グッドデザイン賞受賞概要

2019年度|審査報告会レポート

[ユニット18 - 取り組み・活動]

2019年度グッドデザイン賞審査報告会[ユニット18 - 取り組み・活動]
日 時: 2019年11月11日(月) 15:00〜16:00
ゲスト: 服部 滋樹 委員(ユニット18リーダー)、近藤 ヒデノリ 委員、山出 淳也 委員、山崎 亮 委員

ジャンル・ミックスな活動や取り組みが増えている

服部 この活動・取り組みという審査ユニットでは、地域での活動や、企業が地域と一緒に取り組んでいる活動、行政が行っている仕組みや、それをサポートする人たちなど、社会の中で新しくイノベーションに取り組もうとする方達の活動や取り組みを審査するカテゴリーになるかと思います。
審査対象は基本的には無形で、エントリーいただいた資料をじっくり読み込んでいます。そして、担当した審査委員は、それぞれが今まで実践してきたことを踏まえて、審査対象を読み解いています。
グッドデザイン賞の中では比較的新しく設立された審査ユニットではあるのですが、年々応募数が増えています。

山出 審査ユニット全体で考えると、ジャンル・ミックスというか、横断するような活動が結構多いと思います。そういう意味では、社会全体に関係することがこの審査ユニットに集まりやすいというのは一つ言えると思います。

山崎 付け加えると、僕が以前審査に携わった時に比べて、とにかくデザインの捉え方が広がり、全体の応募数がすごく増えたと思います。それと同時に、以前だったら「これは受賞だね」と思うものが、今では当たり前になっていることが非常に増えた印象です。そういう意味では、審査を通じて、Gマークの活動指針でもある「発見・共有・創造」の「発見」に値するようなものを選ぼうとすると、泣く泣く受賞できなかったものも結構あった気がします。

山出 サスティナブルな社会を作っていくための「責任」というものに美しさを求めるという考え方がすごく増えている気がします。逆に言えば、そういう観点がないと、いくら形としては美しくても、姿勢としてはどうなんだろうという審査対象はすごく議論になりました。とてもいいプロダクト・サービスを作る、だけどその代わりに何かないがしろにしているものがあるのではないか?とか、そういうことに対して、審査としてちゃんと見るようにしていました。

「取り組み・活動」の審査5ヶ条

服部 美しさとは何か、誰にとってのデザインかということはすごくよく考えました。また、今回、この審査ユニットでは「美しさと共振力」という今年のグッドデザイン賞の全体のテーマにプラスして、5ヶ条的に考えていたことがありましたので、少しあげておきますと、
(1) 本質的な社会課題に着目できているか
(2) 内容や仕組みにオリジナリティがあるか
(3) 表現や成果物(アウトプット)が美しいか
(4) 継続性があり、実績があるか
(5) 社会全体が良いデザインだと思える共感力があるか

というような視点を持って審査をしていました。

山崎 一次審査では、審査委員それぞれオンラインで資料を見ながらやるんですが、まず、自分ひとりで評価をしてから、同じユニットの審査委員のみなさんとの話し合いに臨みます。例えば、僕は最初、全体をざっと見るんです。グッドデザイン賞の全体の審査の視点があるので、それは頭の中に入っていて、さらに何の軸で決めなくちゃいけないのか、何百という応募対象を一度ざっと見た後で、自分なりの基準を決めます。
それでみんなで集まったときに「僕はこう思って選びました」という話をするのですが、「その判断は似てるね」とか「僕はその判断にこの視点を足して審査してみたよ」と議論する中で、このユニットでは5つのオリジナル軸ができました。

