れて、空間も非常に快適で、実際に使われています。
プロジェクトの差異を超えて、今どういう空間を人々が求めているかが、似てきていると個人的には思っています。今回ソニーパークが評価されたことで、そんな時代が現れているなと思いました。

 私は普段の仕事では、どちらかと言うとプランナー、与件を作る側にいます。私がグッドデザイン賞の審査委員を務めることになったのも、建築分野におけるグッドデザインの評価が多面的、多層的になってきているという認識に基づいていると感じました。
そもそも不動産デベロッパーは、事業の制約の中で、かっこいい空間をつくるとか、遊び心を表現するとかは難易度が高いです。ただ、建物が街の中で造られていくときに、その制約に対して、新しい発想で、どう新たな価値を作り、かつ、それを単体の建物だけの文化価値・事業価値を越えて、その先に企業としても対社会という意味においても、新しい価値の連鎖を見出だしていくようなチャレンジをしているか、という点をしっかり審査しようという意識を持っていました。
そういう意味でも建築というジャンルを、その評価自体を越えていかざるを得ないというような場面もありました。建築ユニットから上位賞に選ばれたデザインは、これまでの意味での建築としての評価ではないところまで包括した結果として、グッドデザインであると評価されているものもかなりあります。今後ますますジャンルとして「建築」というものを、建築という言葉で想起される領域に限定された視点ではなく見られていくべきだし、そうなっていくだろうと、審査しながらも感じた次第です。

都会の中の実験的な「変わり続ける公園」 [Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)](グッドデザイン金賞)

永山 ソニーという企業がここにビルを造る計画を一旦やめて、みんなに解放するような場所を造ったというところに、価値の転換を感じました。日本で一番土地の高い銀座に、こんなふうに開放してしまうという発想の転換、それによってソニーが新しい評価を得ています。会社にとってもプラスになり、街に対してもプラスになっている。今後、企業が新しい価値の考え方を自由にいろいろなパターンで考え出してくれるといいと思いました。

市民交流センター [須賀川市民交流センターtette](グッドデザイン金賞)

浅子 図書館と美術館と子どもの児童福祉センターみたいなものとの合体で、普通はプログラムが切れるところを、立体的に床を少しずつずらしながら大きなワンルームとして作った建築です。実際は、音の問題などで3つをワンルームに作るのはとても難しい。この施設は、トラス構造の床の懐のところが設備空間+吸音装置になっています。子どもが発生する音を、図書館までは伝えない構造です。今まで建築は視覚表現が大きかったのですが、それを「音」というこれまでチャレンジしてこなかったデザイン領域に取り組んでいて、写真写りでは非常に難しいが、実際に行くと非常によくできている、かなりレベル高い作品となっています。

蒸留所 [MITOSAYA薬草園蒸留所](グッドデザイン金賞)

 担当された建築家は中山英之さんです。元々あった薬草園の設備の改築の案件ですが、この環境自体が非常にクリエーティブな新たな事業の拠点になっています。フルーツ・ブランデーの製造拠点でありつつ、人が集まって、その場所で造られ方を体験したりとか、自然と触れ合う接点にもなっています。千葉県の大多喜というローカルエリアを見事に再生したという総合的な場づくり、ものづくり、仕事づくり、文化の漸進が見えている点が高く評価されました。全体のプロデューシングに対する評価ともいえます。江口宏志さんというプロデューサー(社長)と、建築家、技術プロデューサーがチームとして美しい世界をつくっています。

浅子 自分たちで自分たちの生きる世界をつくるということを、ある種DIY的にやったところがいいと思いました。働き方、生き方、暮らし方は今、変革の時期にありますが、とはいえ、それ全てを全部自分でデザインすることはなかなか難しい。彼らはそれを非常に鮮やかにやってのけました。現代的に、その「場」をつくったという意味で、デザインが高く評価されました。

複合ビル [渋谷ストリーム](グッドデザイン・ベスト100)

永山 こちら案件の魅力は、この足元です。驚くほど共有空間が大きく全体的に開いていて、特に注目するのは、元々は「裏」だった渋谷川に向かって開いています。これは非常にチャレンジングなことだと思いました。元々あんまり誰も見向きもしない川を、渋谷区と共有しながら良くしようということを今もずっとやり続けています。みんなの意識を変えた、表裏を逆転させたというところがすごく素晴らしいと思いました。超高層ビルが周りとどう関係を結ぶかというのは、すごく重要なところだと思いますが、これはすごく良い事例になっていると思います。

レンガ壁による広場創出と余白のデザイン [コトニアガーデン新川崎](グッドデザイン・ベスト100)

浅子 最初、写真だけ見たときは分からなかったのですが、二次審査の1日目の帰りに立ち寄ってみました。実際に行くと、非常に面白い建物でした。集合住宅、商業施設、老人福祉施設、保育園、よくありそうな、だけど、実際に一緒になることは難しい施設を通り庭みたいなところを介してつなげている、珍しい複合施設です。庭のような、道路と公園がつながったような、人が行き来する部分に、壁やベンチを作って滞留できるようになっていて、それが目隠しになったり、複数のプログラムを持っているので、つながっていても、そんなに嫌な感じがしない。むしろそれ自体が非常に街にとって密接さを生んでいると思いました。
デザイン自体は表面的に見えるところはあるけれど、実際に1つずつ計算と細かな操作がされていて、そこを評価しなければと考えました。