先ほどの5ヶ条、実はこれはデザインをやるときの順番と同じです。
1つ目は、デザインを始める時に、課題は何なのかをちゃんと見なくてはいけないのですが、例えば偽物の課題を捏造して解決したフリをするデザインなんかも出てきちゃったりする。これはもう少し詳しく話すと、クライアントからこんなの作ってくれと言われて、作らなきゃいけないものが先にあって、課題をわざと作り出している場合なんかも実はある。難しいところなんですが。だから、まず「(1) 本質的な社会課題に着目できているか」とは「解くべき課題なのかどうか」ということが一番に入っているんです。
2つ目に「(2) 内容や仕組みにオリジナリティがあるか」は、その課題解決は美しかったら良いのか?だけではなく、継続性も含めた内容や仕組み、ここにちゃんとオリジナリティがあるかどうか、他に今まで見たことのあるようなものじゃないかという、姿形の美しさに現れる前の仕組みの部分にオリジナリティがあるかを問うています。
3つ目に「(3) 表現や成果物(アウトプット)が美しいか」では、ようやく成果物やアウトプット、表現だったりに美しさがあるのかどうか、人々がいいねと思えるようなものであるかを見ていて、そして、4つ目に「(4) 継続性があり、実績があるか」。ここで終わるのではなくて、さらに継続性や、あるいはやっている取り組みに実績が見えてきているかどうかをみています。
この4つぐらいは、デザインやプロジェクトをやるときに、僕ら自身もやっていることで、その観点でそれぞれチェックしていこうと思いました。
それで、さらに付け加えたのが「(5) 社会全体が良いデザインだと思える共感力があるか」。共感力がこの対象にあるか、持てるかというのを、全体のテーマの「共振力」ということにくっつけて、このユニットの評価軸にも加えて見ていきましょうという話になりました。だから、結構厳しめに審査している、というのが印象でしたね。

服部 かなり厳しかったと思います。しかも、地域の活動とか、やっぱりいいものばかりで。しかも心が揺れちゃう、感傷的になるものもあるわけです。その中でも心を鬼にして決めなきゃいけないっていうのが、大変な審査だったなと思います。

その内容がしっかり審査委員に伝わるか

山出 審査のために応募対象を読み込んでいく時に、プロダクトであれば実際に触って使ってみて理解を深めるということができると思うのですが、このユニットの審査対象ではそれができません。だから、応募資料に書かれている文章が全てで、審査委員は応募資料に添付されたリンクや動画も全部見るのですが、わからないことも多いです。おそらく応募されたものは、みなさん素晴らしいことをしているものがほとんどだと思うのだけど、その内容がしっかり審査委員に伝わるか、というポイントがいくつかあったなという気がします。
その一つは、その取り組みや活動は「誰がやろうとしているのか」ということで、これがやっぱりすごく重要です。特に地域や社会の課題を解決するときに、「誰がパッションを持ってやっているか」ということと、それが感情論とか主観論的ではなく、ロジックとしてその取り組みを知らない人も読み解ける内容であるか。そこが整理されている対象は、審査の中で審査委員が深く議論ができたので、すごく重要でした。
もう一つ言うならば、やはり「課題や自分たちがやろうとしていることに対してしっかりと懐疑的であるか」ということ。自分たちがやろうとしていることをきちんと検証しているかどうか、そのプロセスを審査委員は見ています。そうでないと、いきなり思いついて今から始めますというようなことに対して、賞を与えることはできないし、そこにしっかり実績やプロセスとしての経験を積み重ねているか、プロトタイプであろうとも、ある段階まで検証し続けてきたか、ということは大きかったかなと思います。

ターミナル患者の夢を叶えるボランティア [願いのくるま](グッドデザイン・ベスト100)

服部 こちらは、ユニット内での議論はもちろんですが、他のユニットの審査委員と話をする時に、これはどういうことなのかとみんなで考えた対象でした。これは、海外の「ターミナルケアを受けている方が亡くなる前に思い出の場所に連れて行ってあげるというサービス」を知った方が、この事業を日本でできないかと思って、学んで帰ってきて、日本で周りの方たちと一緒になって行なっているボランティア活動です。主宰者は中古車を海外に輸出する会社の方達で、まだ始めてから1年ほどしか経ってない活動だったんですが、取り組みに対して、チーム作りも含めて、すごくいい活動だなということで評価されました。

山出 サービスとしては終末医療なんですが、中古車屋さんだけではこの活動はできないから、患者さんをケアする方々にも協力してもらわなくてはいけないし、学生さんに同行してもらうとか、運転できる人が協力してくれるとか、それぞれが持っている技術やスキルを持ち寄りながら、ある人の願いを叶えようとするボランティア活動なんです。
このユニットだけでなく、審査委員会全体で議論になったのは、このサービスは続いていくのかという議論でした。それはビジネスとしてしっかり回るのかということ。ただ我々がこのユニットとして重要視したのは、「目の前にある課題をとにかくすぐに解決していくための、一歩を踏み出そう」としていたことです。そういうことがやっぱり地域では重要です。結果として、それがきちんとビジネスとして回していけるような仕組みを、また違う人たちが次に関わりながらどんどんビジネス化していったり、継続化しておこなったりする仕組みを作れればいいと思ったんです。
全てが完成されてから、世の中に出していくっていうことを、特にこのユニットでは判断の一番に置いているわけではなくて、それよりも社会に対してどうやって向き合おうとしているか、それを色々なテストを繰り返していきながらプログラムを進めているか、ということを重要視しました。

山崎 持続可能かどうかっていうのは、ちゃんとビジネスモデルとして回るかどうか等のチェックとともに、回らなくてもいいんじゃないかと思える規模で進めているかというところも確認しています。
例えば、この「願いのくるま」は、中古車輸出をしている会社が行なっているわけですから、車自体はある。そこに車を運転してあげてもいいよって人を募るのってそんなに難しいことじゃないかなとも思えるんですよね。そして、ターミナルケアをしてくれる施設に行けば、ターミナルケアしてくれる人をボランティアで探したり、出会ったり、繋がっていくこともできる。
少し工夫して行動すればできる個々のことを、オリジナルのやり方で組み合わせてプロジェクトとして進められるのだったら、最初からお金を払って大きくプロジェクトを動かさなければいけないという要素もなさそうなので、これだったら無理なく動いていくかもしれないという風に私たちは判断したんです。
ところが、いいことをやっているんだけど、ある程度お金がないとプロジェクトが回らないよねという対象は、みんなの持ち出しの気持ちでやっている活動とかだと、これって続かないかもしれないねと思っちゃうんですね。
ちゃんと仕組み化されているのかっていうのが気になってきます。
ですから、対象ごとにちゃんと運用できるかっていうのを見る場合もあるし、みんなの気持ちだけ持ち寄って進められる規模だったら、これはこれでいいねと判断できる場合もあるというのは、このユニットの特徴かもしれないですね。

クリニック [かがやきロッジ](グッドデザイン金賞)

山崎 その話でいうと、金賞をとった「かがやきロッジ」も良かったです。今、とにかく高齢化社会で、国の予算も足りなくなってきて、至れり尽くせりの医療や福祉がだんだんできない体制になってくる、というのが数字上で見えています。至れり尽くせりというのは、入院して、薬も出して、患者さんを24時間見ていくということで、医師も看護師も介護士も含めて24時間体制で見ていかなくてはいけないから、これが一番お金がかかります。
で、もしお金の面だけでいうと、自宅にいてくれて、そして地域の人たちが見てくれるということになれば、24時間専門職が見るわけではないので、お金はさっき言ったことよりはそんなにかからない。その両極端の間に、色々なバリエーションがあるだろうということですね。
で、厚生労働省含め、今、地域側の人たちというのは、地域包括ケアとか、地域共生社会というような言い方をしていますが、自分たちの住みなれた地域の中に医療拠点や介護拠点や訪問介護ステーションがあり、そして自宅にお医者さんが訪問診療してくれるという状態を作らなくてはいけないだろうと思っているんですね。
そうすれば、家族や友人が近くにいたり、通学路を通る子供達の声を昔からと同じように聞きながら、そこで最後まで住まうことができるようになるんじゃないか、ということになっています。
で、その時、そういう医療の拠点をどう作るかというところが、このプロジェクトなんですけども、その拠点を作るだけだったら普通に考えれば事務所機能だけでいいわけです。けれど、ここはその事務所機能のスペースを従来の3分の1に抑えて、あと3分の2は地域の人たちが色々と集まることのできる場所にしたんですね。
なぜそんなことしたのかというと、「地域医療」のあり方を地域の人たちがまだまだ全然知らないから、何かあるとすぐ病院に入院しなければいけないとみんな思い込んでいて、お金のかかる方の医療にみんなまだまだ行っちゃう。だから、この「かがやきロッジ」では、地域の人たちがいつもここに集えるという場所を作ることで、「地域の人たちが地域医療について理解できるようにする場所」としてスペースを使っています
そうすると、家族や親戚、誰かに何かがあった時の選択肢の一つとして、地域医療があるよということを言うことができる人達が地域に増えていくということなんですね。
だから、「かがやきロッジ」の空間がおしゃれですねとか、機能的ですねというような話だけでは全然おさまらないような仕組みと、問題意識をきっちり捉えているプロジェクトだったので、文句なしにいいなと思いました。