ボタニカルガーデン [アートビオトープ「水庭」](グッドデザイン・ベスト100)

浅子 こちらは、新しい風景、人工的な水際です。パッと見、自然の風景に見えますが、人工的に造った池です。ちょっとずつ水を流しながら、ずっと滞留するようなシステムを作っていて、自然現象にも見えるような、独特の新たな風景をデザインし直している案件です。

永山 こちらは単なる水たまりではなくて、全部防水した本当にちゃんと造ったため池になっていは。そもそも人工的に造っている日本庭園のように、これもすごく自然に見えますが、日本庭園的考え方で造り上げた風景、もう1つの風景だろう、新しい表現なんじゃないかという点が評価されました

複合商業施設 [無印良品 銀座 (読売並木通りビル)](グッドデザイン・ベスト100)

 これは建築というよりも商業のデザインという捉え方ですね。商業施設なり集客施設なり、リテールの形と言ったときに、この全体の複合施設のあり方ということで、建築的な評価ということはあまり議論の対象にはなっていなかったように思います。

永山 ホテルとしては新しいビジネスホテルのあり方だし、展示スペースもあったりして、商業施設の複合的なあり方として、あの場所でやることとして面白いんじゃないかという評価だと思いました。

オフィス / コミュニティスペース [アンドビレッジ]

浅子 こちらは、2階建てですが4階建てに見える建物です。この1階と2階の間にある空間、ここは採光のための空間でもあり、設備のための空間でもあり、さらに構造の空間でもあります。可動間仕切りは非常に高価なものですが、それを構造を少し下げることによって安価な間仕切りで区切れるようになっています。ソフトの問題とハードの問題をなんとか建築的に応えようとしている意味で非常に意欲的な対象として評価されました。

これからのオフィスのあり方とは?

浅子 オフィスでの応募はたくさんありますが、上位賞で評価されるものは多くありません。基本的に、テナント・オフィスでも自社ビルでも、可変性を考えてフラットな床を用意する、というところから建築そのものが変っていないと感じます。実際、今までは建築的なオフィスを評価するときの内部空間の評価は、ほとんど差がないというのが正直なところです。
インテリアは働き方改革やフリーアドレスなどで変わっています。そのハードのほうとソフトのほうが全く違うレイヤーで動いていて、そこが現実的にはリンクしていないと感じます。ハードのほうが、もう少しソフトの変化を細かく見ていった上で、どんな建築物を提案できるのかというところまでできると、評価も上がると思います。そこができている建築の応募対象は非常に少ない。働き方が変わっているのは世界的な傾向でもあるので、非常に大きなチャンスがあるのですが、事業の問題、予算の問題で変わっていかないのかと思います。そこを変えない限り、表現のデザインに集約されてしまい、グッドデザイン賞での評価は難しい、という状況というのは続くのではないかと個人的には思いました。

永山 オフィスの応募は多かったですが、微細な差しかなく、評価が難しかったです。例えば、省エネに向かっていくビルの全体といった大きなオフィスのあり方、環境、意匠的な差、それぞれ試みがなされていますが、決め手になるようなところを見つけにくいのです。公共デザインのプログラムなどと比較すると、社会的なメッセージも若干弱く見えてしまいます。

 デベロッパーの都合を考えると、オフィスで建築表現として派手に見せるのは難しいのかもしれません。
「渋谷ストリーム」のように足元のイノベーションはありうると思います。例えば、パブリックに接続していくところの楽しさだとか、働く人にとって価値とか、街からのリスペクトされる価値とか、間の領域をどうするかに結構チャンスがあるのではないでしょうか。そこをオフィスの事業価値、資産価値にうまくつなげて考えているデザインは、まだ見えてきていないと感じます。収益を無視して、単にコモンスペースを開きましょう、という時代ではもうないかなと思いました。

海外から応募の作品の中で印象的に残った作品

永山 台湾の食料庫のリノベーションによるミュージアム「U-mkt」です。かなり長いプロジェクトで、街、周囲との関係を緻密に作りながら、最終的に場所を造っています。職員がこの近くに住んだり、周りとの関係をよくしながら、地域の価値を上げていったそうです。地域価値を上げる1つの活動として素晴らしいと思いました。

 日本では今後、建築のプロジェクトでチャレンジをする機会が増えていくとは言いにくい環境ですけど、リスクの取り方がもっとうまくなるべきだろうと思います。普通にやったら経済的に厳しいんじゃないかと思えるようなリスクに対して、いや、こういうリターンがあるんじゃないかと、リスクとリターンを両方並べて前向きに考えるボキャブラリーがもっと発掘されるということが大事だと思います。そういうヒントになるものが選ばれたという側面があると感じました。