山出 審査する時に「建物がいいよね」という話はほとんど出なかった。それよりも地域包括ケアという観点から、ケアする方達が地域に出向いて行った時に、地域にこんな課題があったとか、こういう場を必要としているとかいう声が集まってこの場所が出来ていくというのが良かった。
それって先ほどもお話したような、最初から大きくイノベーションしたり、大げさに何か変えるということではなく、「今あるものを集めながら、すぐにできることを動く」ということだと思います。
そういう事例が今回とても多かったし、大きさ・規模感というものを、スケール化しなければビジネスにならないっていう話ではなくて、回せていける範囲みたいなことも今回結構考えました。

近藤 今年初めて審査に参加しましたが、応募対象を見ると日本中の色々な活動や取り組みの中に希望を感じたものが多くありました。例えば「チョイソコ」のように、すごくハイブリットに、現状あるシステムを今、可能な部分を使いながら現実的な解を示している、そういう面もみれてすごくいいなと思いました。

いわきの地域包括ケアigoku(いごく)(グッドデザイン金賞・ファイナリスト)

服部 金賞であり大賞候補のファイナリストでもある「いわきの地域包括ケアigoku」は、「包括ケア」が具体的には何をやっているのかということを、市民の皆さんに伝えるために必要なメディアとして作られた「igoku」というコミュニティであり取り組みです。

山出 この取り組みでは、イベントを中心として、その周りにフリーペーパーだったり、webサイトだったり、いろいろなことが組み合わさっています。「願いのくるま」や「かがやきロッジ」もそうですが、地域包括ケアの問題ってすごく今大きいんだなということを、審査を通して改めて知りました。
この活動が課題としたのが、自宅の畳の上で最後を過ごしたいという願いはほとんどの人が思っていて、でもほとんどの人はその願いすら叶えられない、叶えられていないということでした。人生の中で、辛いことも多かったとしても、亡くなる最後の瞬間は「ああ、幸せだったな」と自宅の畳の上で思うことすらできないのか?という考えからこのプロジェクトはスタートしていると伺いました。
重要な点は、「死」はこの会場にいる方も含め誰もが持っている宿命です。そこに対して、どうやって生きていくかということもあるし、どうやって本当に幸せに最後を迎えられるかということを、家族、本人だけではなく、地域全体で一緒に考えようよということでした。そのためには、話しにくい「死」の話を声に出して、そのことに対してみんなで考えていく場を作ろうという取り組みでした。
「死」ということから、もう少し福祉の広い観点で、地方とか、障害とかいろんなことを「igoku」を通してみんなで考えていくような場づくりもしています。
例えばイベントでは、公園に棺桶を置いてその中におばあちゃんとかに入ってもらって、その様子を子供達が見るという体験をさせる。これだけ聞いたら、ちょっとぎょっとしますよね。
でも、映像を見ていると、子供達の表情がみるみるうちに神妙な顔になっていって変わっていくんです。その時から、子供たちが当事者の顔になっていって、中に入っているおばあちゃんをしっかり見るようになっていました。イベントを通して「死」をみんなでタブーにしないで、一緒にしっかり考えて、一人一人置いてきぼりを生まないという彼らの思いが伝わってきました。そういう想いをしっかりと形にしていく、アウトプットの仕方として色々あるなと思った事例です。
「igoku」では、一次審査から見ている資料に書いてあるのは、少し抑制したような、きちんと伝わる書き方にしていてくれていたから、審査時も大切なポイントが拾えました。「当事者意識があるか」ということや、このプロジェクトで想いを持っている人は誰かというパッションの部分も大事でした。

服部 あとは、オリジナルかどうかというのも結構重要で、その土地にしかないネタとかあるじゃないですか。それを引き出せているかとかも結構見ています。

産地の一番の価値を届けること

山出 ちょっと一つ違う角度からのお話をすると、考え方はすごくいいし、積み重ねた実績もある、今からローンチしようとするものでこれは絶対素晴らしいというものが結構あるんです。特に、産地と都会を繋ぐとか、何かに苦しんでいるところとそれを供給できる場が繋がる仕組みづくりとか。
デザインが誤解されている部分でもあると思うのですが、例えばそういうケースでは、すごく装飾過多とか、いかにもデザインしましたっていうもので繋ごうとしている例が多くあるのですが、でも僕らが本当に欲しいのは、産地のおばあちゃんが作ってくれた素朴な何かということだったりするかもしれない
なので、コミュニケーションのためのデザインがあるとすれば、例えば、産地の一番の価値を届けるということが見えるとすごくいいな、と思います。また、このユニットでの「美しさ」という点で言うと「パッケージのデザインが綺麗だね」なんて、ほぼほぼ話に出ないんです。そして、このユニット以外でもここはあんまり重要ではない。もちろんデザイン賞だから、このデザインが出回っちゃうのはまずいんじゃないの?というのはあるんだけれども、やっぱりきちっと本質が繋がっているか、ということは我々の中ではすごく議論になります。それが出てないものは、いくら取り組みは良くても受賞は難しい。

山崎 くどくなるかもしれないけど、そこはちょっと勘違いされやすいことで、これじゃあダメだろうという見た目のものが出てくることもあります。そのバランスがすごく難しくて。いい取り組みだけれど、さすがにこのアウトプットの成果物だと、伝わらないねというものとか。
審査委員は見た目さえよければいいっていうことは全然思っていないです。でも、グッドデザインを受賞して広く一般に共有する時に、このアウトプットではやっぱりダメだなという時もあるわけで、ここは本当に難しいところであります。

服部 そこでいうと、コミュニケーションを取ろうとしているかどうかっていうことは、表に出てきているはずなんですよ。だから表層の話とかデザイン過多みたいな話がありますけれども、多分、過多というよりは、むしろ誰にコミュニケーションをとっているのかというのが、はっきり見えるデザインというのがこの中ではすくい上げられたりする。そして、そこに共感するなんてことがあるかなと思います。

近藤 装飾的なデザインはほとんど見ていないみたいな話をしましたけれども、似たような取り組みや活動がたくさんある中で、「igoku」はちょっとワクワクさせてくれるデザインというか、そこのクリエイティビティがすごく突出していた。見た瞬間に、それがクリエイターのエゴとかデザイナーのエゴ的な感じというよりも、当事者が本当に喜んでいそうな感じ、とかそういうのが見えたと思います。

山崎 言いつくされたことかもしれないけど、やっぱり、やろうと思っている中身と、その表層とがちゃんと一致しているかどうかを審査委員は見ています。やろうと思っていること・やっていることは誠実で素晴らしい、だけどその表層に現れてきているデザインがあまりにもダメだということであれば、それはもちろんダメなわけです。
また、やろうとしていることの中身は小さくて、見た目がすごく煌びやかに大きく作っちゃったというのもおかしいし、いいことをやろうと思っているのに、その中身に全くそぐわないような装飾過多なものに対しても僕らは違和感を覚えたり。教科書通りかもしれないけど、やっぱり中身と外身の関係度合いを見ているというふうに言えるのかな。

まとめ:「うまいこと考えたな」「うまいこと解いたな」「なるほど!」みたいなところが問われている

服部 先ほどビジネスとして持続性があるのかなどのお話もしましたけれども、今後これからの社会は、ごくごくマイノリティのために生み出される仕組みなども増えてくるんじゃないかと思います。
先ほどからスケールの問題ではなくて、というお話もありましたが、多分、超マイノリティが共に生きる世界みたいなことを未来像として描いている人たちもきっと出てくるんじゃないかなと今回すごく思いました。

山出 大きな話としては、服部さんのおっしゃっていたことに通じるかもしれませんが、経済圏の話が審査のなかでも結構出てきていました。例えばこの部分の経済圏がしっかり回っていく仕組みができたらこの地域は、人は、本当に幸せになるんじゃないか、というようなことを我々は特に考えました。それが色々な形でモデル化されて、繋がっていくっていうこともあるかもしれません。昨年度グッドデザイン大賞を受賞した「おてらおやつクラブ」も、それに近い考え方だと思います。
おそらくこの地域社会に対する課題解決のデザインは、これからすごく大きい意味を持つんだと思います。地域の中から、大きな世界・各地に広がっていくモデルが生まれようとしている中で、もちろんデジタルメディアがあるというのは大きいのだけれども、色々な小さな実践をぜひやってほしいなと思います。
それがまだプロトタイプの段階でも構わないので、それをローンチしながら色んな人たちがそこに参入して、色んな知恵で日本全体を変えていくような取り組みや活動が生まれたらすごく素敵だと思います。
完成してから出てくるっていうよりは小さなモデルをどんどん実践していくっていうことが、すごく重要な今の社会の段階なんだと感じています。

山崎 デザイン賞という名前のところに応募しようとすると、だいたい審査委員の人たちが、「かっこいい」と思うようなものを応募すれば受賞するのかなということを思われがちですし、事実、その評価軸もやはり重要になっている場合もあると思うのですが、でも、ことこのユニットについては、審査委員からそんな言葉が出てこないんですよ(笑)。
だからもし、応募しようとされる方は、審査委員が「その手があったか!」と思えるような何かをぜひ応募してほしいですね。僕らも「賞を与えている」なんていう気持ちは全然なくて、応募された対象を見て「悔しい」っていうか「やられた!」みたいな、そんな気持ちになったものに対して「いいものを見せてくれてどうもありがとうございます」みたいな感じで審査に臨んでいます。
だからもし、このユニットの審査に共感してくださって、取り組みや活動で応募してみようと思っていただけるのであれば、さきほど言った通り、形と中身の関係性は最低限求められるわけですけれども、美しいとか、かっこいいというようなことだけで賞になっていくということはないと知っていていただきたいです。むしろ「うまいこと考えたな」とか「うまいこと解いたな」「なるほど!」みたいなところが問われているユニットだと思って応募していただけると嬉しいなと思います。

近藤 今回感じたのは、デザインがそれぞれ点のデザインじゃなくて、循環になっているなという気がしました。どの受賞対象も、だいたい何かいい循環を地域に生み出していて、それが一方通行じゃなくて、必ずその地域でぐるぐる回っているとか、お金がぐるぐる回っているとか、人がつねに帰ってくる仕組みだとか、それは小さい循環なのかもしれないけど無理ない仕組みになっていました。それが、一つ一つ波紋のように広がっていくといいなと思います。
すごく骨太な、未来に向けたいい循環・いい種がここから発見されて、また次に「そういう循環の生み出し方があったか」みたいな発見が繋がっていく。まだまだ、世の中には課題がいっぱいあると思うので、そういうことの上手く回っていく仕組みが出てきて、グッドデザイン賞を通して広がって、とか、そんな風に色々なことが積み重なっていくのかなと思います。
僕は最近感じるのは、クリエイティビティとかデザインって、オリジナリティもすごく大事なんですけど、いいものがあったらみんなでそれをアップデートしていくみたいな、そうやって発展しているものなのかなと思っています。ですので、今回の受賞デザインが、それぞれの地域や関わる人たちによって、また何か味が加わって、それによってオリジナルなものになっていくというような感じを期待しています。そういうデザインを沢山みて、すごく元気付けられた感じがしました。

服部 そう意味だと、海外からの応募もすごいんですよ。海外で活動されている方たちも、本当にいい事例が沢山あります。特に、アジアからの応募が多いんですけれども、そういったところも参考にされるといいんじゃないかなと思います。今日は、ありがとうございました。